4.旅立ちと目的
旅立ちと目的
―翌朝、午前7時30分頃―
カノミュはベッド、ヒベルは床にタオルを敷いて寝床を作り眠りについていた。
二つの遺物は棚の上と机の上で沈黙している。
ヒベルは窓から射す朝日を受けて目を覚ます。
「痛たた、やっぱり床で寝るとあちこち痛むな、でも慣れないといけないか。これから野宿も増えるしね。」
自分に言い聞かせながら立ち上がり、水汲み場で顔を洗ってキッチンに立つ。
(この家に、今度はいつ帰ってくるかわからないから、持っていけない食材を食べちゃわないと)
そんなことを思いながら卵4個とベーコンを6枚をフライパンで焼き、スライスしたパンの上に乗せる。
「ん~、いい匂い……おはよう、」
いつもよりおっとりした声でベッドの上から声を掛けられる。
「起こしちゃってすみません、顔は外の水汲み場を使っていいので洗ってきていいですよ!冷たいので目が覚めると思います!」
葉野菜を手でちぎりながらヒベルはおっとりした声に答える。
「ん!ありがと!よ~し、起きるぞ~!ニットンとカブルツさんは起きてる?」
ベッドから起き上がり両手を上げ伸びをしながら、カノミュは遺物に話しかける。
「我らは眠る事を忘れている。何も考えない事が眠る事なのだとしたら今は起きている。」
「まったく、おっさんの答えは固すぎるぜ、まあ、そうだな。厳密には多分寝てないんだと思うぞ。何も考えない事が出来るようになっちまっただけだな。」
二つの遺物の壮絶な過去を想像させられるが、全く気にしてないように答えが返ってきた。
「そっかそっか!じゃあ、人間に戻る事が出来たら、まずはたくさん眠りなよ!嫌なことも考え事もすっきりするから!顔洗ってくるね!」
カノミュはドタドタと小走りで外に向かう。
「人間に戻る、か……」
「おうよ!きっと魔王を倒せば俺らの呪いも解けるだろうぜ!その時は腹いっぱいのメシとうまい酒を飲む!そう決めてんだ俺は!」
ヒベルはサラダをお皿に盛りつけながら言葉を発する。
「カブルツさんは人間に戻ったらやりたい事とかあるの?」
「そうだな、我は魔王を倒す事が使命。その先のことはまだなにも考えられそうにない。」
カブルツは若干うつむいてそうな声で話す。
「そっか……じゃあさ!僕も一緒にカブルツさんのやりたい事を探してあげる!これから世界を冒険して、そのうちにきっと見つかるよ!」
ヒベルはカブルツが暗くなっていることを察して声を掛ける。
「ふっ、頼もしい限りだ。やりたいことを見つけることが当面のやりたいことになるな。」
ガチャ、バタバタバタ
カノミュが扉を開けて小走りで家に入ってくる。
「あ~さっぱりした!お待たせ!ご飯だよね!準備手伝わせて!」
明るく元気な声が部屋を照らしてくれる。
(カノさんには適わないな~)
ヒベルは心のなかで楽しげにつぶやく。
「ご飯はできたので、フォークとナイフを並べてほしいです!それとミルクを鍋で温めたので、コップによそっていただけたら助かります!」
カノミュはテキパキとヒベルに言われたことをこなしていく。
ヒベルもテーブルに料理を並べ2人が席に座る。
「わ~美味しそう!昨日の夜ごはんもおいしかったけど、今日のも素敵だね!いただきます!」
カノミュはにこにこしながら目玉焼きとベーコンの乗ったパンに手を伸ばす。
「ありがとうございます!消費しないといけない食材で作ってるので、うまく出来たかわかりませんが、口に合ったならよかったです!」
「ねえねえ!ずっと、ず~っと気になってたんだけどさ!丁寧すぎ!!!”もぐもぐ”仲間なんだよ?パーティーだよ?そこがヒベル君の良い所なのかもしれないけどさ~なんか~壁がある気がする!”もぐもぐ”」「だ!か!ら!敬語禁止条例を発案します!!カブルツさんにもだよ!せっかくパートナーなのに敬語で話して、いざって時の連携にも支障がでるかもしれないよ!”もぐもぐ”」
カノミュは食べる手を止めずに、思っていたことをぶつける。
「……え、急にそんなこと言われても……カブルツさんも失礼に思っちゃうかもしれないですし……」
ヒベルは唐突に敬語禁止条例を突き付けられ自然とカブルツに助けを求める視線を送る。
「我は気にせん。カノミュ殿の言う通り戦闘において、連携の遅延は命取りになる……そうだな、汝よ。これからは友として接するよう心掛けてくれ。」
「そんな、カブルツさんまで……友達なんてできたこともないから……」
言葉を探しているヒベルに向かってしびれを切らしたニットンが発言する。
「全く、昨日の雄姿はどこに行ったんだよ!魔王を一緒にぶっ倒すんだろ?男なんだからうじうじしてねぇで、ビシッと仲間として胸を張りやがれ!」
「さすがに、今回はニットンの味方になろうかな!ヒベル君、いいや、ヒベル!私たちは仲間!友達以上の存在なんだよ!」
カノミュは口を拭きながら幸せそうな顔で声を張る。
ヒベルはまたしても動揺を隠しきれずおどおどしている。
ただ、胸の奥は温かくなっていく。
「わかりました……いやわかった。そうだよね。みんなで一緒に世界を救う仲間だ!カブルツ!カノ!ニットン!改めて、よろしく!ちょっと慣れるまで時間がかかるかもだけど、仲間としてがんばるよ!みんな、ありがとう!」
ヒベルは少し顔を赤くしながら、自然に頭を下げる。
「おいおい!誰が呼び捨てでもいいっていったよ!ニットンさんだろ!敬語は百歩譲ってやるが、年下にニットンはゆるせねぇ」
「もう!ニットン!呼び方なんてどうでもいいでしょ!せっかく味方してあげたんだから!そこは千歩ゆずりなさいよ!いい雰囲気ぶち壊しじゃない!」
「全く、この家の中がこんなに騒がしくなるとはな……汝よ、わしからも改めて頼むぞ。今後は遠慮などいらぬ。思う存分仲間として生きようぞ。」
「はい!よろしく、カブルツさん……じゃなくてカブルツ!」
賑やかに朝食を食べ終える。
旅立ちの準備を進めていると、玄関からノックの音が響いた。
「お~い!俺だ!ダグビルだ!ヒベル!いるか?」
ヒベルは玄関まで小走りで向かい鍵を開けて招き入れる。
「お、やっぱり思った通りだ。出発するんだな、ヒベル。」
ダグビルはヒベルを真っすぐに見つめ肩に手を置き微笑んでいる。
「はい!3年間、諦めずに指導していただきありがとうございました!どんな強敵でもダグビル教官を思い出せば倒せそうです!」
ヒベルはうっすらと涙を浮かべながら笑ってみせる。
その、目を潤ませたものが今までの悔しさとダグビル教官の優しさへの感謝の表れだろう。
「立派になったものだ。思う存分、冒険してこい!俺も現役だったら着いていきたかったが、生憎もう年だ、この町をしっかり守っておいてやる!おっと、これを渡そうと思って来たんだ、手を出せ。」
ごそごそと、ダグビルは上着のポケットに手を入れ、厚めのカードのような物と筒状に丸まってる紙と拳サイズに膨らんだ袋を取り出す。
「まずはこれだな、冒険者ライセンスだ。これがお前の身分証ってわけだ。各町の門番とギルドに見せるんだぞ、旅を続ければ受けられるクエストのランクも上がってくる。まだ新前のJランクからスタートだが魔物を倒すだけがクエストってわけでもないからな。」
ヒベルは深く頷き冒険者ライセンスを受け取る。
「そしてこれだ、少し古いがこの世界の地図だ。まずはここから東に向かってリナスマ都市に向かえ、あそこはデカい。こんな町とは比べ物にならないぐらいの人口と規模だ。今後の目的地もきっと見つかるさ。……それと、ほら!」
ダグビルはヒベルに地図を広げてみせ説明し終えると今度は何かが入った袋を手渡した。
お金だ。
「まあ、多いとは言えないが、俺の給料5ヶ月分はある。この先いくらあっても困らないだろう。」
その袋の中には金貨が200枚程入っていた。
質の高い冒険者の剣が30本は買える金額だ。
ヒベルは袋の中身をのぞき込み、驚愕した声でダグビルに突き返そうとする。
「いやいや!さすがに受け取れませんよ!こんな大金!僕に期待しすぎです!」
あたふたしてるヒベルに向かって、ダグビルはため息をつきながら説明する。
「いいや、これはお前のだ。実はな、ここだけの話……お前が卒業試験を突破できるか教官達で、掛けてたんだ!そしたら俺の独り勝ちだ!これでも半分だぞ!残りは俺の人生を掛けてお前を信じた俺の物だがな!お前にはそれの半分!200枚の金貨を譲ってやるってわけだ!ガハハ!」
「じゃあな!気を付けて楽しめ!お前の人生をな!ガハハハ!」
バタンと玄関の扉が勢いよく閉められる。
ヒベルは茫然と立ち尽くしハッと我に返る。
(ダグビル教官。賭け事はあんまりよくない事だけど、僕にたった一人。賭けてくれたんだ。絶対に無駄にしない。ありがとうございました。)
心の中でそっとつぶやく。
「ごめんね!着替えに時間かかっちゃった!誰か来てたよね!」
「全く、いつになったら出発できんだよ!それでも手と足ついてんのか?」
奥の部屋からカノミュとニットンが準備を終えて出て来る。
「うん、僕の事をこの町で一番期待してくれてる人と会ってたよ。楽しんで冒険しろってさ!」
カブルツは一連の流れを知りつつ敢えて何も言わずに時を刻む。
「さあ、出発しよう!僕らの最初の目的地……リナスマ都市へ!」




