【2話-2】俺の風呂場は産卵場所じゃありません!
それからの3日間。いつもと変わらない日常を送りつつも、家に帰れば風呂場に直行して妖精たちの様子を見守る毎日が続いていた。ごはんや水分補給は、妖精には必要ないらしく考えなくていいのは助かった。電気を落とした暗い風呂場を小さな妖精たちの淡い光が照らす幻想的な光景は、時間を忘れて見続けられる美しさで、異世界情緒あふれる空間に心が癒される。
勇者やその仲間たちも時折見に来ては、
「はやく、山田の頭が正常に戻りますように」
「勤めている『カイシャ』という組織が異常だと気づきますように!」
と、こちらをチラチラ横目で見ながら、なにやら失礼なことを大声で言いつつ妖精たちを拝んでいた。…ぜったい、妖精への接し方を間違えているだろう。
そして3日目の夜。
明日が命日になりかねない危険を犯し、パワハラ上司の怒鳴り声を背に浴びつつ飛んで帰ってくると、すでに草葉で作られた鳥の巣のようなお椀型の器に置かれた5つの卵が、ことことっ、ことことっ、と小さく揺れていた。
「もうすぐ生まれるのか…?!」
周りを飛び交うとびかう妖精たちと一緒に息をのんで卵を見守っていると、やがて徐々に殻へヒビが入り、内側から小さな小さな人型のおててが飛び出してくる。そしてそのままの勢いで殻全体からぜんたいが割れ、かわいらしい産まれたての妖精が顔を出し、黒目いっぱいのきゅるきゅるの瞳で俺を見上げた。
「うおーーーーーーー!かわいいぃいいい!」
あまりの可愛らしさに思わず絶叫してしまう。妖精は生まれたばかりの柔らかそうな手足を一生懸命に動かし、卵から這いはい出てくる。大人の妖精も小さいが、目の前の生まれたての妖精はもっと小さい。俺の小指ほどのサイズしかない体を一生懸命に震わせて背中に生えた羽を伸ばし、やがて乾ききった羽を綺麗に羽ばたかせ、元気よく風呂場を飛び回り始めた。
「よかった!」
まさか自分の家の風呂場で異世界の不思議な生き物が誕生するなんて夢にも思わなかった。その後も無事に5つの卵は次々と無事に孵りかえり、最初に飛び立った妖精がそっと俺の頬にキスをしてくれた。




