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第十六話 腐れ縁とは




「…………幼馴染って、あの幼馴染、ですか?」

 こんがらがって来たワカは、とりあえず質問を重ねる。少しでも情報を得なければ、と必死なのだ。

「どの幼馴染かは分からないけど、一般的な幼馴染っって意味なら合ってるよ」

 王様と相対しているハバモンドがにこやかにそう告げる。

「そうだ。僕とライナスは幼馴染だ。言い方を変えるとだな……幼少からの、付き合い、か?」

「うん。それで合ってるね。さすが王様」

「その茶化したような口調を今すぐ止めろライナス。聞いているこっちが鳥肌物だ」

 ワカはきょとんとした顔でそんな風に軽口を交わすハバモンドを見、次に王様を見、言った。

「え。王様って、どんだけ童顔なんですか」

「そういう問題か?!」


 さっきまで苦虫を噛み潰したような顔をしていた王様が大きく驚く。

「え、だってお父様と同じぐらいの年なんでしょう?幼馴染ってことは」

 てとてとてと、と王様の傍まで寄っていって、ワカはじいっと王様の顔を見た。

 うん。見れば見るほど童顔だ。とてもお父様と同年代とは思えない程。ていうか自分と同年代。でもきっとお父様が言うならば本当なんだろう。とワカは一人納得し、キラキラオーラ積載量オーバーの王様の顔から視線を外す。

「ああ、う……ん、まあ」

 ぱっちりと大きなその青い双眸(そうぼう)を丸くしたり閉じたりしながら、王様はうなずいた。

 危なっかしく少々大きい王冠が揺れるが、ワカはもとより王様すらもそれを気にしない。


 ふう、と一息つく。

「……それにしても見れば見るほど綺麗な顔ですねぇ」

 まるで独り言のように呟きながら、ワカはずずいと王様の方に身を寄せた。

「や、やめろ、寄るな……」

 にじり寄るワカに何らかの身の危機的なものでも感じたのか、王様はずるずると後退する。

「手入れなんかして無さそうなのに肌が綺麗なのは(うらや)ましいですねぇ」

 ずずい。

「そんなに、見るなっ……」

 ずるずる。

「びっくりするほど細くてさらさらした髪なんぞ、一般女子は願っても手に入れられないものですしねぇ」

 ずずずずい。

「ひっ……触るな、ええいっ、ら、ライナス、助けろっ……」

「面白いからヤダ」

 ずるずるずるずる……どん。


「ひあっ!」

 まるで猫のように毛を逆立てる王様。

 残念。王様が向かっていた先は壁。

 前世和歌が久方ぶりに遺憾なく発揮され、今のワカは魔王もびっくりの台風の目である。



「にぎゃあああああああああああああああああっ!!」



 王様の可愛らしい悲鳴がこれほどの音量で王城内に響いたのは、後にも先にもこの一度だけであったと後に使用人は語る。


「ワカは可愛いね」

『ね』

 向こうの方でハバモンドとユリシェリナがそんな話をしていた事は、王様のお付きしか知らない。



 

 所は変えずに十分ほど後。

「……も、もう良い、良いから皆して僕を見るな……」

「しかし王様……」

「良いと言っているだろう……」

 どうやら王様、自身はあれだけキラッキラオーラ(まと)ってる癖に人から見られるのが嫌いらしい。ああ、逆か。キラキラオーラのせいで人から凝視されることがあまり無いから苦手なのか。

 王様の周りの使用人たちは揃ってどうしようかと首を傾げている。……前言撤回。お付きの人たちは喜んでいるようだ。

 それもそうだろう。普段からあれほど人の言う事を聞かない王様が珍しく小さくなっているのだ。喜びこそすれ、悲しむ所などかけらも無い。


 すっ、と空気が冷えた。

 一体何が起きたのかとワカが周りを見回すと、氷のような目をしたハバモンドと目が合った。

 途端、射すくめられたようにワカの身体が動かなくなる。

 あの時と一緒だ。

 ハバモンドがワカに正体を吐かせた時の、その目。


「……ん、ああ、ごめんね」

 ハバモンドは目を見開いて固まっているワカを苦笑して見て、氷の目を解除した。

「ねえワカ、リズ、ちょっと待っててくれるかな?何が起きても、私が良いって言うまで動かないでね」

 ハバモンドは、(おもむろ)にワカとユリシェリナに、言った。

「……はい」

『はいっ』

 氷の目では無いのに、笑っているのに、ワカにはハバモンドの目に再び貫かれたような錯覚に陥る。

 その視線の持ち主が、空気を割って動いた。


「はいはいちょっとごめんねー」

 その垣根の中を()き分けてハバモンドが王様に近づく。

 ワカとユリシェリナはハバモンドに言われた通り、待った。

 うん。人で何も見えない。

 ハバモンドが人だかりの中に呑み込まれてからしばらく。


 パンッ!


 と言う、何かが破裂するような音が聞こえた。

「貴様、何を……」

 ざわざわと王様の周りがより一層騒がしくなる中で、激昂(げっこう)したような王様の声がする。

 さあっとワカは自分の中の血が下がっていくのを感じた。

 知っている、知っている。

 この音は知っている。

 カタカタと小さく震えだしたワカを、気遣うようにユリシェリナが下から見上げてくる。

『おねえさま、だいじょうぶ?』

 ああ、何度目だろう。

 この台詞を聞くのは。……この音を聞くのは。


「お前の一挙一動で一体何人が動くか考えろ」

 冷え切ったハバモンドの声。

 知らないなんて言わない。知っているから。



 これは、人の(ほお)を力の限り叩いた音だ。








ちっとも本題に入らない……



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