【4話-3】現代のねずみ小僧騒ぎで大パニック!
「…え?まさか、あの会話が原因?」
今まで何も入れていなかった空っぽのデスクに今朝こつぜんと現れた契約書。いまのところ考えられることとしては、テトが盗んで俺のデスクに入れたことしか思いつかない。
「やばいやばいやばいやばい」
これが上司にバレたらどうなってしまうのか想像がつかない。現に周囲の状況はヒートアップしており、誰がつくったのか、オフィスの真ん中にはいつの間にか磔用の巨大な十字架が鎮座していた。オフィス内の机や椅子を駆使して作られたソレは、建築資材のないコンクリートジャングルでの創意工夫が感じられる超大作であった。
「犯人を見つけたら、まずは磔だ!!」
「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」
「・・・」
もう目的と処刑の順序が逆になっている。みんな目が血走っており、人の心を忘れてしまったらしい。そのとき、視界の隅にちらちらと黒い影が映った。そちらへ目を向けると、ビルの窓の外で逆さまになってゆらゆらと揺れながらこちらを見ているテトと目が合う。
(お、お前ぇえええええええ!)
声に出さず、静かに、けれども大口を開けてテトに怒りを伝える。テトはそれをどう勘違いしたのか、しっぽを主軸にぶらさげた体をさらに左右へ大きく揺らし、にこにこと笑いながら呑気に手を振ってくる。
(こ、れ、は、お、ま、え、が、い、れ、た、の、か!)
自分のデスクを指し、小さなジェスチャーで彼女へ尋ねる。
(そ、う、だ、よ!)
ぱくぱくと大きな口パクでテトが答える。やばい、これで俺関連で起こったことだと判明してしまった。頭を抱えていると、テトが大きくウインクをする。
(どうにゃ?少しはスッキリしたかにゃ?)
テトは子どもが親に褒められるのを待っているかのような笑顔でこちらを見ているが、お前は俺の後方にある巨大な十字架が見えていないのか。あなたのせいで俺はいまピンチです。
(は、や、く、も、ど、せ!)
(え~?なんでにゃ?)
(見つかったら、俺が磔にされるだろうが!)
そこでテトはようやくフロアの真ん中にどでかく建った十字架に気づいたらしい。慌てた様子で俺にこう伝えてきた。
(磔用の釘を痛くないものにすり替えておくにゃ!)
(そうじゃねぇえええええええええええええええ!)
俺が磔にされる前提で話を進めるな!釘をすり替えることができるなら、書類を元に戻して欲しい。これが原因で、俺はいま処刑されそうになっているんだ。
(わかったにゃ。そこまで言うなら戻すにゃ。ちょっと待ってにゃ)
そう言うと、テトの姿はシュッと真上に消えていった。俺の会社があるフロアは最上階とはいえ、どこにどうやって体をぶら下げていたのか謎である。
テトの救援を待ちつつ、誰にも机の中を見られないように自席に陣取っていると、
「こうなったら埒が明かない!持ち物検査を実施する!」
突如として放たれた上司の一声により、人生最大の危機が訪れた。




