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7.ギルドへの入館

ギルドへの入館


―朝の7時頃―


 ヒベルとカノミュは別々のふかふかのベッドの上で寝転んでいる。

 元気もりもり亭の店主が営む宿屋に泊まる事になったが、一部屋しか空いてなかった。


 「ん~、朝か。おはよう。カブルツ、ニットン」

 ヒベルの目覚めはよく二つの遺物に声を掛ける。


 「け、なにがおはようだ!昨日はラーメンをうまそうに食いやがって!いやがらせにもほどがあるぜ!」

 「ニットン殿、少し落ち着け。食に関心を持つのは、生を実感している証拠だ」

 「全く!おっさんは気楽かよ!人前で喋っちまうと目立つからその場で文句言わなかったことに感謝してほしいぜ!全く!」


 ヒベルはそんな遺物たちの声を聞きながら、洗面台で顔を洗い終える。

 カノミュは掛かっていたであろう布団を抱えながら丸まってモゾモゾしている。


 「おい、カノ!朝だ!誰かさんはラーメン食べたくてうずうずしてるみたいだぜ!」

 ニットンが皮肉を交えながらカノミュを起こすため声を掛ける。


 「ん~、あと、5分……いや、うそ、10分……」

 カノミュは眼を開かずにそんなことを言っている。


 「まあまあ、もう少し寝かせてあげよう。久々のベッドだし、今日はギルドにいってクエストを受けるつもりだから忙しくなると思う。」

 ヒベルがカノミュに気を使って小声でニットンに伝える。

 

 突然。ガバッ!

 「ギルド!クエスト!早く行こ!手ごろなクエストは午前中になくなっちゃうんだよ!」

 カノミュが突然起き上がりバタバタと走り回りながら髪をとかして、ジャバジャバと顔を洗い始める。


 「カノ殿の動きには心臓が止まりそうになるぐらい勢いがあるな。」

 カブルツは落ち着いた声で発言してるが、驚いたのだろう。

 「いや、俺らはもう心臓なんてついてないだろ?」

 ニットンが、すかさずツッコみを入れる。


 ヒベルたちは準備を済ませ、朝ごはんにラーメンを食べ、店主に挨拶をして、東エリアにあるギルドに向かう。


 ―東エリア、リナスマギルド―

 40分ほど歩き到着した。

 

 大きな扉の前には長くて広い階段、赤と茶色のレンガで建てられた凛々しい建物。

 険しい顔をして年季の入った武器を背負った人や澄まし顔をしてスマートに歩く人達が出入りしている。

 

 「ここが、リナスマ都市のギルドか。大きいなー」

 ヒベルは見上げるほどの迫力に、ワクワクする気持ちと足がすくむような緊張が一度に押し寄せてくる。

 ヒベルは大きく息を吸い、震えそうになる足に力を込めて一歩を踏み出した。

 「早く中に入ろ~!クエストは早い者勝ちだからね!」

 その声にハッとして先を行くカノミュに遅れまいと、ヒベルはもつれるような足取りでせわしなく階段を駆け上がった。


 中はガヤガヤと騒がしく、黙ってる人が目立つほどだった。

 「ここは初めてのギルドだからクエストボードをみる前に受付に行かないと!」

 カノミュがヒベルを先導して人混みをかき分け受付にたどり着く。


「おはようございます。受付ですか?」

 ギルドの受付は横並びに何か所かあり、ヒベル達が向かった受付には無表情にこちらを見つめる女性が立っていた。

 「はい!私たちここのギルド初めてなので受付を済ませないとと思って!」

 ごそごそとカノミュは服のポケットから自分の冒険者カードを取り出す。

 ヒベルもカノミュの行動を見てカードを受付に提示する。

 「カノミュ・マリアーク様"Gランク"」「ヒベル・レリックス様"Jランク"ですね。」

 「少々お待ちください。……お待たせしましたお二人共リナスマギルド新規登録完了致しました。」

 「レリックス様はギルドのご利用自体初めてですね、ギルドを利用するに当たるルールの説明をさせていただきます。」

 受付の女性が言葉を続けようとしたとき。

 「あの!早くしないとクエストが取られちゃうので私がヒベルに説明するじゃダメですか?せっかく朝ごはん少なくして来たんです!」

 カノミュはせかせかと足踏みをしながらクエストボードと受付の女性を交互に見る。

 「ダメです。こちらは規則になります。世界中のギルド共通のルールを初めて利用の方に必ず伝えることになっています。」

 無表情のままカノミュを見つめている。

 「わかりました。ごめんなさい!」

 カノミュは頭を下げて謝罪をした。

 「大丈夫ですよ。頭を上げてください。強力な力を持つ人間が行き交う場所なので厳しくせざるを得ないの。それではレリックスさん改めてルールの説明です。」

 受付の女性は目元を少し緩ませながらカノミュに声をかけヒベルに向き直る。

 「まず。ギルド施設内とそのギルドが定める区画内はいかなる理由があっても冒険者は魔法および争いは禁止です。なにかお困りの事がございましたらギルド職員にお声がけください……」

 などなど、全国共通のギルドルールをヒベルは頷きながら真剣に聞いていた。

 その間にも冒険者たちが続々と依頼書を手に取り受付を済ませていた。

 「以上がギルド利用に当たるルールになります。それでは冒険者ライフのご健闘を祈ります。」

 深々とお辞儀をされ、ヒベルも頭を下げる。

 「丁寧にありがとうございました!」


 カノミュはすでにクエストボードを背伸びしながら確認している。

 「やっと来た!もう、手頃なクエストほとんど残ってないよ~他の冒険者たちもすでにクエストに出発しちゃったよ!」

 ヒベルは周囲を見渡す。カノミュの言う通り来たときは賑わっていた建物の中も半分以下の人数になっていた。

 「お待たせ!ごめん!先に選んでくれててもよかったよ?」

 「ダメだよ!クエストはちゃんとパーティで話し合って決めないと命取りなんだよ!」

 カノミュは拳を胸に当てながら鼻をならして先輩風を吹かせる。

 「おいおい、ガキ共邪魔だ!ここはギルドだぞ?おままごとは外でしな!」

 急に大きい男に罵声を浴びせられる。

 大声で怒鳴られ自然と2人の視線はその男に向く。

 声を掛けてきた男の後ろには同じように大きな男2人がへらへらしながらヒベルたちをなめ回すように見ていた。

 「そーだそーだ!おまえさっきギルドのルール聞いてたし"Jランク"の素人冒険者だろ?死ぬ前に消えた方がいいぜ?」

 「俺たちは優しいから忠告してやってんだ、ここはリナスマギルド、お前らみたいな新人冒険者が来ていい場所じゃねーんだぜ?」

 「しかもお前ら丸腰か?杖も剣も持ってねぇってビンボーかよ!それでどーやって魔物を倒すんだ?マッサージでもして魔物から金もらうのか?」

 ゲラゲラと笑っている男達からは酒臭い息の匂いが漂ってきて鼻を無意識に覆いたくなる。

 

 ヒベルはどこか慣れてるようにあきれた顔をしていたが、みんなの反応は違っていた。

 カブルツはいつもより大きくカチッと音を立て

 カノミュの周りは静電気を帯始める。

 ニットンは心なしかさっきより小さくなってる。

「みんな、落ち着いて!ギルドで喧嘩はダメだよ!わざと挑発して楽しんでるんだ、相手にしない方がいいよ!クエスト選ぼ!」


 男達に背を向ける形でヒベルはカノミュと遺物たちをなだめるために手を広げながら声を掛ける。

 「おら、よそみしてんじゃねーよ!」

 1番近くにいた男がヒベルの背中を蹴飛ばした。

 「うっ」

 ヒベルの視界が揺れ、カノミュに覆い被さるように倒れた。

 「わ!ヒベル大丈夫?」

 カノミュの背中が地面に付く直前にニットンは糸でカノミュの背中を柔らかく支え、衝撃を抑えてくれた。

 (ありがとニットン)

 カノミュは小声でお礼を言う。


 「ダハハハ!だっせぇな!」「こいつら、抱き合ってんのか?こんなところでなにしてんだよ!ブハハ」

 男達はからかうのをやめない。

 「ごめんね、すぐどくから。」

 男達の方を見て睨んだが、すぐにヒベルは立ち上がり、カノミュに手をさしのべ、服のホコリを手で払い無言のままクエストボードに歩き出す。

 「おいおい!ビビって声もでねぇのかよ!冒険者なんてやめちまえ!」「そーだ!お前達みたいなやつがいるから冒険者の肩身もだんだん狭くなるんだ!」「腰抜け!」


 「あなた達。今、ルールを破りましたね?」

 男達の後ろから声がする。

 一斉に振り返ると無表情の受付嬢が立っていた。

 「あ?なんだよ、女。俺達は新人にアドバイスしてただけだぜ?優しい先輩だからよ!魔法もつかってねぇし、ダハハ」

 

 「他の冒険者に暴行を加え。冒険者を辞めろ。お前のせいで肩身が狭くなる。おままごとでもしてろ等々の罵声。これを無視できるほどギルド職員は甘くありません。そっくりそのまま、あなた方にお返し致します。」

 受付の女性が左手に持った杖を前に突き出した瞬間。

 パキパキパキ、ガチガチン!

 一瞬にして周囲の床と男3人が氷付く。

 冷気がギルド内全体に広がり温度が急激に低くなる。

 男たちの顔はまだ罵声や言い訳を言いたそうに口を大きく開けて笑っているようだった。


 ヒベルたちは一連のやり取りと男たちがカチコチになったのを唖然としながら眺めていた。


 「よく、耐えましたね。あなた達までこのような姿にすることなく収拾が付いてよかった。」

 受付の女性が少し笑みを浮かべながら話しかけてくる。


 「わ!あ、ありがとうございます!助かりました、あのこの人たちはどうなるんですか?」

 ヒベルが慌ててお礼の言葉を伝え再び氷のオブジェに目を向ける。


 「この方たちはギルドのルール違反者として罰を受けていただく必要があります。冒険者の中には己を強いと過信し、身の程をわきまえない振る舞いをする方が一定数いらっしゃいます。それを管理する為のルール、ギルドなのです。」


 無表情に戻った女性が淡々と説明をし終える。

 周りにいる冒険者たちも息を呑み静かになっている。

 

 ぞろぞろとギルド職員たちが氷漬けにされた男たちを炎の魔法で、固定されている部分を溶かし、念力の様な魔法で裏へと運んでいった。

 

 「あなたたちはルールに違反しないように。氷漬けにされたいなら別ですが。ふふ」

 基本的に無表情だった女性が最後は微笑み去っていった。


 「あの人だけは絶対に怒らせちゃいけないね、私もさっきの行動まずかったかな……」

 カノミュが小声でヒベルに耳打ちをしてくる。

 ルールの説明を省こうとしたことを反省しているようだった。


 ヒベルにとって初めてのギルドは忘れられない出来事となった。

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