第五話 応接間で
三連続投稿
基本は月一更新なので、急に遅くなる事は十分に考えられます
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モニタの前で悶えてます
思い出したのは、鯨幕。
お葬式の不思議な匂い。
お兄ちゃんが死んだから、私はあんな顔をしていた。
和歌は、応接間と思しき所(広い)でハバモンドと話していた。
「……すまないね、取り乱してしまって」
「いえ、愛する娘様を亡くされたのなら仕方が無いかと」
結局あれからしばらくハバモンドは泣き続けた。
そして泣き止むと、ごしごしと子供っぽく袖で涙を拭い、無言で和歌を家の中へと招き入れた。
これは私を追い出さないと言う事だ、と和歌はハバモンドの表情から勝手に解釈し、招き入れられるままにハバモンド邸に入り……
「あのぉ……、それでですねぇ……」
「ん?……どうした?」
笑顔で訊いてくるハバモンド。
「わ、私をひざの上に乗せたままだと、何かとやりにくいのでは……」
……そう。ハバモンド、あろう事か応接間に入ってきてまず最初に、和歌をひざの上に乗せたのだ。
かちこんと硬直している和歌に言った最初の言葉が、冒頭のあれだったりする。
和歌はトラブルメーカーな体質から緊急用自分を発動し、最初の受け答えまでは対応できた、の、だが。
先述の通り、和歌はこういう美形やら何やらにとんと耐性が無い、ザ・普通娘だった。
よって緊急用自分もすぐにモーターが焼き切れ、誤作動を起こし、あえなく故障したのである。
「ぃ、いや、何でも……無いです」
「そうかそうか。ホムンクルス、ところで質問だが」
「はい、何でしょうか」
「何故私の娘が死んだ事を知っている?」
一気にハバモンドの纏う空気が変わる。
ひやり、と冷たい空気。
風も無いのに和歌の髪を揺らしたそれは、音も立てずに和歌の首をゆっくりと締め付ける。
貴族とは皆こうも恐ろしいものなのかと冷や汗を垂らしながら、それでもその気迫に呑まれまいと和歌は振り向き、ハバモンドの顔を真正面から見据えた。
「白衣が教えてくれたのではありません。私が全て推測しました」
「あり得ない」
突然の否定。
「それはあり得ないんだ。ホムンクルスである以上、君は生命活動以外では自分の意思を持たない筈だから」
ぐっと詰まる息。
増した迫力。
言外に伝わるのは、「本当の事を言え」という半強制的なメッセージ。
「っ……く……」
使役者なんだから命令すれば済むことなのに、こんな手段を使ってくる。
それでいて顔はまだあの爽やかな笑顔。
「私は元々人間でしたっ!!」
和歌は叫んだ。
トラブルメーカーで、常に騒動の中心にいた彼女にはいつも半分嘘を交えて喋る癖があった。
それはつまり一定の距離以上に自分に他人を近づかせないための防衛策。
トラブルから身を守るための生き方が、この男には通用しない。
死にそうなほどの閉塞感から脱け出して、和歌は思い出したように肩で息をした。
気が付いたらほおが涙で濡れていた。
「はい、よく言えました」
そうして泣き出した和歌を、ハバモンドはまるで娘でもあやすかのようによしよしと頭を撫でる。
「……信じて……くれるんですか?」
「本当の事だからね」
和歌は涙で濡れた目を丸くした。
こんな突拍子も無い話、信じてもらえると思わなかった。
「じゃあそんな大切な事を教えてくれた君に、私もひとつ大切な事を教えよう」
ハバモンドは、和歌の耳にやっと届くぐらいの小さな声で、囁いた。
「私は、魔法が使えないんだ」
「……えっ?」
和歌が告げられた内容に驚いてハバモンドの顔を見ると、ハバモンドは笑いながら自身の唇に人差し指を当てた。
「神様の呪いのような祝福でね。……秘密だよ。これはお隣さんと王様とその側近しか知らないから」
そしてハバモンドは優しく和歌に提案する。
「ときに、私の娘にならないかい?」
「ふぅええええええええぇええええぇぇぇっ?!」
こうして、和歌のハバモンド家入りが決定した。
「ところで、何故私が娘を亡くしたのか分かったんだい?」
「……お父様が、私が兄を亡くしたときと同じ顔をしていたからです。私はこの世界に兄を探すために転生してきましたから」
「ふむ。……その兄を探すためというのはどういうことだ?」
和歌は視界の後ろに金色を感じながら答える。
「お願いしたんです。流星群に。兄に会いたいって」
「それで転生か」
「そうです。神様に転生させてもらって。でも、兄はこの世界に既に転生した後で」
「そして、兄を探せと?随分適当な神だな」
「いいえ、それが限界らしいです。ひとりに干渉するのは。でも、兄は普通に転生したから記憶も何も無くて、性別も分からなくて、どの種族かも分からないし、もしかしたら道端の雑草かもしれない」
「ほう……。期間はいつまでなんだ?」
「20年。ここに着いてから丁度20年間らしいです。世界を回ろうとしたら短いけど、すれ違う程度でも良いって。だから、きっと見つかる気がします。いいえ、見つけてみせます。絶対に」
和歌は真摯な目つきでハバモンド邸応接間の床を見つめる。
まるでそこに兄がいるかのような真剣さで。
「それなら尚更早く世界を回らねばならないな。……そうだ、名前を聞いていなかった。君は何と言う名前だったんだい?」
「和歌です。森本和歌。和歌が名前で、森本が姓」
「では和歌、戸籍を作りに早速王城へ行こう」
「はい?」
ハバモンドの声は、至極真剣だった。
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