第二十話 露呈すべき内心など無い
やってしまった
すみません、次回で本当に過去編を終わります
そして短めです
一体、王はいつ出てくるというのか
「落ち着いたか?」
熱くなった額を撫でられる。
ぼんやりとした意識がそれで浮上したところから見るに、私は泣き疲れて寝てしまったらしい。
そして再び、頭が痛い。これは泣きながら寝たからだろう。
「落ち着いたか?」
繰り返される疑問。
それにこくりとうなずくと、私はゆっくりと身を起こした。
「……ごめん……なさい」
涙が乾いてひきつった頬を擦り私がそう言うと、カッテとサーレは困ったような顔をした。
「まあ、泣くのは当然のことだ。まだ小さいのだから……無理もない」
カッテが絞り出すように言う。まるで、苦虫を噛み潰しているかのようだ。
「理解が良すぎるのも、自分の欲求を抑えすぎるのも問題だ」
「もっと素を出して良いんだぞ。子供がそんなことするもんじゃない」
交互に言われるが、特に。別段、これと言って自分ではその意識がないのにそうしてしまうことに対しては、どうすればいいのだろうか。
私が首をかしげたまましばらくすると、諦めたように二人ともがため息をついた。
「すぐに直せとは言わん。だが、必ず直さねば確実に悪い事が起こるぞ」
そしてサーレの忠告。
立派な大人が言う事なのだから間違いは無いだろう、と私は頷いた。
「……今はまだ、辛いだろうが……説明を続けさせてもらっても良いか?」
カッテの言葉に、再び頷く。
もう取り乱さないと言う自信は無いけれど、二人共が焦っているような顔をしているから、きっと時間が無いのだろう。
そんな私に安堵すると同時に、また少しどこかが苦しいような顔をする二人だったが、私が続きを促すとその少し重い口を開いた。
「さっき、お前が『統治者の玉珠』に選ばれたと言っただろう?」
「言われた」
「それに選ばれると、お前は以前のお前ではなくなる」
「小僧。お前は、玉珠に選ばれた瞬間に生まれ変わったんだ」
疑問を挟ませない完璧な二人のコンビネーションに拍手を送りたいところだが、いくらなんでもそれでは説明不足だろう。主に私に対して。
「玉珠を身体に押し付けられた時の痛みを覚えているか?」
首を縦に振り、それを思い出そうとして、ぞっ、とした。
思い出そうとするだけで脳がそれを再現しそうになる程身体にしっかりと刻み付けられたあの痛み。
忘れられるはずも無い。
「……覚えているようだな。なら話は早い」
「あれは、身体を再構築される痛みだ」
「再構築?」
もう一度、造り直されたというのか。
傍目から見ても自分から見ても特にこれと言って変化の無いこの身体が。
「そして、再構築された身体は見た目には何も変化が無くとも、高い能力を持つようになる。お前が先程感じたように、目も良くなっているだろう?」
……確かに。
窓から城下を見渡すとき、遠い家の窓に並んでいる観葉植物の種類まで判別する事が出来た。あの時は状況の確認に必死だったから気付かなかったが、それは明らかに尋常じゃない。
それにこうして耳を澄ませるだけでも、この城の端の方でお喋りに興じている使用人のその内容までもが聞きとれる。
成程。これが『統治者の玉珠』の力か。
「少しは把握したようだな。それは頭の回転や、自然治癒力など能力の全てを引き上げる。くれぐれも扱いに注意するように」
ああ。ああそうか。それで、私は今こんなにも理性と感情を割り切ることが出来ているのか。
私の中では相変わらず暗い感情が蛇のように渦巻いたままだ。
にも拘らず、それは表には一切出てこない。
成程、成程。確かに七歳児にこんな思考は出来まい。
そうした内面の全てを内面で処理し、私は表向きとても穏やかに頷いた。
凪いだ海のような表情は、その実浮かび上がろうとする黒い笑みを掻き消した結果であった。
ああ本当に。
――――本当に、面白い。
これは良い機会ではないか。
王が自分を己の教育係に選んだのだと言うならば、教育の片手間に心ゆくまで甚振ってやろう。
たかが一国の王ごとき。
それも、まだ子供であろう。
それが神器『統治者の玉珠』に選ばれた私に何の対抗手段を持とうか。
自分のされた事の仕返しは五倍返しが私の常だ。
「まあ、選ばれるには元々の素質が必要なんだけどな」
何の気無しにカッテが呟いた。
ぴたり。思考が止まる。
「素質って?」
「あー、うー……なんて言ったら良いだろうか」
「つまり、選ばれる前から主に頭の回転において優れている、と言うのが条件だ」
「……そうなの?」
「ああ、二重人格だとも言える程に『理性の自分』と『感情の自分』が分かれているような者は、更に選ばれやすい。カッテは無理だな」
「何をっ!」
「カッテ、黙れ。……そしてお前にはもう一つだけ、絶対に告げなければならない事がある」
サーレがいつにも増して真剣だ。
そうか、最後に持ってきたということはそれが一番の最重要事項か。
サーレがそれを口にしようとしたとき、大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。
「王様がお呼びだ。来い」
部屋の入口で、冷ややかな目をした伝令がそう告げる。
「今すぐだ」
ちっ、と、明らかに相手に聞こえる音量で舌打ちをしたカッテが私をひょいと抱えた。
「小僧、注意しろよ。相手を同じ人間と思うな」
そして俗に言うお姫様抱っこのような状態になった私の耳元で、呟く。
カッテをしてそこまで言わしめる人間とはどのような者なのだろうか。
「我々も付いては行くが、家来である故手出しは出来ん、良く心得ろ」
無表情すぎるサーレの一言。
私は、その王を侮っていた。
確かに、あれを同じ人間であると言える者は誰もいないだろう。
ハバモンドはドSでした
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