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第九話 想像力と認識力

遅くなるとか言いましたが、大して遅くなかったです


すいません


あと短いですが、区切りがいいのでこれで



 ワカは思考しながら、小さく呟いた。

「ユリシェリナは一度『誰にも必要とされない』状態を経験しているから……だから、こんなにも」

『つぎでおわりだ!』

 姿を見せたユリシェリナは、ワカに手のひらを向ける。

 その目には朱色どころか真紅の輝きを(よう)しており、ワカの背後で持ち上がった墓石が今度こそワカのヒットポイントに余りある衝撃を与えることは明らかだった。


(ああ、でも)

 ワカは処刑台のギロチンのようにゆっくりと持ち上がっていく墓石に目を向けた。

 ぴたりとワカの上で止まった墓石はワカにもうどうしようもないような恐怖を与えている。先程の様子からして墓石を素早く持ち上げることもできたはずなのに、ユリシェリナはわざとゆっくりと持ち上げた。これは、肉体だけでなく相手の精神にも傷をつけようとする行為だ。

(こんな小さな子が人に恐怖を与える(すべ)を心得ているのは、きっと)


 ワカはぐっと足に力をこめる。そうしないと腰が抜けてしまいそうだったから。

 所詮は平和ボケした国の人間。いくら稚拙(ちせつ)であろうと殺意なんか、ましてやそれが自分に向けられているものならば尚更、体験したことなんか無い。

(そうせざるを得ない状況にあったからだ)

 そろそろ走馬灯の出番らしい。

 ワカの頭の中で過去の出来事が映像のようにコマの中に入って流れ出して行く。ご丁寧に、音声付きだ。


 そうして衛星のように周りを周回する過去の、その中に一人、まだ幼い頃の兄だらけの映像を見ながらワカは思った。

(ていうか、お兄ちゃんにも会えずに死ぬとか無理じゃない?)

 その瞬間、過去の映像の流れがぴたりと止まる。

 ばらばらとコマのうちの何百枚かが抜け落ちていき、後に残ったのは神様を名乗る男の子の説明と、白衣の説明と、ハバモンドの説明と、ユリシェリナの叫び。



『……のまま闇の神が和歌を気に入ってるって印で、効果としては……闇の魔術とかを使う時に増幅器とか補助とかの役割をしてくれるの』


『その身体でも立派に魔法を使うことはできるので安心しろ。その他、ホムンクルスの特性故身体を好きなように変えることができる。例えば、犬になる。ゴブリンになる。竜になる。ホムンクルスならば、全て可能だ』


 白衣の話によると、髪の色や目の色は、その人の保有している最も強い属性の魔法を文字通り体現している色だそうだ。赤なら火、茶なら地といった具合に。



『和歌の属性の闇の神『ユムリス』から派生するものを考えてこれだけに絞ったんだけど、後は和歌が選ぶと良い』


『おとうさまは、おとうさまはあめのなかのわたしをひろってくれたんだ!ずっとさいしょからおとうさまといっしょにいたおまえなんかにこのきもち、わからないだろう!』



 ワカはいつの間にか閉じていた目を開く。

「そっか、私はホムンクルスなんだ」

 改めて、再確認。

 いや、再確認じゃない。初めての認識。

 この時初めて、ワカは自分がホムンクルスであることを認識した。

『……あとさんびょうで、ころす。さん』


 静かな、舌足らずの警告。

 それに含まれる殺意には相変わらず身体が震えるけれど、ワカはそれでもイメージし続けた。

「私が望めば身体の形は変わる。なら、私は望む。身体が強靭(きょうじん)で、頭の回転が速い種族!」

 叫んだワカは、自身の身体が殺意とは違う形で震えるのが分かった。


『どうせさいごのあがきだろう。に』

 カウントダウンは既にワカの中で意味を()していない。

「……あっ……くうぅ……!」

 何かがすごい勢いで身体の中を侵食していく。

 それはすぐに中から外へと波及し、そしてワカは――


『しぬだけなのに、めんどうな。いち』

「……果たして本当にそうかな?」

 ――竜の翼を広げた。

 そしてそのまま頭上の墓石をゲンコツ一発、二つに割る。


 ワカが変わったのは、竜人族。

 さすがに竜にまで変わるにはワカの想像力は少々お粗末だったようで、変わったところと言えば背中に竜の翼が生えたところと、瞳孔が蛇のようになったところだけ。

 でも、中身は大きく違う。

 まず、ワカが望んだ通りに身体が強靭になった。

 そして、頭の回転が速くなった。


 それは、三人……ワカと、ユリシェリナと、ハバモンドが救われる結末を作り出すため。

 ワカは驚いているユリシェリナを一目見て、口の端を持ち上げて笑った。



誤字・脱字等ありましたらお手数ですが感想フォームまで


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