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城内を歩き回り、目についた人に聞いて得た情報は、皆たいして変わらないものばかりだった。
それは戦いがあり多くの兵士や侍女、城内で働いていた人が命を落とし、代わりに入ってきた者たちばかりだかららしい。多くの人の中から、この城に古くから仕えていた人を探すのは容易ではない。
そしてカルティア城の広さに比例して働く人数も半端ではないのだ。
グランディが無理なのであれば王に一番近くにいる存在――親衛隊の隊長であるジャンソンに聞けば一番いいのだろうが、そのせいでウィルに伝わってしまったらと考えると、そうする気にはなれなかった。
「ちょっと休憩」
ずいぶんと城内を歩き回った。
忙しそうにする人の間を潜り抜け、たくさんの荷物を抱えている侍女らに当たらないように歩くのもかなりの体力を使う。
慣れた足取りで仁和は中庭へと進んだ。
最近、何かあれば必ずここへ来るようになっている。暖かな日差しが優しく体を包み込むのが心地よく、綺麗に咲き誇る花が心を癒してくれるのだ。
細く息を吐き出して、仁和は顔をあげ――あ、とちいさく声を漏らす。
渡り廊下を歩く一つの集団。その中心に、ウィルがいた。
こちらには気付いていないようで、ゆったりとした歩調で廊下を歩いている。
太陽の光に反射して輝く飴色の髪に、深い深海を連想せずにはいられない、澄んだ蒼い瞳。その横顔を見つめていると、仁和は侍女に聞いた話が脳裏を掠めた。
――幼いウィルにとって、両親を亡くしたという事実はどれほどのことだったか。
そして大切にしていたという少女を失くした。自分がその彼女に似ているということで重ねられて見られていたことに関しては、仕方がないと思うようになった。
重ねられて見られるのは嫌だが、その自分を見つめる瞳を思い出すとどれも慈愛に溢れていた。優しく見つめる瞳の奥にはちいさな悲しみが見え隠れし、それがその少女のことをどれほど大切に思っていたのかを物語っていた。
ウィルの悲しみを仁和がはかることはできない。けれど、大切な何かを失ったという出来事は、きっとウィルの心に深い闇を落とす原因になったのだろうと仁和は推測した。
弱みさえも見せず、金糸で刺繍された服を風になびかせて歩くその整端な横顔を見つめ、仁和は瞳を細めた。




