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少女は夜空に広がる明りに顔をあげた。
ちいさな手には光る小さな石のようなものが握られている。途中で拾い、母に見せようと思って持ってきたものだった。
薄暗い空には光り輝くものが敷き詰められ、それと同じように少女の瞳も光る。
彼女にとって、この光は世界で二番目に好きな光だった。
「お母さん」
さわさわと風に乗って踊る草の上を歩いていくと、比較的ちいさな町――村と言ったほうがいいほどの場所に建つ少女の家の前に、見慣れた人影が視界に映る。
「どこ行ってたの? もうご飯よ」
温かい声が耳に届き、少女は微笑んで手を突き出す。
「これ、見つけたの」
きれいでしょ、と少女が続ける前に鋭い怒声があたりに響き渡る。
びくりと肩を震わせた少女を母は素早く家の中に押し込めた。それは、ひどく手馴れた手つきだった。
「お母さん!?」
扉を開けようにも外から母が開かないようにしているのか、どれほど叩いても扉はびくともしない。
聞きなれた怒声は日々続くもの。
どれほどやめてと叫び泣いても、決して変わらなかったもの。
外から鈍い音が聞こえ、母の悲鳴らしき声が少女の耳朶を打つ。
家の中は温かく、テーブルに並べられたできたての料理は鼻腔をくすぐる匂いを漂わしていた。大好きな、母の料理。
「お母さん!! ……やめて!! お母さんっ」
涙が頬に伝う。
力任せに扉を叩いてもそれが開くことはなく、代わりに響く鈍い音が大きくなるだけ。
呻くような母の悲鳴がそれに混じった。
「――やめて、お父さん!!」
少女の手から、きらきらと光る石が音をたてて床に転げ落ちた。




