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「――嗅ぎまわっておられるようですが」
黒い闇に身を包んだ老いた男――ドーリックは、目の前にいる主を見つめた。
「そうみたいだな」
「よろしいのですか」
「どうせわからない」
あの日と違ってこの部屋は明るいのに、主――彼の表情はぞっとするほど無表情だった。
何が彼をここまでするのか。
彼ならここを出ても十分生きていける。障害は多いが、彼ならできるだろう。
なのに、この部屋の主はここから出て行こうとしない。
ドーリックにとって、彼が幸せになってくれるのが一番の望みである。そのためなら、何でもしようと。
部屋の外から、わずかに声が聞こえる。途切れ途切れの声は、主に使われる廊下からはかなり遠いことを知らせる。普段からあまり人を寄せ付けないからなのか、訪問者は限りなく少ない。
老人は俯き加減だった顔をあげ、
「本当にやるのですか?」
と聞いた。
彼のためなら何でもしようと思う。けれど、今回はどうなのだろうか。
「俺に口答えするのか?」
ふっと、瞳が細められる。
射るような眼差しは底なしの憎悪に塗り固められ、それは今でもふつふつとつのっていく。
「……いえ」
日の差し込む今はずいぶんと目立つ、闇を纏った男は頭を垂れる。
「――あなたの、御心のままに」
主である彼の後ろには、大きく構えたカルティア城があった。




