【4話-5】現代のねずみ小僧騒ぎで大パニック!
「――それで全社員の検査をしていると」
「申し訳ございません」
社長の前で頭を下げる全社員。それも普通の下げた方じゃない。全社員、床に平伏した土下座のポーズだ。社長が来た時には、このポーズでお迎えすると社内規定にも記されている。いつの時代の大名だよ。
「何億円規模の案件だ。徹底的に探しているとの判断は良いことだ」
「社長…!」
うるみ切った目で上司が平伏のポーズのまま社長を見上げる。第一声には怒鳴り声が飛ぶかと思っていたら案外優しい。
「ただし、全社員の仕事の手を止めるんじゃない!」
「へぶぅっ!」
やっぱり優しくなかった。平手打ちされた上司がはるか後方に吹っ飛ぶ。それもそのはず。世の中の『社長』という生き物は体を鍛えたがるものだが、例にもれず仕事をせずにヒマな時間をすべて筋トレにあてている社長の体は常人の3倍はあろうかというデカさだ。そこにちょこんと世間一般的な日本人のおっさんの生白い冴えない顔が乗っており、まるでおっさんの頭がボディービルダーの体を乗っ取った新手の怪異のようだ。その怪異の一撃を受け、上司は完全に床で伸びてしまっている。
「全社員ただちに仕事に戻れ!荷物と身体検査は私が行う」
「「「は、はいっ!」」」
社長の一声で、平伏していた社員たちが各々のデスクにしぶしぶ戻り始める。身体検査とはいえ、仕事をしなくても許された時間が終わったのが不満なんだろう。テトは俺のデスクから抜き取った書類を手に持ち、盗み出した上司のデスクに近づいているところだった。やばい、このままではテトが見つかる...!
「あ、あれは新商品のプロテイン!」
「むっ!」
社長が俺の指さした方へ瞬時に反応する。その隙に、俺は社長の頭に不自然にのっかったふさふさのカツラを一気に剥ぎ取った!
「あ…」
「あ…」
「あ…」
みんなの視線が社長の頭頂部へと集中し、声を漏らす。驚く者は誰もいなかった。なぜなら社長の頭は、左右から覗くバーコード頭の頂点だけがふさふさという赤ちゃんもびっくりの不自然さ極まりない生え方をしていたからだ。
「こ…」
「こ?」
社長の体がぷるぷると震えている。体中の色が真っ赤に染まり、心なしか体がどんどん膨れ上がっているのは気のせいだろうか。
「殺すーーーーーー!」
雄たけびとともに内包していた巨大な筋肉が爆発し、その質量でスーツを破り去る。そしてギラギラとラメが光る赤いブーメランパンツ一丁の姿で俺のことを猛烈に追いかけ始めた!
「処刑処刑処刑処刑…」
「怖すぎる!」
いっとき世を騒がせたブラック企業の社長が社員に当てたトークメッセージを思い出させる、現代ではなかなか聞かない物騒な言葉をぶつぶつと念仏のように呟きながら追ってくる。
逃げながらちらりと窓の外を見ると、テトが逆さづりになりながらグッドサインをこちらに送っていた。どうやら無事に書類を元に戻せたらしい。だが、いまの俺の状況はぜんぜんグッドじゃない。
「教育教育教育教育…」
「やっぱり、あの社長だ!」
どこの世界でもブラック企業の社長というのは似たような生き物らしい。一安心したのもつかの間、どすんどすんと巨体を揺らしながら追いかけてきた社長の巨大な片手に捕まった。明らかに哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ホモ・サピエンス種のサイズを超越している。どのみち、俺は処刑される運命だったらしい。自分の最後を悟り、俺は静かに目を瞑った。




