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第一話 天界と呼ばれるところ

1/31 サブタイ、文末等を少し改訂しました。物語の進行には関係ありません




 不自然な眠り。意識が何かに溶けるような、変な感覚。

 ふと目覚めると、和歌の目の前には小さな男の子がいた。


「起きた?」

 (ひたい)にひやっとした感触。和歌の額に手を当てている男の子は、白くてだぼだぼとした服を着ていた。

「うん、起きた」

 和歌にそう聞いてくる男の子に答え、和歌は何か違和感の残る自分の胸元に手をやった。

「……あれ。そういえば、痛くない」

 私は胸を何かに撃たれて死んだはず。じゃあ、痛くないのは何でだろう。と和歌は身を起こして、服を浮かせて胸を見てみる。

 そこには、傷の代わりに何とも形容しがたい丸い紋様があった。大きさは手のひらぐらいで、かすかに黒く“光っている”。

 寝起きのぼぅっとした頭で紋様を眺めるも、大した感慨は浮かんでこない。

 和歌はしばらくその紋様について考えた後、答えが出ないと考えるのを放棄した。

 そして、目の前にいるいかにも神話の中の神様!みたいな雰囲気の、少し不安そうな表情をしている男の子に訊く。

「ここどこ。……あとこれ、何?」

 すると、何色でもない目が印象的な男の子は、あからさまにほっとした顔で和歌の質問に答えた。


「えっと、まずここは天国と地獄の狭間の小さな空間です。あとその印は闇の神の“お気に入り”の印。そして君は死んだんだけど……理解できる?」

 軽く首をかしげる男の子に、和歌はうなずく。

「って言うか、こんなのに慣れてるの?あんまり驚いてないみたいだけど……」

「ううん、すごく驚いてるよ。私、感情が表に出ないタイプなの」

 和歌が笑顔を作る練習をしてみたのも、遠い過去の話。()し殺しているわけでもないのに、なぜか感情は表に出にくいのだ。

「……そっかあ。死んじゃったのか、私」

「そこで納得しちゃうんだ……。普通の人はパニックになるかそれが収まると何でこうなったのかとか言って僕を質問攻めにするんだけどな」

「うーん……まあ、余計なことは考えないに限るよ」

 ひとつ、ため息。

「何ならしてみようか?質問攻め」

 和歌が挑むように軽く男の子の顔を(にら)むだけで、すくみ上がるように涙目になった男の子。


「ところで、君は誰なの?」

 そんな男の子が何だか可愛らしくなって、和歌はとりあえず歩み寄りのためにそう訊ねてみた。

「えっと……僕は、神なの」

 そうだ、仕事しないと。と、男の子は深呼吸をして、真正面から座っている和歌を見た。

「神の内の、一応一番トップなんだ。例えばギリシア神話のゼウスとか、日本神話のイザナギとか」

 へえ、と心の中では納得しつつも、そう安易に人を信用するのもダメかなと思い立った和歌は、その男の子に少し疑いの目を向けてみた。と、男の子は急に慌てだす。

「え、いや、本当だよ?本当なんだよ?今はこんな六歳ぐらいの男の子の身体してるけど、ほらその気になったら姿とかいくらでも変えられるし……」


 老若男女あらゆる姿に変わる男の子。何か可哀相になって、和歌は疑いの目を解除してあげた。

「うん。君が神様なのはよーく分かった。で、死んだ人って皆そんな最高位の神様と面会出来るの?それとも私が特別なだけ?」

「ていうか本題がそれなんだ。森本和歌さん。君は、僕の部下の“闇の神”にその願いを叶えられた。それで、今ここにいるの」


 願い。願い……ねえ。


 和歌にはどうも嫌な予感しかしなかった。トラブル襲来!トラブル襲来!と脳内で警告音が鳴り響いている。


「え、願ったでしょ?あの『お兄さんと会いたい』って言う願い」


 男の子のその言葉で和歌の中の警報装置が()端微塵(ぱみじん)に吹き飛んだ。代わりに脳内を占めるのは兄との幸せな日々。

「行く。今すぐお兄ちゃんの所に行く」

 気が付けば和歌は男の子の肩を掴んでゆっさゆっさと前後に揺らしていた。和歌の目の色が変わっている。

「う……うげぇっ!苦しい!放して!説明するから!説明!お兄さんに会えなくなるよ!!」

 ぴたり、と静止する和歌。男の子はその隙を利用して和歌の攻撃からすり抜けた。

「えっと……」

「説明して今すぐ迅速に」

「はい」

 神すら従わせる和歌のブラコンぶりは最強だった。


「じゃあ説明するね。少し難しい話になるからしっかりついてきて」

「うん、分かった」

 和歌が完全に正気に戻ったのを確認してから、男の子はゆっくりと話し始める。

「まず、神々の間には少々厄介なルールがある。ルールといっても一つだけなんだけど、それは“神の力を用いて世界に直接力を及ぼしてはいけない”っていう物。これは神話の中の世界みたいに、人間その他種族が圧倒的な力を持つ神によって好き勝手に蹂躙(じゅうりん)されないため」

 男の子はそう言いながら空中に絵を描く。

 それは、神様が好き勝手に力を使って動物や人間たちを操作している絵。かなり上手い。

「……で、それを破って神が力を出そうとすると、あらゆる世界……神々の世界ももちろん含めたあらゆる世界に世界が崩壊するほどの厄災が降り注ぐことになっている」

 男の子の描いていた絵が動画みたいに動き出す。

 空から火の玉が降ってくる図、海が干上がっていく図、力を及ぼしていた神に落ちる大きな落雷の図。


「でも、そのルールには例外がある」

 パチン、と男の子が指を鳴らす。とたんに跡形もなく消え去る絵。

「その例外とは、人やその他種族に与える祝福や試練。これらは神々の世界で一定の手続きを行うことによって、特定の人物または種族にそれらを与えることができる。つまり世界に直接力を及ぼせるってことだね。……ここまでは分かった?」

 ふうと一息、男の子が和歌に訊ねてくる。

「うん、理解した。要するに私の願いはその“祝福”の範疇(はんちゅう)に収まりきらなかったから、私をいったんここに呼び寄せたんでしょ?」

 和歌をさりげなく気遣っているその台詞に、和歌は平然と答えた。

「うんそうだよ……って、早っ!理解早ぁっ!何?何なの?君って天才か何かなの?!」


 男の子の顔が驚愕に変わる。

「いや、お兄ちゃんが死んじゃったせいで小さい頃から大人の小難しい話ばっか聞かされてきたから……こんなのだけは整理できるようになったの」

「ああ……そうですか」

「あとその“君”っていうの嫌だから、和歌って呼んでよ」

「了解。じゃあ話を続けるね。……で、何で君ッ……和歌をここに呼び寄せたかっていうと、和歌のお兄さんがもう輪廻(りんね)の環に乗って転生済みだってことが分かったからなんだ」

「へえ」


「だから、端的に言うと君にはお兄さんの行った異世界で兄探しをしてもらいます」


 男の子は、笑顔で和歌にそう言った。

「行く。そして探す。今すぐ探しに行く。今すぐ」

「……決断も早いね。でもちょっと待って、説明はまだ済んでないから最後まで僕の話を聞いて?」

 誰が何と言おうとという勢いの和歌をどうどうとなだめて、男の子は話を再開する。


「で、和歌のお兄さんは和歌とは違って普通に転生したから普通に記憶がなくて、和歌のことを見ても和歌だってわからないの」

「私はお兄ちゃんの記憶を戻せばいいんでしょ?」

「そうだよ。だから、和歌にはその世界の生物の記憶を担当している神のところまで行ってもらうことになるんだ」

「行けばいいんだよね」

「いやまあそうなんだけど……」

 男の子は渋い顔をした。


「……けど、和歌をその世界に飛ばすためにその神とかその他もろもろのその世界の神に色々と相談してみたところ、世界のルールをねじ曲げないように和歌にはその世界に20年間いてもらわないといけないって。あとその20年間で和歌にはお兄さんを世界の中から見つけてもらわないといけないの……」

 ごめん、といった顔で男の子は和歌を見た。が、和歌は満々の笑みで言い放つ。

「それだけでお兄ちゃんに会えるなら、安いもの。で、そこまでして私はお兄ちゃんに“会う”だけ?もし見つけられずに20年たったら、私はどうなるの?」


 そんな和歌の様子にほっとした様子で男の子は話を続ける。

「いや、和歌が20年の期間中にお兄さんに“会えた”なら、和歌はそのままお兄さんと一緒にどこの世界へでも好きなように転生できる。元の世界に戻る場合は、和歌が中学三年生時点のあの流星群のところで、お兄さんは死んでないって風になって生き返る。」


 にこり、とそこで男の子は笑った。

勿論(もちろん)20年経って転生しても転生中の記憶はあるし、望みとあらば力も付けよう。でも、“会えなかった”ら和歌は転生している世界でずっと過ごすことになる。20年を過ぎてもしお兄さんが見つかっても、お兄さんの記憶は戻せない。でも……」

「でも?」


「でも、それが嫌なら今から願いを破棄(はき)して元の世界へ帰ることも出来るけど、どうする?」

 そこまで聞いて、ふっと和歌は息を吐いた。

「行く。行くよ。私は転生を希望する。……でも、お兄ちゃんを“見つけた”って、私に感知とか出来るの?」

「無理。でも、“見つける”の範囲(はんい)は街ですれ違う程度でもいいから、恐らく大丈夫」

「そっか。……もういいよ。転生できる。心の準備は出来た」

「じゃあ、僕がせめて力になれるように、新しい和歌の体に力をいくつか足しておくよ。……そうだ、転生後の希望とかある?名前とか。僕が出来る範囲なら聞くけど……」


 和歌は少し考えて、言った。

「うーん、名前は今のまま……苗字は別にいいけど、和歌って名前結構気に入ってるから。あと、転生後は女にしてください。種族は……人族じゃなければいいや。獣人とか亜人とかにもなりたくないけど、人型だといいな。そんなのってある?」

「……うん、あるよ。今丁度いい物が見つかった。この体なら僕が少々祝福を加えたところで砕け散ったりはしないだろうからね」

 男の子は笑顔で物々しいことを言った。

「物騒だね……。あ、あと最後に。この胸にある印……闇の神のお気に入りとか言ったっけ?まあそれの効果とかって何なの?」

 和歌は自分の胸を軽く突きながら言った。

「ああ、それね。それはそのまま闇の神が和歌を気に入ってるって印で、効果としては……闇の魔術とかを使う時に増幅器とか補助とかの役割をしてくれるの。その神の力が大きければ大きいほどその印は大きくなるんだって」


 そこまで言って、気付いたようにはっと顔を上げると、言った。

「そうだ。僕の印もつけとこっと」

 そして男の子は和歌の胸の前でさっと手を横切らせる。

「……今ので付いたの?」

「付いたよ。確認してみて」

 言われて、和歌は自身の服を持ち上げて胸の辺りを見てみた。

 そこには黒い円に重なるように虹色の円より少し大きな四角形が刻まれていた。その四角形の中には瀟洒(しょうしゃ)な紋様が描かれており、それは黒い円と綺麗に合わさっている。


「綺麗。ありがとう」

「いえいえ。僕もこれを刻んだのは初めてだから、どんな効果があるのかは分からないんだけどね。その印たちは刻まれた人が任意で見えなくすることが出来る。見られたくないときは消せばいいよ。……そうだ、向こうの世界に魔法があるとか言ってなかったっけ?」

「ううん、さっきポロっと印の説明の時にこぼしてた。大丈夫、そんなのありがちな異世界だし。……そういえば、言葉って通じるの?」

「うん。通じないと転生の意味ないからね。文字も分かるよ。じゃあ、幸運を祈ってます」

「行って来ます、でいいのかな?」

「いいよ。行ってらっしゃい」


 そう言って男の子が手を振ると、和歌の姿はゆっくりと透明になっていった。



説明ばかりですみません

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