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甘い香りが部屋に漂い、ふわりと鼻腔をくすぐる。
隣で侍女であるサリーがお茶を淹れているのを横目に、仁和は眉を寄せていた。
ロイアの言葉の意味。
以前にも、不可解な言葉を投げかけれらたことがある。そのすべての意味は分からず、そしてロイアに問いただせずにいた。
「でも、探してってことは……教えてはくれないんだよね?」
なぜだかそんな気がした。
仁和はそっと息を吐き出して、サリーの勧めてくれたお菓子を口に運びながら首をかしげた。
元いた世界にあるクッキーを彷彿とさせるこの焼き菓子は仁和のお気に入りである。
「何か騒がしくない?」
食べる手を止めてサリーを見やる。
廊下から聞こえてくる声は重なり合い、足音もなにやら騒がしい。
普段この仁和に用意された部屋はあまり外の音が聞こえない。なのに、今は部屋の中からでも聞こえるほどである。
「……そうですね、何かあったんでしょうか」
不思議に思ったサリーが首をかしげているのを見ると、彼女も何が起こっているのか知らないらしい。
二人そろって首をかしげていると、木製の扉が軽く叩かれる。
ゆったりしたのではなくなぜか急いでいるように感じられ、サリーが慌てて扉を開ける。
「……失礼します」
現れたのは、全部で六人ほど。その先頭には親衛隊の隊長であるジャンソンがいた。
わずかに強張った顔をむけられ、仁和は思わず身じろいだ。
ジャンソンは深く息を吸い込んで口を開く。
「――王が、婚姻を結ぶと仰せです」
ここ最近晴れ渡っていた空が、わずかに曇り始めていた。




