Sheet5:エピローグ
チーム『エクセレンター』定例会議。
定例会議といっても、月の収支報告が主で、実際はLINEのやり取りで済むような内容だ。
普段から三人とも店にちょくちょく顔を出しているので、あえて召集をかけることもほとんどなくなっていた。
エルのセミナーのあと、スナック『エンター』の客足は目に見えて伸びた。
それもあって、今日は久しぶりに定休日を利用し、ゆっくり話すために店へ集まってもらった。
セミナー自体も好評で、その後も継続的にオファーが入っていた。
カリキュラムの内容は薔薇筆の会社の資料をベースとしていたが、講師のエルは部外者であり、エルフの演出には育美も関わっていた。
そうして『エルフのエクセル講座』は、ひとつの“フォーマット化された”コンテンツとして形になった。
薔薇筆の会社には正式なマネジメント部署はない。これまでは薔薇筆が片手間で対応していたが、いつまでもそうもいかない。
いっそ『エクセレンター』の案件として扱おう――そんな目論見があった。
「じゃあマネジメントは、グッさんのところでお願いします」
アキラがボックス席の川口に声をかける。
川口は膝にいる猫のオムを撫でながら、「あぁ」と短く応える。
休業日は、一階の店にオムを連れてきてもよいことになっていた。
「グッさん、そうしてると悪の総統みたいだな」
「失敬な。優良企業の経営者だぞ」
ふたりは笑いながら、いつもの調子で軽口を交わした。
その後はいつものように雑談タイムへ。
エクセルの数式入力の話から、ふと別の方向に話題が飛ぶ。
「どうにも納得いかないことがあるんですよ」
薔薇筆が腕を組みながらつぶやいた。
「小学校の算数で、“AかけるB”を“BかけるA”にしたら不正解って言われるんです。掛け算は順序を入れ替えても同じはずでしょう?」それを聞いた育美が、コーヒーを置いて笑った。
「あら、それは違うわ。逆にしたら全然別のものになるの」
「えぇ? 数学的には変わらないはずだよ!」
「でも人間社会では変わるの。順番が逆になったら、争いになるわよ」
「な、何の話ですかそれ!」
エルが肩を震わせ、アキラは咳払いして笑いをこらえる。
二人には、育美の言いたいことがすぐに分かった。
主に腐女子界隈で用いられる“規則”。
A夫×B男の場合、左のA夫が攻めで右のB男が受け。逆にすれば攻め受けが入れ替わってしまう。
人間界に来てまだ日の浅いエルだったが、育美の“教育”のおかげでそちらの呪文体系もマスターしていた。
「理屈は通ってるでしょ?」
育美は涼しい顔で微笑む。薔薇筆は口を開けたまま固まり――やがて、エルがぽつりとひと言。
「“交換法則”にも例外があるみたいですね、人間の世界には」
〈完〉




