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2.今後への葛藤

今後への葛藤

 ―ロック・ゴーレムを倒した日から3日目の朝―

 

 魔法学校の医務室のベッドの上でヒベルは目を覚ます。

 (はぁ、魔法学校に常駐してるヒーラーに1日で治してもらえると思ってたのに……まさか、ヒーラー志望者の卒業試験で被験者役になるなんて聞いてなかったぞ!)

 

 ヒベルはやっと完治した身体を起こし、まだ、冷たい床を踏みしめながら、着替えを終え。

 もうここには用がないと言いたげに医務室の扉を開けた。

 ちょうどそのとき、医務室に向かって歩いてきたのはダグビル教官だった。

 

 「おう、ヒベル!完治したそうだな!よかったよかった!」

 人の気も知らないでダグビル教官が話しかけてくる。


 「ひどいじゃないですか!アタッカー卒業試験でケガをした生徒をヒーラーの実験役にするなんて!人のやる事じゃないですよ!!おかげで、骨折を治してもらうはずが大ケガになった時だってあったんですから!」

ヒベルはらしくもなく、不満を教官にぶつける。


 「なんだ、知らなかったのか?毎年の恒例行事だぞ?まあ、そんな話よりも……おめでとう。と伝えたくてな。」

 ダグビル教官は歴戦の戦士のような顔を少し緩ませながら言葉を掛けてくれる。

 「お前が3年前に生徒として入学した時は、正直なんの冗談かと思ったぞ、まさか、魔法が使えない生徒が冒険者学校に入って冒険者を目指すなんて無謀にもほどがあるってな」

 少し間を開けながら話し続ける。

 

 「だが、お前は一度も諦めなかったな、剣術を磨き、魔法禁止の模擬戦では勝ち続けてみせた。そして、この前の卒業試験でやっと自分の才能を開花させたな。」

 

 言葉を選んでるダグビル教官に対して。

 ヒベルが先に言葉を発する。

 「実は僕も本当に冒険者になれるなんて思ってなかったんです。魔法が使えない落ちこぼれだの、笑い者だの言われて、何回も諦めそうになりましたよ。だけど父さんに昔、言われたんです。失った時間は戻せない、前に進み続けろってね!」


 その言葉を聞いた教官はヒベルに向き直り、真剣な表情に戻る。

 「よし、もう俺もお前を冒険者として認めよう。これから、お前は今まで以上に困難な道を進むことになるかもしれん。まずはお前を訪ねて待っていた彼女に会ってくれ。」


 ヒベルは教官の言葉を聞きながら疑問に思う。

 「ん?彼女?誰かが僕のことを待ってるんですか?」

 心当たりのない言葉に動揺しつつも、心のどこかである人がよぎる。

 (もしかして、母さん)


 「今は、この学校の中央棟6階の客間に居るはずだ。そこで君を待たせてくれと卒業試験の日に突然押し掛けてきたんだ。まったく……だが、話を聞いたら驚いたさ……兎に角、一度会ってきなさい。俺はお前が客間に向かったことを校長に報告しておく。」


 校長先生?と疑問に思いつつも、ヒベルは緊張を隠しつつ教官に頭を下げて、6階の客間に早歩きで向かった。


 (6階の客間はここかな。)

 人が出入りするには大きすぎる扉、豪華な金色の華の装飾が目立つ。

 

 取り敢えず、3回ノックをしてみるヒベル。

 「どうぞ、入ってください。」

 扉の中から若い女性の声が返答してくれた。

 

 両手で重い扉を押しながらヒベルは扉の中へ踏み込み、ギギギーと古臭い音が廊下に響く。


 「やっと来てくれた!ヒベル・レリックスさん!ですね!」

 とがった黒い帽子を被った白くて長い髪の女性が明るい声で話しかけてきた。

 ヒベルの想像していた人物ではなかったその女性は椅子から立ち上がり小走りで近づいてくる。

 

 「あ、あの、どちら様ですか?僕のことを待ってたって聞いて来たんですが……」

 知らない人からの突然の呼び出しに動揺を隠せない。


 「あ~、忘れてる?この前の卒業試験、受付の時に会ってるじゃないですか!こんな美人を忘れるなんて相当緊張してたんだね!」

 ヒベルは冗談を言い合う仲のいい友達なんていなかった。

 だからこそ、唐突な明るい冗談交じりの会話にますます困惑する。


 「あ、その、すみません。何となくは覚えてます……」

 ヒベルは何とか言葉を探しながら口に出す。


 「もう、戸惑い過ぎ!一旦深呼吸しなよ!私の名前はカノミュ・マリアーク。あなたと同じ、古代遺物に選ばれた者よ!みんなからはカノって呼ばれてる!」

 両手を腰に当て胸を張りながら、堂々と自己紹介をされる。

 

 「……はぁ……マリアークさん、あの、古代遺物……ってなんですか?」

 

 「もう!かたいかたい!カノでいいってば!年齢だって、私が二、三個上ぐらいでそんなに変わらないから!そんなにかしこまらないでよ!」

 カノミュは両手を広げたり指を折ったり、ジェスチャーをしながら騒がしく説明し始める。

 「まあ、追々だね!えーっと、古代遺物のことだよね!それは紛れもなく、あなたが左腕に着けてる時計よ。」


 ヒベルは自分の腕時計を見ながら半信半疑で話を聞いている。

 「あの、さっき僕と同じ古代遺物を持ってるって言ってましたよね?マリアークさん……じゃなくて、カノさんも腕時計を持ってるんですか?」

 ヒベルは一旦話を飲み込みながら一つずつ、整理しながら話を進める。


 「いい質問です!ヒベルくん!ですが、残念!私は腕時計をもってません!私が持ってるのはこの帽子!ニットン!ほら、挨拶して!」

 カノミュの被っている黒くてツバの大きいとがった帽子が声を出す。

 「やっと俺の出番か!まったくカノの動きが激しすぎていつ落とされるかヒヤヒヤしてたぜ。」

 

 ヒベルはぽかんとアホみたいな表情で、カノミュの頭の上から声がする奇妙な光景を頑張って受け入れようとする。

 「俺はニットンって呼ばれてる、カノの相棒だ!手出そうとか考えんじゃね~ぞ!」


 ヒベルは状況を受け入れるために頭を整理するが、追い付かない。

 「あの、カノさんの帽子と僕の腕時計が同じ古代遺物?よくわかりません!どうして喋れるんですか!ニットンってなんですか!」

 ヒベルは頭を抱え自分はなにがわからないのか混乱しながら訪ねる。


 「汝、少し落ち着け、彼女らの話を聞こう。」

 カチッと針を鳴らしながら左腕の腕時計が声を掛けてくる。

 ヒベルも聞いた事のある、あの声だ。


 「もしかして、僕の腕時計も喋ってる!?いや、確かにあの戦いでも喋ってたと思うけど、まさかだよね!そんな、喋れるってどういうこと!」

 ヒベルはとうとうパニックになり目が回りそうだった。

 

 その時、扉が開き白い髭を長く伸ばした老人が入ってくる

 「ほっほっほ、なにやら賑やかじゃのう。どうだ、話はすすんでおるか?」


 ヒベルは扉から入ってきた人物にハッとする。

 「校長先生!?あっそうだ、教官が校長先生にも伝えるって言ってたっけ。お、おはようございます、僕もうなにがなんだかわからなくて。」


 「全く、頭の弱い人間だなぁ!考えればわかるだろ!簡潔に説明してやる!お前は腕時計の古代遺物に選ばれて覚醒した勇者の一人でこれから仲間を集めて一緒に魔王をぶっ倒すぞって話だ!」

 帽子が藪から棒に説明をしてくる。

 「ちょっと!ニットン!順番に説明しないと余計混乱させちゃうでしょ!黙ってて!」

 カノミュは頭に乗っている帽子を両手でふさいでいるが、果たしてそこが口なのかはわからない。

 

 「ほっほ、結構結構。どれ、それでは混乱しておる勇者ヒベルよ。わしが昔話と君のこれからの道を少し示すとしようかの。」

 校長先生が指を鳴らした。パチッ!

 すると、さっきまで部屋の中にいたはずなのに全員で空を飛んでいる。

 

 ヒベルは足がすくんだ。こんなリアルな幻想魔法は初めての体験だった。

 

 「安心せい、ただのイメージ、幻覚みたいなものじゃ。よく観て聴きなさい。」

 「今見ておるのは、約500年前の世界じゃ、まだ、人が魔法を使う事が出来ない時代。この頃から世界は魔王に支配されていた。」

 「だが、人間は強い生き物じゃ、勇気のあるものを集いそれぞれが武器を手に。魔王討伐へと向かった。」

 

 ヒベルは息を呑む、目の前で見ているイメージが500年前の同じ世界だとは思えない。川が干上がった大地に荒廃した建物。空は赤黒く、写る人間の表情は絶望そのものだ。

 

 「50人の勇者による猛攻で、魔王に深手を負わせることはできたが、討つことはできなかった。相討ちという形かの……勇者達は皆、魔王の強大な力により異物へと姿を変えられ、世界へ散り散りにされたそうじゃ……一方の魔王は傷を癒すために地中深くへと身を潜めたと言われておる。」

 さっきまで騒がしかった全員が静かに耳を傾ける。

 「そして現代。人々は進化し魔法を身に着けモンスターをしのぐことが出来ておる。だが、肝心の魔王は傷を癒しつつあるでおろう。その魔王が完全に復活した際、再び世界は闇に包まれる。」


 校長先生は指を鳴らす。パチッ!

 さっきまでの客間に戻ってきた。

 「そして、今、世界に50個しかない鍵がここに2つある。」


 ヒベルは黙って話を聞いているが、頭の中はパニック状態に変わりはない。

 (500年前に50人の勇者が戦って、異物になった!?そしてそのうちの1個が父さんの形見で腕時計!?)


 「そーゆーこと!私もあなたも元勇者、古代異物に選ばれた人間ってわけ!しかも、魔法適正ゼロで卒業試験を受けて、見事に覚醒して晴れて冒険者!まさに勇者じゃない!」

 拍手をしながら説明してくれるカノミュに向かって、すかさず帽子がツッコむ。

 「いやいや、こいつ結構ボロボロだったぜ?大丈夫なのかよ……」


 「待って!ちょっと!僕が選ばれた勇者だって!?ないない!確かに、この腕時計で試験は何とかなったけど、覚醒とかよくわかんないよ!」

 ヒベルは動揺と困惑が止まらない。

 無理もない、試験の日まで魔法の使えない笑い者だったのだから。

 

 「汝、少し落ち着け。我が覚醒したのは事実。」

 腕時計が落ち着いた口調で語りかけてくる。

 

 「そもそもよ~、もう少し早くお前が色々教えてあげてればよかったじゃね~か!この感じだと覚醒して以降、喋らなかったんだろ?まったくよ~」

 カノミュの帽子があきれた声をだす。

 「我も混乱しておったのだ、徐々に記憶を取り戻した。まだ、あやふやな部分も多いがな。」

 

 頭の整理が追い付かず、呆然と立ち尽くすヒベル。


 校長先生が手を叩く。パチン!

 「ヒベル・レリックスよ。急な話じゃ、一度家に戻りよ~く考えて進みなさい。勇者として魔王に立ち向かうもよし。冒険者として生き抜くもよし。すべてを捨て、逃げるもよし。すべてそなたの人生じゃ。誰も責めはせん。」

 優しく、鋭く校長先生の言葉が胸に刺さる。


 「そうだよ、そうだよね、ごめんね。ヒベルくんの気持ちを考えず舞い上がっちゃって……もし考えがまとまって、魔王を討つと決めたなら明日、この時間にここへ来て。」

 カノミュは悲しそうな表情をしながらも口元に笑みを浮かべ、静かに言葉を残した。


 ヒベルは何も言わずに客間を出た。

 (勇者、古代遺物、魔王……父さんは知ってたのかな……)

 

 数日前に通った通学路が懐かしく感じるが、そんなことよりも頭の整理で気づいたら自分の家へと帰宅していた。

 喋らない腕時計がただただ、時を刻んでる。


 ―夜、ヒベルの家―


 「ねえ、あなたは本当に元勇者なんですか?」

 ヒベルは家に戻り、軽く食事を済ませ、改めて頭の中を整理し、腕時計に話をしてみようと試みた。


 腕時計は反応するようにカチッと音を立てた。

 「そうだ……我は元々、勇者として魔王討伐に出向いた。そして、敗れた。魔王は恐ろしく強大な力を有していた。」

 腕時計は静かに答える。


 「そっか、まだ信じられないけど。えっと……腕時計さんも大変だったんですね。それも姿を変えられて500年も声すら出せなかったなんて……」

 ヒベルはなんて呼ぶのが正解なのかわかってないが、本心を口に出した。


 「我の名はカブルツ。汝、頭の中は落ち着いたか?」


 「はい。だいぶ、落ち着きました。まだ、どうすればいいのか決められてないですけど。」


 「無理もない。よければ、我が思い出したことを聞いてはくれぬか。また、混乱させてしまうかもしれんが。」


 ヒベルは黙って頷いた。


 「先程の城で、校長とやらが聴かせてくれた話しはほとんどが真実。だが、相違している部分もあった。」

「50人の勇者が一斉に立ち向かったのではない。勇敢な者それぞれが仲間を集い、討つために動いた。我の時代にはニットンと呼ばれる者はいなかった。」

 

 ヒベルは静かに話を聞いている。


 「我も4人の仲間と共に魔王討伐に向かった。だが、負けた。それも、一方的にな……」

「ヤツは楽しんでるんだ。自分を倒す存在を、立ち向かってくる者を殺さず。姿を変えて飛ばす。」

「魔王に言われたさ。姿を変えられたとき『また、楽しませてくれ』とな。そして、長い時が過ぎた。初めは考えた。どうやったらもとの姿に戻るのか、声も出せない感覚もない、だが思考は出来る。」


 ヒベルは息を飲む。考えただけで残酷だと感じる。


 「そして我は諦めた、考えるのを辞めた……だが、汝が力を求めた日だ。叩き起こされた気分だったが、咄嗟に力になりたいと強く願った。ありがとう、我を長い絶望から救ってくれた。」


 ヒベルは急な真実と感謝の言葉に驚いた。

 「いや、僕の方こそ。カブルツさんのお陰で冒険者になれた。助けられたのは僕の方です。」


 ヒベルは腕時計に向かって頭を下げる。

 まるで目の前に尊敬する人が存在してるかのように。


 「全く。汝は人が良すぎるな、だからこそ我も目覚められたのかも知れぬな。」

 カチッと音を立てながら腕時計はつぶやく。


 「カブルツさんは……もう一度、魔王討伐に挑みたいですか?」

 ヒベルは複雑な心境を隠せずに問いかける。


 「愚問だな。何度でも挑むつもりだ。この世界を絶望から救うと仲間と共に誓った。恐らく500年前の事だが、仲間も我と同じように姿を変えられたのならば、また会える日もこよう。もう一度人間の姿に戻りたいなどと贅沢は言わんが、約束を果たすため進む覚悟だ。」


 ヒベルは腕時計の話を聞いて父親の言葉を思い出す。

 「進み続けるか……すごいな、僕だったら怖くて挑めないです。でも、僕にもやりたいことがある。母さんを見つけて家に連れて帰る。そのために冒険者になったんです!今さら諦めるなんて出来ません。」

 「カブルツさん、僕と一緒に冒険しましょう!その道中で魔王に出会ったら戦います!どっちみち、お互いがいなきゃ……ただの笑い者と腕時計ですもんね!」


 腕時計が笑みを浮かべた気がした。

 「そうかもしれぬな、汝を笑うものは我がお灸を据えてやろう。」


 「カブルツさんが、ただの腕時計ってバカにされたら盾と剣に変身して驚かせてやろうよ!」


 1人と1個は冗談を言い合いながら昼間の窮屈な時間を忘れ眠りについた。

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