表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リボンワンピース・プリンス  作者: 月島
第三章 未来へ踏み出す夏
39/54

39 君を元気づけるのは

 (ひびき)は自分の方へ歩いてくる美琴(みこと)に気が付き、表情を和らげる。


美琴(みこと)先輩、お疲れ様です」


 しかし、彼の声にはいつもより元気が無い。美琴(みこと)はそれが気になって、彼に尋ねた。


(ひびき)君、いつもより元気ないね。何かあった?」

「何かあった? ……て、美琴(みこと)先輩、今日のステージでちょっと元気なかったじゃないっすか。それが気になって」

「あ……そっか。ごめんね」

「いや、謝らなくていいっすよ! えっと……」


 (ひびき)は頭を掻く。まるで、自分が言うべき言葉を探しているようだ。

 彼が何かを言いたそうにしていることが分かった美琴(みこと)は、その邪魔をせず静かに待つ。


「……俺、何か力になれないっすか? いつもみたいに相談に乗ったりとか、他にも何かできることがあったら」


 (ひびき)は遠慮がちに尋ねる。それが美琴(みこと)は不思議だった。

 いつもの(ひびき)だったらもっと元気に相談に乗ってくれるのに、今日の彼は控えめだ。まるで自分に自信が無いような、そんな雰囲気を感じる。


美琴(みこと)先輩?」


 (ひびき)に尋ねられ、美琴(みこと)は我に返った。


「あ、ごめん! じゃあ、ちょっと話を聞いて欲しいな。ちょっと前に話した私の従姉妹のことなんだけど……」


 美琴(みこと)の脳裏に教室で見た(りん)の冷たい表情が蘇る。そのせいで、息が苦しくなった。

 美琴(みこと)は服の裾をぎゅっと握ってそれに耐えながら、なんとか状況を説明し始めた。


「従姉妹の好きな相手がね、海外に行っちゃうんだって。でも、従姉妹は自分の気持ちを相手に伝えられてなくて……このまま離れ離れになるの、本当は嫌なはずなの。だから、私が従姉妹のことを助けようと思ったんだけど……拒絶されちゃって。ちょっとショックだったんだよね」

「そうだったんすね……」

「うん。でも、私、このまま従姉妹を放っておくのは嫌なの。どんな時でも、力になりたいんだ。従姉妹のこと、元気づけたい。今すぐ傍に行きたい。でも、どうしたらいいか分からなくて」


 美琴(みこと)の言葉を聞き、(ひびき)は拳を握りしめながら力強く答える。


美琴(みこと)先輩のステージに来てもらったらどうっすか!?」


 思いもよらない答えが返って来て、美琴(みこと)は目をパチパチさせる。

 (ひびき)の答えの意図を考えたが、よく分からなくて彼に尋ねた。


「どうして?」


 美琴(みこと)に尋ねられ、(ひびき)は自信満々に胸に手を当てる。


「だって、ステージしてる時の美琴(みこと)先輩は最強じゃないっすか! 見てるだけで笑顔になれますから! それに……美琴(みこと)先輩の努力の結晶が、ステージには詰まってます。美琴(みこと)先輩が頑張ってる姿見たら、従姉妹さんも勇気が出るんじゃないかなって」

「そう、かな……」


 美琴(みこと)は少し自信なさげだ。

 だって、今日のステージも(りん)のことで上の空だったのだ。アイドルとして自分はまだ未熟だし、(りん)がステージに来てくれると分かって集中できるかも分からない。美琴(みこと)はそう思ったのだ。


「……私ね、従姉妹を元気づけたくてアイドルを始めたの。でも、今の私に従姉妹を元気づけられるか分からないな」

美琴(みこと)先輩……」


 (ひびき)の表情が曇る。

 ——こんな時、日和(ひより)先輩や(かなで)先輩なら、美琴(みこと)先輩を元気にできるように励ませたのかもしれない。やっぱり、二人には、敵わない。でも……。


 (ひびき)の脳裏に、アイドルとして笑顔を振りまく美琴(みこと)の姿が鮮明によみがえる。

 いつ、何があっても、(ひびき)美琴(みこと)のことを応援してきた。

 誰よりも、近くで。

 彼女に届けて来た想いと、一緒に過ごした時間だけは……誰にも負けるはずがない。

 (ひびき)は右手をギュッと握りしめ、美琴(みこと)を真っ直ぐに見つめた。


 ――美琴(みこと)先輩を応援してきたことに関しては、誰にも負けない!


 (ひびき)は両頬をパシッと叩いて、ニカっと笑った。


美琴(みこと)先輩、こっち見てください!」


 美琴(みこと)は顔を上げる。すると、目の前には(ひびき)の爽やかな笑顔があった。


「俺、ずっと美琴(みこと)先輩のこと見てきました。先輩の頑張る姿に、誰よりも沢山笑顔を貰ってきました。その俺が言ってるんです。だから、絶対大丈夫です!」




 (ひびき)が中学一年生の春休み。アイドルの練習で公園で踊っていた美琴(みこと)のことをランニング中の(ひびき)がたまたま見かけたのが、二人の出会いだった。

 自分のダンスをスマホで撮り、何度も動きを確認していた美琴(みこと)。何をそんなに熱心に見ているのだろうと、(ひびき)は足を止めて彼女を見ていた。


「うーん、ステップ変だよね……足の動かし方が間違ってるのかな?」


 美琴(みこと)は首を傾げながら呟いて、再びスマホで自分の動きを撮影する。

 一生懸命にダンスをしている美琴(みこと)が、(ひびき)には魅力的に映った。


(すごい頑張ってるな、あの子……)


 なんとなく目が離せなくて、(ひびき)美琴(みこと)のことをじっと見ていたその時だった。


「うわっ」


 美琴(みこと)の足がもつれて、盛大に転んでしまったのだ。


「いたた……」

「え!? 大丈夫っすか!?」


 美琴(みこと)が擦りむいた膝を涙目で見ているところに、(ひびき)は思わず走り寄っていた。


「え、誰……?」

「あ、えと……と、とりあえず傷口洗って絆創膏っすね! 水道あっちにあるんで、行きましょう!」


 困惑する美琴(みこと)を勢いよく誤魔化し、(ひびき)は公園の水道に美琴(みこと)を連れて行って傷口を洗ってもらった。

 その後、自分のウエストポーチに入れておいた絆創膏を美琴(みこと)の膝に貼り付けた。


「これでよし」

「あ、あの……ありがとう。そのTシャツ、うちの学校の野球部だよね? 木崎第三中学の」


 戸惑う美琴(みこと)に尋ねられ(ひびき)は勢いよく頷く。


「はい! あ、急に話しかけてすみませんでした。俺、野球部一年の朝川響(あさかわひびき)って言います」

朝川(あさかわ)君っていうんだ。私は涼風美琴(すずかぜみこと)。二年二組です」

「二年……あ、先輩なんすね! てか、涼風(すずかぜ)って……あの王子様の?」

「あ、従姉妹のこと知ってるんだ。そうだよ。君も涼風鈴(すずかぜりん)のファンなの?」


 美琴(みこと)に笑顔に尋ねられ、(ひびき)は「ファンって訳じゃないです」と首を横に振った。


「有名っすから。ただ、格好いい人なんだなーって認識してるだけっていうか」

「あ、そうなんだ。ふふ、ちょっと珍しいかも」


 美琴(みこと)はクスリと笑って立ち上がる。


「さっきはありがとう。私、もうちょっとダンスの練習してから帰るから。朝川君も部活とか頑張ってね」


 美琴(みこと)の言葉に、(ひびき)は焦った。

 このままでは、会話が終わってしまう。そしたら、学年の違う美琴(みこと)とは次いつ会えるか分からない。


「あの! ダンスの練習、いつもここでしてるんすか?」


 (ひびき)は咄嗟に尋ねた。

 すると、美琴(みこと)は笑顔で頷く。


「うん、そうだよ」

「あ、あの……また、見に来てもいいっすか!? 俺も、美琴(みこと)先輩のこと応援したいって言うか……」


 (ひびき)は顔を真っ赤にしながら、そう聞いた。

 彼の言葉を聞いた美琴(みこと)は目をパチパチさせたが、やがて明るく笑って頷いてくれた。


「もちろん。またおいで」

「……! はい!」


 この日から、(ひびき)美琴(みこと)のアイドルの練習に付き合うようになった。

 受験が終わった三月のオーディションまで、(ひびき)はずっと美琴(みこと)の努力を傍で見てきたのだ。

 だからこそ、美琴(みこと)の歌が、ダンスが、笑顔が……大勢の人を元気づけることができると誰よりも信じることができた。

 今、彼が見せている笑顔も、美琴(みこと)がくれた笑顔だ。

 

 (ひびき)の笑顔を見て、美琴(みこと)の気持ちが晴れていく。

 さっきまでは自信が無かったのに、いつの間にか、(りん)にアイドル姿の自分を見て欲しい気持ちで胸がいっぱいになった。


 ――そうだ。私、りんりんを元気にしたくてずっと頑張って来たんだ。だったら、今が一番頑張る時だ!


「……うん。私ならきっと大丈夫だね!」


 美琴(みこと)は元気に頷いて、(ひびき)と手を繋いだ。


(ひびき)君、ありがとう」


 美琴(みこと)の明るい笑顔を見て、(ひびき)の心も喜びで満たされていく。

 俺でも、美琴(みこと)先輩のこと励ませるんだ。これからもずっと、美琴(みこと)先輩のこと一番傍で支えるんだ――そう思えて、先ほどまでの自信の無さが吹き飛んだ。


「へへ……お力になれて何よりっす! ほら、暗くなったきたんで帰りましょう! 家まで送ります!」

「うん。一緒に行こ!」


 二人は手を繋いで家までの道を歩き始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ