第十四話 王城のセキュリティ
王様が出てくると前回あとがきで言いましたが、どうやら出てこられないようです。
申し訳ありません
「え、何?入れないの?困ったなぁ」
さすが王城だけあって通行証のない馬車や人は王城の中には入れないらしい。ハバモンドがうんうん唸っているが、それを見る門番の目は冷たい。
「はい後ろがつっかえてるからさっさと帰った帰った。だからお宅みたいなあからさまに怪しい馬車入れられる訳無いでしょうが。ほらほらそっち行きな」
取り付く島などありゃしない。ハバモンドは後続の馬車から文句が出ているのを見て、慌てて馬車を王城の前の広い街道の端に止めた。
「んー、どうしようかな。ワカ、リズ、何か良い案とかあったりしない?」
ワカとユリシェリナはお互いに顔を見合わせ、同時に。
「『強行突破』」
「却下」
「『えー』」
だってそれしか無いでしょーよ、と二人してぶーぶーとハバモンドに文句を言うが、全く取り合ってもらえない。まるでさっきの門番。
「抜け道とか無いの?」
ワカがひとつそう言ってみるが、ハバモンドは強固過ぎる王城の門を指差すと、静かに首を振った。
「あると思うか?」
「無いと思う」
『ないない。ぜーったい、ない』
「……だよな」
「じゃあ……」
ワカが更に出そうとする案を、ハバモンドが止めた。
「と、まあ冗談はここまでにしておいて」
ぽん、とワカの頭に大きな手が置かれる。
「へ?」
ワカは目をぱちくりさせた。ハバモンドはそんなワカの頭を撫で、言う。
「ワカ、『変身』出来るか?」
「……はいぃ?」
「すみません……」
身長に合わない、だぼっとしたローブを被った女が門番に話しかけた。
「ああん?こっちは今忙しいんだって。見てわかんな……い……」
門番の言葉が止まる。そのまま門番の手からポロリと記録帳が滑り落ちた。
そうして完璧にフリーズした門番を女がそっと引きずって、定位置から外す。
「ちょっと……お借りしますね」
女はちょうどチェックを受けていた馬車の御者にぺこりと頭を下げるとそう言って、門番を引きずったままそそくさと門から離れていった。
「よっし、成功成功。門番が一人で助かったな」
「よっし、じゃない!あの後固まった門番さんをどう処理するか考えるの大変だったんだから!ほんとにもうっ」
「ちなみに門番はどう処理してきたんだ?」
「なぜか落ちてた金ダライで百連発。それで起きたから放置してきた」
「鬼だ。鬼がいる」
ハバモンドと話しているのは、どこからか現れた二十歳ぐらいの巨乳美人。
これ実は、『変身』したワカである。ローブはハバモンドが羽織っていたものだ。
ワカが『変身』するときは服まで生成することが出来ないので、服は別に用意する必要がある。そしてワカは役目が終わった後に備えて元々着ていた服をユリシェリナに預けた。
つまり、今ワカは「ローブしか着ていない」状態である。
「もう恥ずかしいから戻っていいよね!……いいよねっ!?」
『えー、もうもどっちゃうのー?』
「戻っちゃうの!!」
耳まで真っ赤にしたワカは、馬車のすみっこでゆっくりと元に戻った。
『変身』は便利だが、その姿になりたいと思ってから平均して一々30秒ほど時間がかかるのが難点か。
もったいないー、とユリシェリナがむくれている間に、着替え終わったワカは呻きながら馬車の前方へと戻ってきた。
「じゃあそろそろ王城本体に乗り込みますか」
気だるそうにハバモンドが言う。無理もない。さっきの門はあくまでも「王城の敷地」に入るためのものである。
下手をすれば城内だけで一国築けそうな王城は、庭がもう既に庭というレベルでは無いのだ。村……いや、街。庭の中に街がある、というたとえが最適なような、かと言って城塞都市のように国全体が城という訳でも無いから、王城はどこか中途半端である。
そして、その街をたったか走る不認可のオンボロ馬車。
『んー、へいたいさんがいっぱいでてきたかも』
結局はこんなものである。
「ちっ……馬車もドレスコードしてこいってことですかっ、と。はい全力突破!ユニコーン達頑張れ!ワカ、リズ、援護を頼む!」
「了解っ」
『……えんごってなに?』
「この馬車を守れって事!」
『りょうかいっ』
ピュ――――――
それぞれが態勢を整え、後から後から湧いてくる白銀鎧の兵隊達を注視した。
ユニコーンが加速した。ぐっと体にかかった負荷に耐えながら、ワカは抜群に良くなった動体視力と聴力で安全に走れる馬車のコースを指定する。
「そこ左っ!そのまま真っすぐ……今、右!!」
『ユニコーンたちのじゃまはさせないの』
降り注ぐ矢や槍は全て、ユリシェリナの持ち上げた岩の破片などによって防がれていく。
そしてハバモンドは、
「邪魔だ邪魔だ――――っ!!どかないと轢き殺す!」
スピードに乗った馬車をガタガタと揺らしながら、兵隊達を威嚇する。
「うわあああああぁ」
「悪魔だ――!」
散り散りになって逃げていく兵隊。こっちが完璧に悪役。シチュエーション的にも。
「うっしゃ、着いた!」
そうやってしばらく走っていると、そんな風に御者席から何とも嬉しそうなハバモンドの声が。
更にオンボロさに磨きのかかった馬車の穴からひょこっとワカが外を眺めてみると、目の前にはまるで正門のような大きさの入り口が。
「お父様、ここ、どこですか?」
「一番目的地に近い入り口だよ。ワカ、リズ、付いておいで」
そう言いながらハバモンドが馬車から飛び降り、ワカを抱えあげて降ろした。
「ユニコーンはちょっと待機ね」
ピュ――――――
ユニコーンが一鳴きし、リズがふよふよと浮いて馬車から出てくる。
「じゃ、行こう」
ハバモンド御一行様は、人気の無いその入り口からそっと中に入ったのだった。
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