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プロローグ

基本月一ほどのゆっくりペースで更新していきます

未熟な文ですが、誤字脱字感想その他お待ちしております


1/31 文末等を少し改訂しました。物語の進行には関係ありません


 14歳、中学三年生、女子。

 森本和歌(もりもとわか)を表すのに、そう多くの言葉はいらない。


 全くもって普通中の普通。少し友達は少ないが、逆に言えば和歌にはそれだけしか着目点が無い。

 家族構成は父母と死んだ兄と自分だけ。ペットは飼っていない。

 ベタベタのお兄ちゃん子だった和歌は、兄が死んだときこそショックのあまり日常生活すらままならないような状態だったが、今は落ち着いている。時々兄のことを思い出してほんの少し涙を流す、それだけ。



 その日は、大きな流星群が見られる日だった。

 数少ない友達のうちの一人に流星群を見ようと誘われた和歌は、親に断りを入れてから街で一番高い丘の、更にその頂上にいた。


 丘には流星群を一目見ようとかなり多くの人が集まっている。

 皆一様に夜空を仰ぎ見ているが、まだ流星群の訪れる気配は無い。

 和歌の隣にいた友達は早々に丘に来ていた同じ学校の子の所へ行ってしまい、和歌は一人丘に腰掛けていた。


 夏も終わりとは言えまだ暑かった日中に比べて、夜はやはり肌寒い。

 そんな所に薄着で来てしまったことを軽く後悔しながら、和歌は大した感慨(かんがい)も無く夜空を眺めた。

 元々ここに来たのは誘われたからで、来たくて来たわけではない。

 別に今から帰ってもいいのだけれど、その場合は親への説明が面倒だ。


 和歌がそこまで考えた時、不意に夜空を光る筋が横切った。

 ひとつ、ふたつ。


「流れた!」


 誰かがそれを見て叫ぶ。途端に丘の上には黄色い歓声と何かを願っているような声が溢れ返った。

「願い事、か」

 和歌は、本来流れ星に課せられた役目をようやく思い出しながら言った。

 そしてなぜ丘の上にこれだけたくさんの人が集まっているのか、も。

「皆、願うために集まっているんだ」

 それに気づいた途端、和歌の心の中にふわりと兄の顔が浮かんだ。



 和歌の兄は、和歌が小学三年生の夏に死んだ。高校一年生だった。

 部活の帰り、早く帰らないとと急ぐ自転車で一時停止を無視した挙句(あげく)の、トラックとの接触事故。

 直接ぶつかったわけではなく接触だったにもかかわらず、スピードを出しすぎていたことによってバランスを崩し、強く地面にたたきつけられた上に、その勢いに乗って川の堤防に面したガードレールを乗り越え――


 ――そうして、兄は和歌の元からまるで雪が溶けるように淡く消えてしまった。



 もしひとつだけ、願いが叶うならば。

 夜空を次々と横切る星を強く見つめながら、和歌は思った。

 もしひとつだけ、願いが叶うならば……。


「お兄ちゃんに、会いたい……」


 それは今の和歌の全身全霊をかけた願い。

 とても辛抱強く、そして(かたく)ななまでに現実的だった和歌は今初めて、何かに“願う”ということをした。

 強く、強く。


 和歌の想いに応えるかのように、夜空に舞う全ての星が一瞬輝きを強めた。和歌の視界の中で、そのうちの一つがだんだん大きくなってくる。

 次の瞬間、和歌は胸の中心に灼けるような熱さを感じた。

 そして、そのまま和歌の意識は遠ざかっていった。



 享年14歳。森本和歌は、流れ星に打たれて死んだ。




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