第十五話 王様の事情
アクセス急増の嬉しさに思わず連続投稿です
「…………で、どこまでこんな道通るの、お父様」
裏道抜け道回り道。
ありとあらゆる正規の道以外を通り尽くして、どことも知れぬ暗闇の中。
ワカは、まるで道順が分かっているかのように振舞うハバモンドの後ろでぜえはあと荒い息。
『おねえさま、つかれたの?』
「うん。すごく疲れたの。三歳児の体にこれは酷だね」
『?』
ユリシェリナがその言葉に首を傾げるが、ワカはそれについて何も補足しない。疲れた以前に、説明するのが面倒くさいのだ。
「……ワカ、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。着いたから」
ぽんぽんと頭に軽く手を乗せながらハバモンドにそう言われたが、今度はワカのほうが首を傾げる番。
「着いたって?目的地って、この暗闇のことなの?」
「違うよ。ちょっと身構えてて」
ハバモンドの訳の分からない指示に、しかしワカはおとなしく従い、頭を抱えてうずくまった。災害時の姿勢だ。学校で教えられた。
なんだか知らないけれど、ハバモンドはこの王城のことを知り尽くしているような気がする。まあ、元侯爵だし……知ってて当たり前のことなのかな。違うような気もしなくもないけれど。
ワカがそうやってぐるぐると考え事をしている間に、ハバモンドは自身の足元を四回、蹴った。
ガン、ガン、ガン、ガコン。
蹴られた床の音が変わったとワカが思った瞬間に、落とし穴のように今まで立っていた所がいきなり消えた。重力に従ってワカとハバモンドは地に落ちる。それを見て、慌ててユリシェリナも付いて来た。
ぼよんぼよんとボールが跳ねるように床を跳ね、目を回した挙句べちょりと叩きつけられたワカは、うにゃあだかわにゃあだかよく分からない悲鳴を上げてぺそりと地面にうつぶせになる。地面といっても、床のようにつるつるすべすべとしていたが。
「言い訳を聞こうか、ライナス」
軽く殺気を含んだイケメンヴォイスがワカの鼓膜を震わせたのはちょうどその時。
またもや猫のような呻き声とともにどうにかこうにか身を起こしたワカの目に飛び込んできたのは、眩く輝かんばかりのキラッキラオーラをその青い髪と目に纏ったとても正視なぞ出来ない様な次元の違うお人。もとい、国王(推定)。
ただ、若い。頭にかぶった王冠はとてもとても豪奢な物なのだが、常人が被ったとてどこのコスプレだと突っ込まれるだけであろうそれがとても似合う。正に王様。ただワカには、一国の王と言うにはその人が少しばかり若すぎるような気がした。
いやまあだって……目の前のお人は、まだ七つばかりではありませんか。
ん、でもありえるのか。日本にも昔はそんな王様がいたような気もする。この世界にそれが無いとは言い切れない。いや待てよ。異世界テンプレには……。
叩きつけられた身体の痛みさえ忘れてぐるぐると考え込むワカをよそに、王様らしき少年未満とその周りのお付きとハバモンドは話を進める。ライナス、とハバモンドのファーストネームを呼んでいることから、王様(仮)はハバモンドと恐らく仲が良いのだろう。どういった経路で仲が良くなったかは分からないが。
「ごめん聞こえなかった。もう一回お願い出来る?」
「言い訳を聞こうかと言っているんだライナス!人の話はちゃんと聞くものだ!」
「ごめんもう一回」
「貴様の耳は節穴か!」
「え、今何て言った?」
「き、さ、ま、の、み、み、は、ふ、し、あ、な、かっ!!」
「聞こえない」
「きいいいいいいいいっ!!」
べいん、とハバモンドの頭に何かが当たる。
その音で我に返ったワカが見たのは、キラキラと輝く、王冠。
……え、王冠?
「王様、王冠は投げるものではありません!」
「ええいうるさい!ほかに何を投げろと言うのだ!」
「と言うか物を投げないで下さいっ!」
ごもっとも。
突如始まった王様とお付きの男の人の口喧嘩。
それをけらけらと笑い飛ばしているハバモンド。
「じゃあ何だ、殴れば良いのか」
「仮にも一介の国王がそんな事口走らないで下さい!」
あ、やっぱり国王だったんだ。とワカは変なところで納得する。
「ああぁあ王様、それを実行に移さないで下さいってば!」
お付きの男の人が必死に食い止めるも、王様はずんずんとハバモンドの方へ向かってくる。
向こうの方でお付きの男の人がもう一人のお付きらしき男の人に慰められているから、これが日常茶飯事であることが伺える。
……これが日常って。
「貴様はいつもいつもいつも!えい、えい、えい!!」
王様は頑張ってハバモンドの頭を叩こうとしている様だが、ワカよりは高くとも七歳ぐらいの身長じゃ、ワカの目算軽く190はあるハバモンドの頭など叩けやしない。
「はいはい。痛い痛い。ん、忘れ物だよっと」
ぽこぽことハバモンドの腰を必死になって叩いている王様の頭に、ハバモンドが王冠を被せる。
「……貴様ばかりいつも大きくなりやがって。僕はいつまでたってもこのままだ」
「その話は無しだよ」
「…………むぅ」
王様は下を向き、ぷくりと頬を膨らませた。キラッキラオーラの人にそれをやられるとキツい、とワカは少したじろぐが、ハバモンドは気にもしない。
「むくれても駄目。それこそ子供みたいじゃないか」
「もういい。先に言い訳を聞かせろ」
「何の?」
「幼女を二人も連れていることはまあ良い。それの片方が透けているのも流そう。あまつさえそれで王城に来たことも僕の寛大な心で見逃してやろうじゃないか。……ただ」
「ただ?」
「ただ、問題は王城への入り方だライナス!すぐに貴様が僕のところへ来たから良いものの、下手をすれば部下が国王の危機だとか暗殺の危険だとかを理由に炙り出しの許可を僕に取りに来るんだぞ?その度にブチ切れそうになるのを抑えて一国の王として冷静沈着に重々しく焦りなどせずに対処せねばならん僕の気持ちもいい加減に考えろこの馬鹿!」
ほとんど一息にそこまでまくし立て、肩で息をしている王様のその肩をポンと叩いて、ハバモンドが一言。
「大変だなぁ王様も」
「全っ部貴様のせいだああぁっ!バカ!もうバカ!昔っから貴様は僕のことを虚仮にしてっ!!」
「あ、あのぉ……」
王様が叫び終わった辺りでもう耐えられなくなり、ワカは手を上げる。
「なんだい、ワカ」
耐えられないのは、質問。
「話の腰を折るようで申し訳ないのですが、お二人はどのような関係で……」
「「幼馴染」」
ワカには、もう何がなんだか分からなかった。
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