6.リナスマ都市
リナスマ都市
―それから二日後の17時頃―
空は夕焼けになっているが、ようやく最初の目的地にヒベルたちは到着しようとしていた。
「やっと着いたね~、リナスマ都市~、もう足が限界って言ってるよ~」
カノミュは力なくつぶやく。
都市の周りには巨大な外壁がそびえ立ち、どんな魔物も侵入を許さないように甲冑を身に着けた警備隊が一定の間隔で配置されている。
中がどれだけにぎわってるのかは想像もつかない。
「ここがリナスマ都市。小さいころ来たはずなのに全然覚えてないや。大きいな~」
ヒベルたちは一番近い警備隊が立っている入り口に足を進める。
入口には4人の警備隊が険しい顔をしながら自分の業務を全うしていた。
「止まれ!身分証の確認をさせてもらう。」
ヒベルとカノミュは冒険者ライセンスを提示した。
(気にしてなかったけど、カノのランクはGランクなのか。)
ヒベルは心の中で早くランクを上げたいと無意識に感じていた。
「よし。2人とも冒険者だな。ランクが低いな、ここへは初めてか?」
身分証を確認してくれた警備隊は意外にも気さくに話しかけてくれた。
「はい、初めてみたいなものです!小さいころに来たはずなのですが思い出せなくて。」
ヒベルは丁寧に質問に答える。
「そうか。なら簡単に説明してやる。お前たちがいるここが西ゲートだ。全部で東西南北に4つ設置してある。当たり前だがその4か所からしか出入りはできん。」
「そして、東ゲート付近がギルドもあり冒険者が集う。西は商業施設が多いから買い物があるならうってつけだ。北は王族や貴族のエリアだから賊だと勘違いされたくなきゃ近づくな。そして、南はうまい飯と安い宿屋が多く集まってる。ざっとこんなもんだ!」
警備隊がニカッとどや顔で笑顔を向けてくれる。
ヒベルたちが話してる時も横を荷馬車や、珍しい商品を担いだ商人たちが行きかいしている。
「ありがとうございます!助かります!」
「ヒベル~話終わったならご飯だべに行こうよ~もうくたくた~お風呂にも入りたい~」
珍しくカノミュが語尾を伸ばしながらわがままを言い出す。
いつもは明るく先輩風を吹かせてくるのに。
「お嬢さんの方はずいぶん疲れてるみたいだな、話に付き合わせてすまなかった!さあ、リナスマを楽しんで来い!」
警備隊に2人は背中を押され門をくぐった、外壁は思ったよりも分厚くトンネルの様に先は暗い。
だんだんと賑やかな声や音が聞こえてくる。
……ガタガタガタ。
「さあさあ!本日最後のタイムセールだよ!」
「こっちの店の方が安いぜ!寄ってけ!」
ワイワイガヤガヤ
「わー!すごい!人が多いね!」
今度はヒベルが、らしくないテンションで声を出す。
「汝が声を高くするなんて珍しいこともあるんだな。」
「ヒベル~お!な!か!空いた!ここには明日来て楽しもうよ!早く南のエリアに行こう!」
カノミュはすごくお腹が空いているようだ。
「ごめんごめん!こんなに人が多くて賑やかな町なんて初めてで!そうだね!」
ヒベルは名残惜しそうにカノミュの言葉に従う。
「南はこっち!この路地裏を進めば早く着きそうだよ!早く早く!」
カノミュは夕ご飯を想像して急に元気になり、小走りでヒベルを先導する。
30分ほど歩いてようやくいい匂いが鼻をくすぐり始めた。
「……おい!いい加減早く金を出せ!」
南エリアに向かってる最中、路地裏から怒鳴り声が聞こえた。
40代ぐらいの小太りな男性が、ナイフを持った三人組に囲まれている。
「ひ~、すみません、食材を買ったばかりで今は手持ちがないんですよ!本当です!」
大きな袋を抱えて脅されている男性が必死に言葉を絞り出す。
路地裏で人気が少ないのと、バタバタと周りの家からは空いていた窓を閉める音が聞こえてくる。
「あ~もう!こっちはお腹が空きすぎてイライラしてるのに!」
カノミュは地面を踏み鳴らしながら堂々と三人組に近づく。
「カノミュ、落ちつけ。相手は人間だぜ。」
ニットンがカノミュをなだめるために声を掛ける。
ヒベルが一歩遅れて前に出ようとしたところをカノミュに睨まれ足を止める。
「ヒベル。あなたは警備隊を呼んできて。」
ヒベルは少し怯えながらうなずき駆け出す。
「ちょっと!あんたたち!すぐに消えるなら痛くしないであげる!」
カノミュが怖い顔でにらみつける。
「おいおい、かわいい子が声を掛けてきたぜ!今日はうまい酒が飲めそうだ!」
「おい!嬢ちゃん!今日は俺らと楽しもうぜ~!」
下品な笑い方をしながら三人はカノミュに近づいていく。
「全く。なんでこんな人たちから誘われないといけないのよ!」
カノミュは右手の小指を前に突き出す。
「ニットン!締め上げて!」
シュルシュルと糸が3人にまとわりつく。
「なんだこれ!」「動けねぇ……」「こいつまさか冒険者か!?」
男たちは魔法を放つ構えをしようとするが、ニットンの糸で身動きがとれなくなり動揺している。
「謝っても、もう許してあげない!ドーン!」
小指からいつもより弱弱しい白雷がバチバチと糸を通って三人を襲う。
「うわーーーー!」
髪の毛がチリヂリになり、口から黒い煙を吐きながら3人は意識を失った。
人間相手には十分すぎる電圧だったようだ。
「なんだ!爆発音がしたぞ!」「治安の悪い裏の通りだ近づくのはやめとけ。」
大きい通りからそんなやり取りが聞こえてくる。
「はあ、はあ、お待たせ!警備隊の人連れてきたよ!やり過ぎてな……いや、やり過ぎてるね。」
少し息を切らしながらヒベルは焦げてる人たちを見てため息をついた。
「君か!金を脅して奪おうとしてるのは!」
ヒベルが連れてきた警備隊の人がカノミュを指さしながら威嚇するように言い放つ。
「ち、違います!私はむしろあの人を助けてあげたんです!」
カノミュが先ほど脅されていた小太りの男性を指さして必死に弁明する。
「そ、そうなんです。ご迷惑を掛けてすみません。本当に助かりました。」
カノミュの電撃を見て腰を抜かしていた小太りの男性が頭を深く下げながらカノミュに感謝している。
「そうだったのか、すまない。誤解だったようだな。それで、この三人が強盗か。私が留置所に連れていこう。しっかり気を失っているから問題ないだろう。」
警備隊の人は風魔法で気絶して真っ黒に焦げてる三人を浮かせ去っていった。
「んじゃ!おじさんも気を付けてね!私たちも急いでご飯を食べに行くところだから!」
小太りの男性に軽く言葉を掛け、カノミュは歩き出そうとした。
「待ってください!ご飯ですか?あの、まだお礼も出来てないので、もしよければ私のお店で食べていかれませんか?宿屋兼料理屋を営んでおりますので。もちろんお代はいりません!いかがでしょう?」
「ホントに!やったー!ヒベル!私達やっぱり運がいいかも!是非是非!ご飯食べたいです!」
カノミュは大喜びしながらぴょんぴょん跳ね回っている。
「あの、お金は払いますので、案内していただけると助かります!」
ヒベルは少し動揺しつつ、お言葉に甘えようとしていた。
「何を仰る!もしかしたら殺されていたかもしれないピンチを救ってくださった方々だ!特にお嬢さんには腹いっぱい食べさせてあげるつもりですぞ!」
ヒベルとカノミュは小太りの男性について行く形で10分ほど歩き男性が営んでいる宿屋兼料理屋に到着した。
「元気もりもり亭?すっごいわかりやすい名前!」
カノミュはお店の名前を確認しながら、中に入る。
「いらっしゃいませ~!あら、店主!買出しに時間かかってるから何かあったかと心配してましたよ!」
「いや、すまない!近道をしようとしたんだが、実はいろいろあったんだ!こちらの冒険者の方々に助けていただいた。伝票は付けなくていいから好きなものを注文してもらえ!」
ウエイターの女性と小太りの男性が会話をしている。
店内はガヤガヤしていてすごく繁盛していそうだ。
小奇麗な料理屋って感じではなく大衆酒場のような活気のある店内だった。
「ささ!あちらの席に座って待っていてください!どんなものでも好きなだけ注文していただいて構いませんから!」
小太りの男性はそう言い残し、厨房の奥へ行ってしまった。
「いや~、やっぱり人助けは大事だね!冒険者サイコー!タダごはん!タダごはん!」
カノミュははしゃぎながらすでにフォークとスプーンを両手に持っている。
「カノ、わかってると思うけど、少しは遠慮しなきゃだよ。せっかく買出しに行ってたみたいだし、買ってきたもの全部、食べたら店主さんに申し訳ないよ。」
「だめだめ!ヒベル!こーゆー時こそ遠慮しないほうがいいんだよ!店主さんも絶対そのほうが喜んでくれるから!」
「お待たせしました~!改めて店主を助けていただいきありがとうございます!元気もりもり亭へようこそ!好きなもの頼ませるように言われてるので、さっそく注文をどうぞ!」
にっこりしと笑顔を浮かべ、頭にバンダナを巻いたスタイルの良い女性がメモを片手に尋ねてくる。
「えっと~、これとこれと、これとこれ!」
カノミュはメニュー表を指さしながら真剣に自分の食べたいものを選んでいく。
「僕は、このラーメン?ってやつをください。」
「ラーメン!私も食べる!ラーメン2つで!ヒベルもしかして知らないの?」
「うん、名前は聞いた事あったけど食べたことがないから、食べてみたい!」
「かしこまりました!すぐにお持ちしますね!」
ヒベルは食べたことのないラーメンを注文して、ウエイターは笑顔でお辞儀をして厨房にオーダーを通しに行く。
……数分後。
ヒベルとカノミュのテーブルには料理が並んでいく。
ハンバーグ、唐揚げ、煮魚、ハムカツ、ポテトサラダ……等々。
どれも量が多く、普通なら絶対に食べきれなさそうな量なのに、目を輝かせながらパクパクとカノミュの小さい口に入っていく。
「ん~さいこ~。やっぱりご飯は最高だよね!ヒベルも食べたかったら遠慮せずに手を伸ばしていいからね!」
ヒベルはよだれが出そうになるのを我慢して、ラーメンが手元に届くことをソワソワしながら待っている。
「お待たせしました~!ラーメン2つですね!召し上がれ~!」
ウエイターのお姉さんが元気よくヒベルとカノミュの目の前にラーメンを置く。
湯気の中には、柔らかそうなチャーシューに歯ごたえのよさそうなメンマ。たっぷりのトウモロコシの粒は宝石の様に見える。
黄金色の麺が沈んだ、透き通った醤油ベースのスープには美味しそうな油がキラキラ浮いている。
「うわ、これがラーメン!すっごくおいしそうな匂い!」
「ね!すごく美味しそう!食べよ食べよ!」
ヒベルとカノミュは同じタイミングでスープから麺を取り出し息を数回吹きかけて啜った。
ズズッ、ズズズッ!
「ん~!おいしい!すっごくおいしいよ!こんなにのど越しがいい食べ物は生まれて初めて!」
ヒベルは初めて食べるラーメンに感動していた。
「でしょでしょ!私もラーメン大好き!足りなかったらもう一杯食べちゃえば?」
カノミュはニコニコしながら子供を見るような眼で見守っている。
「どうですか?遠慮せず食べていただいてますか?」
厨房から店主がやってきて2人に声を掛けてくる。
「はい!すごく満足です!特にラーメン!初めて食べて感動しました!」
ヒベルは珍しく他人に自分の正直な感想を勢いよく伝えた。
「おじさん!全部美味しかったです!ごちそうさまでした~!」
カノミュも満足気にお礼を言う。
「そいつはよかった!ところで、今晩の宿は決まってるんです?」
「あ……そうだ!料理に夢中でそれどころじゃなかった!」
カノミュはハッとしてヒベルと顔を見合わせる。
「それでしたら、うちに宿泊なさってください!宿屋もやってるので大歓迎ですよ!さすがにそっちのお代はいただきますけどね!ワハハ!」
店主は明るく上手な営業をしてきた、最初からそれが目的だったのかもしれない。
「助かります!是非、宿泊させてください!ちなみに……明日の朝もラーメン食べれますか?」
店主はニカッと笑いヒベルに親指を突き立てる。
リナスマ都市最初の夜は賑やかにヒベルの好物が判明したひと時だった。
読んでいただき、ありがとうございます!
ヒベル達の旅をもっと見たい!って思ってくださった方は、是非!
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