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不気味に輝く鎧の数は四つ。
派手なドレスに身を包んだ少女に、口元を緩める男たちはいっせいに剣を構えた。
「形は悪くない。――でも、ちょっと堅いかな」
少女が呟くのと同時に、空気が揺れた。
「……ぁ?」
剣を構えた姿勢のまま、男は呆然と自分の体を見下ろす。
そこには深々と突き刺さった剣と、先ほどまで眼前にいた少女が自分と密着するような形でいた。
鎧のつなぎ目に上手く入り込んだ剣からは鮮血が滴り、綺麗に磨かれた床に赤い花を咲かせる。
少女――仁和は剣を引き抜いて崩れる兵士に目もくれず、目の前の光景に固まっているもう一人の兵士に斬りかかった。そこでようやくはっとしたのか、大剣を振る。
しかしそれを流れるように避け、仁和はまた男の胸へと剣を突き立てる。
無駄な動きなど一切ない、流れるような剣術。そして確実に相手を死に至らしめる場所を的確に斬り、己自身も無駄な体力を使わない。
仁和は後方にいる二人の兵士が振る剣を弾きまた確実に胸を刺す。
「……お、まえっ……なんで――」
「この剣、貰ってくね」
がしゃりと、男の持っていた剣を持ち上げ、眉をひそめた。
「重い」
通常剣は〝叩き〟斬る。それには重さや堅さが必要で、片手で振れるような剣ではない。
血に濡れた自分の剣を見てさらに眉を寄せ、それを放り投げた。
そして両手で大剣の柄を握り、試しに振ってみる。
ずしりと手に加わる重み。
あまり大きくは振れないが、一突きで確実に動けなくするなら問題ないだろう。としても、あまり長くは持っていられそうにないが。
「とりあえず、広間に」
まだウィルがいるはずだ。
来た道を戻り、自分の部屋の前を通ってさらに廊下を突き進む。
見た限り侍女は殺されていなく、倒れているのはすべてカルティア国の兵士や敵の兵士だった。いちいち立ち止まって生死を確認している暇もなく、仁和は後ろ髪を引かれながらも大剣を握り締めてひたすら広間を目指した。
「……門」
広間へ行く前の角。仁和の眼前に、兵士が倒れていた。
どっと、心臓が鳴る。
「この、門は……」
そっと足を踏み出し、床に倒れている門番であろう男に近づく。
そして仁和は床に伏している男の顔を確認し、目を見開いた。
「――バロン」
以前下町へ出て行くときに通った門であり、その門を守っていた門番。
仁和は唇を噛み、強く剣の柄を握り締める。
そして、はっと気付く。
この門が破られているのであれば、おそらく出会った兵士らはここから入ってきたのか。
そしてその大半は、王のいる広間へ。
敵の数は不明。
城を落とすのに必要な人員は――おそらく桁違い。
その多くがすでに城の中へ紛れ込んでいるのだとしたら。
「ウィル……!!」
急がなくては。
仁和は剣を握り、床に伏しているバロンから視線を剥ぐように足を踏み出した。




