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第十九話 遠い街並み

今回もハバモンド視点です

連続投稿です





「……大丈夫か、小僧」

 カッテの問いにうなずく。

「目は見えるようになったな。視力に異常は無いか」

 いつもと同じようにじっと私の目を見、サーレも言う。

「大丈夫。変わらない。……でも、心なしか良く見えるようになった気が」

 何でだろうと首を傾げる。と、長い髪一房が自分の顔にかかった。

「それは当たり前の事だ。今から説明をするが、心の準備は良いか?」

 初めて見るかも知れない、サーレの真剣な顔。サーレは普段、真顔と言うより無表情だ。

 私はサーレの意を()み、再びうなずいた。


「まず、ここはどこからか、だな」

 カッテが言った。

「ここは、王城だ。もっと詳しく言うと、オビマリ二王国の、王城だ」

 何となく予想のついていたこと。

 やはりそうだったか、とうなずく。

 私の目が見えるようになって私が最初にしたことは、部屋の大きさに驚く事だったからだ。

 少なくともベッド一つさえ置いていれば良い部屋にこれだけの面積を()けるのは王城しかあるまい。

 部屋の窓から見えた景色も、成程私たちが王城を見るのと真反対の光景。

 ここまではまだ理解の範疇(はんちゅう)だ。


「次は、ここに連れて来た理由だ」

 サーレはそう言うと、ため息を吐いた。その言葉の後をカッテが引き継ぐ。


「どうやら王様は、小僧、お前を王様の教育係にしたいんだそうだ」


 一瞬、理解が追いつかなかった。

 サーレの言葉は常軌(じょうき)(いつ)しすぎて、遥か世界の果てだ。

「え……どういう、こと?」

 訂正。理解にはまだ至っていない。

 頭が一時的にショック状態だったらしい。

 理解できなかった事の一端はそこにありそうだ。

「言葉通りだ。お前は今から、王様の教育係になる」

 サーレが再び口を開く。


 私は開いた口が(ふさ)がらなかった。

「それだけのために?」

 上手く動かない口で、訊く。

 口の中が乾いている。

 それだけの為に私は連れて来られたのか?

 楽しかった孤児院から、家族(みんな)から引き離されて一人、王城まで?


 渋々、と言った(てい)でカッテとサーレがうなずいた。

「な、んで」

 私なのか。

 言いかけた言葉はしかし、私の唇から発される事は無かった。

「お前は」

 カッテが私の言葉を(さえぎ)るように呟く。

「お前は、『統治者の玉珠』に認められたからだ」


 『統治者の玉珠』とは、この世界の始まりとされる「はじまりの争い」で、人間族が神から下賜(かし)されたと言う玉のことだ。その色は心を落ち着けるかのような深い青で、強弱をつけて光を発しているらしい。

 それぐらい、子供でも知っている。現に私だって知っていた。

 それは、ここオビマリニ王国の王が持つと言う杖の中にはめ込まれているとも伝え聞く。

 一般庶民には一生縁の無い単語。その姿など目に出来る訳が無く、あくまでも神話の中の存在。大切な宝物であり、失えば人間族が滅ぶとされている、希望と絶望を封じ込めた玉。


 その玉に。

「認められた?」

 聞き間違いではあるまいか。

 人違いではないだろうか。

 是非とも、そうであって欲しい。

 そんな心を込めて私は訊いた。


「ああ、認められた」


 ひゅっ、と。

 自分の喉が変な音を立てたのが分かった。

 認められるということは、支配されるということ。

 つまり、私は一生玉珠の支配から逃れられない、ということ。

 一言があまりにも重かった。

 その一言で、私の人生が変わったと形容できるぐらいに。


「やだ」

 腰が抜けるようにベッドに倒れこんだ。

 身体が思うように操作できない。

「やだ」

 力なく首を振った。

 涙が顔を伝い、耳に入る。

 じゅっと小さな音と共に、私の目からは涙が止まらなくなった。

 泣き顔を見られるのがたまらなく嫌で、腕で目を隠した。


「「……っ」」

 二人が驚いたように息を呑むのが伝わってくる。

 きっと私が今まで感情をあまり表に出さなかったからだろう。


 聞き分けの良い子供であろう、とした反動が出た。

 そうやって駄々をこねている私自身が私の状態を冷静に観察すると言う、訳の分からない状況。

「やだよぅ、こんなとこ」

 帰りたい。

 切実にそう思う。

「や、どんな所も住めば(みやこ)と」

「うるさい」

 慌てて言い(つくろ)ったカッテの言葉を一蹴した。

「俺には、孤児院(あそこ)が一番良かったんだ」

 思わず素が出る。


 自分より小さい子供の世話をし、大人と応対する内に身に付いた一人称が、性格が、外れる。

 それでも言葉に覇気が無い。

 自分では気付いていなかったが、私の身体は病み上がりなのだ。

 叫んだつもりでも、小さな(かす)れ声になった。

「……カッテ、行こう」

「でも、サーレ」

「行くぞ」

 これ以上の説明は無駄だと思ったのか、サーレがカッテを連れて部屋を出て行った。

 ギギィとドアがきしむ音。


 小さな音を立てて閉じられた部屋で、私は声を出さずに泣いていた。





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