表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

第三話 街の中で

今回も説明ばかりです



「ここがその家だ。君はここで待っていろ」

 そう言いながら白衣は馬車を降りて、向こうに見える大きな家へと歩いて行く。

 どうやらこの世界には車が無いようで(技術が進歩してるんだかしてないんだか)、例外もあるが地上での移動は主に馬や馬車で行うようだ。

 海は帆船、そして空は飛竜、所謂(いわゆる)ドラゴンで移動するらしい。和歌はその異世界テンプレート、竜に会ってみたくなった。

 今和歌が乗っているのは国立研究所所有の馬車。国王から直々に下賜されている一等品だが、それでも金属製の車輪で石畳や舗装されていない土の道を走るのだ。和歌は背中や尻に寝違えたような痛みを感じていた。


 そんな馬車で50分も揺られ続け(白衣が御者をしていた)、ようやく止まったのが何かもうこれでもかと言う程大きな屋敷。門の規模からして和歌が縦に三人積み重なっても超えられそうに無い。

 そしてその門の美しい金細工の遥か向こうに見えるのは、小さな街一つがその家の規模に相応するのではと言うぐらいの、庭。むしろ庭園。そして屋敷。さすがお貴族様。……いや、今は貴族崩れだったっけ?


 しかし、馬車で50分も走らなければいけない所、今は平民とはいえ貴族崩れが住むのにはあまりにも街外れ。

 ここ国の首都の街に限らずこの世界の街という街は、中央に統治者がいてその周りに貴族、その外には貴族崩れと平民、そして最も街外れに、ある職に就いているものや奴隷が住んでおり、その周りには魔物の侵入を防ぐ壁がある。

 街自体がドーナツ状のヒエラルキーなのだ。


 それ故、こんな街外れに居を構える貴族崩れがどれだけ珍しいことか。

 ちなみに研究所やその他、国直属、つまり国立の公共施設や重要な役割を持っている施設は街のほぼ中央部、国王のいる城のすぐ近くに建てられている。国立病院や、特に大きな商家等はそうだ。

 これは重要な施設をまとめて、使いやすくしておく目的の他に、もう一つ理由がある。

 王族や貴族が病気になるなどした時に、すぐに治療が出来るよう。物が要り用になった時に、時間を掛けずに手元に届くよう。


 庶民は乗り合い馬車位しか乗り物を所有してはいないので、病気になっても街の中心に行くまでに徒歩で二時間も三時間もかかる。たとえ辿り着けたとしても高い高い治療費を払えなければ診てはもらえない。金があったとしても庶民ということで診るのは後回し。診てもらっても庶民なので適当な処置しかしない。

 酷いところでは、大怪我をして激痛に気が狂いそうになっている庶民が、貴族の子供の擦り傷より後に回されたということもある。


 これが現実。


 白衣はそんな酷い酷い現実を馬車に乗っている間、ずっと和歌に話していた。

 子供に話すことじゃないだろうと和歌はげんなりしながら聞いていたのだが、なぜ今から貴族崩れのお屋敷に行くのにそんな話をするのかと訊ねたら、予想外の答えが返ってきた。

 自分は、元々庶民だったから。


 白衣はその高い思考能力を買われて国に拾い上げられた天才だったらしい。

 和歌は更に訊ねた。

 そんな国を恨んでいるか、と。そんな街に生まれたことが嫌か、と。

 御者席で後ろを向いていた白衣は少し驚いた顔で和歌を見た後、ゆっくりとかぶりを振った。

 恨んでないよ。だって、この街はだんだん良い方向に向かっているから。

 柔らかな笑顔。

 答えに今度は和歌が驚いていると、白衣は元のように前を向きながら言った。

 前の王様の時は戦争ばっかりだったけど、今の王様になってからは戦争をやめて、僕達庶民も大切にして、街全体がだんだん良い雰囲気になってきてるから。

 だから、もう少しこの街で生きてみようかなって思うんだ。


 その声はどこまでも優しくて、あの偉そうな口調もどこかに行って。

 国立研究所の所長じゃなくて、その時だけ、白衣は一介の庶民だった。


 和歌はため息を吐く。

 ただ、将来的な問題でもなくて、和歌はこの街で、ゆくゆくは街を出て地球とは違うこの世界で生活するのだ。

 この世界の生活は、頭に入っている知識からしても中世ヨーロッパ並み。

 魔術のおかげで医学や一部の研究は恐ろしいほど進んでいるが、水道や電気すら通っていない所もある。

 せめて自分の身の回りだけは改善しないと、と和歌はぐっと手を握った。


 さてさて、そこで真っ先に気にかかるのがこの世界の人たちの髪の毛や目の色である。

 赤にピンク、水色にエメラルドグリーンと素晴らしくカラフルなのだ。

 馬車についている窓から少しでも痛みを忘れようと和歌はずっと外を眺めていたのだが、さすが異世界である。

 腰や背中の痛みは忘れられたが、今度は目が痛くなった所で白衣が説明してくれた。

 白衣の話によると、髪の色や目の色は、その人の保有している最も強い属性の魔法を文字通り体現している色だそうだ。赤なら火、茶なら地といった具合に。

 また、金色(黄色)には二種類あって、純粋な金色は雷、白に近い金色は光らしい。

 そしてそれらは先天性のもので、いくら自分の髪や目の色の属性では無い魔法を多用したところでその色は一生変わることは無いようだ。

 そもそも髪の色や目の色は特別な血を受け継いだ王家でも無い限り親から子に遺伝するものではなく、またそれらの効果は微々たる物。

 他属性の魔法を使ったところで、日常生活や駆け出しの冒険者のちょっとした手助けになる、という効果ぐらいが限界らしい。

 髪と目にそれぞれ違う属性を持っているものも多々いるそうで、赤と青、茶と金のように相反する属性でも同じ人に宿ることはある。その場合、その人はそれらの属性の強化を半分ずつ受け取るそうだ。

 また、白金や黒(闇属性)も少ないがいるにはいるらしく、属性による偏見などは無い。


「……お兄ちゃんを見つける前に目が痛すぎて見えなくなるような事が無いといいけど」

 本日二度目のため息。を、和歌が吐いたとき。


「絶ッ対、買わんからな!」


 と言う男の人の声が聞こえた。

 何事かと和歌が馬車の窓から外を覗くが、別段屋敷に何ら変わりは無い。

 和歌は頭の中にクエスチョンマークを浮かべながら、元のように座席に戻った。

 窓からは日の光が差し込み、のほほんとのどかな時間。


 ばたんっ!


 は、馬車の扉が乱暴に開けられる音で終了した。


「行くぞ」



 そこには、怒った白衣の顔があった。




誤字、脱字等あればご指摘ください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ