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10万PV突破記念特別話


 今回はリクエストにお答えして神子と天狼の出会いの話をしたいと思います。


「ねぇ、天狼さんと神子さんって幼なじみなんだよね?」


 とある休日の昼頃、リビングで皆がくつろいでいる時に由香が突然口を開いた。


「ええ、私と天狼は幼なじみよ。それがどうかした?」


「うん、二人の幼い頃の話が聞きたくて」


 神子はクスクスと笑うと懐かしそうに目を細めた。


「私達が幼い頃ね…聞きたい?」


「うん!」


「あ、じゃあ私も!」


「…俺も興味がある」


 由香が座るソファーに神威と由宇も加わる。


「そうね…何から話そうかしら…」


 神子は神威達と向かい合うように座ると尻尾をくるりと回し静かに口を開いた。









―約1000年前―


 天界…それは人間の住む世界とは別の世界。近いようで遠い、遠いようで近い。そんな場所にある神が住む世界だ。


 その天界の少し外れた場所に私の住家はあった。


「………」


 私は無口で殆ど自分から話をしないタイプだった。だから修業にしても一人でこっそりと、それも静かな場所でやりたかった。


 私は親元をすぐに離れて一人で天界の外れた場所にある使われなくなった小屋で生活していた。


 天界では神も人の姿で生活している。なんでも人が一番仲のいい種族だから…らしいが私にとってはどうでもいい事だった。


 私は瞑想を終えると神力の鍛練を始める。一人暮らしを始めてから私は毎日修業を欠かさなかった。『早く一人前になりたい』とそんな事ばかりを考えていた。といってもこれは建前で実際はただ自分のことを認めてもらいたかっただけ。


 今思えばこの頃は私も若かった…と言えば少し違うかしら。一応今も神の中では若い方に入るし。


 私の一日は朝早くから始まる。


 まずは顔を洗いに近くの川まで行く。運が良ければその川にいる魚をとって朝食に並べたりもする。


 家に帰ると着替えて朝食をすませてからすぐに鍛練を開始した。岩の上に座り目を閉じて集中する。体の中にある力の流れを操作して全身に纏う。


 力の流れは速い方がいいため、できるだけ速くできるように集中する。


 その後は近くの草原で体術の練習。それが一段落したら家に帰り掃除等を済ませる。すると丁度昼ぐらいの時間になるのだ。


 昼食後はしばらくのんびりと縁側に腰掛けてお茶を飲みながら暇を潰す。そして夕方頃に神力を使った術の練習をしてから夕飯を食べ、風呂に入り、読書をして寝る。これが私の生活だった。



―そう、彼女に会うまでは…





 ある日、私は天界の街中に来ていた。街中の様子は昭和の日本を想像してもらうといい。


 その時の私の見た目は人間でいう12歳くらい…といっても普通の人間の数十倍生きているが。


 着ているのは白い着物で髪はそのままだと地面につくほど長いため細くて赤いリボンを使ってツインテールにしていた。


 私が街中に行くことは滅多にない。精々食料を調達にくるくらいだ。そして私は滅多に喋らないため街の神達は私のことを「無愛想で可愛くない奴だ」と嫌っていた。


「おや、神子かい。食料の調達かい?」


 私が目的の建物に入ると優しい微笑みを浮かべたお婆さんが出てきた。


「ええ、いつもと同じだけちょうだい」


 おそらく彼女が私が唯一口を開き気を許せる相手だろう。彼女は作物を司る神で、この天界の神達の中でも最年長の部類に入る。


 彼女には名前がない…正確にはたくさんあってどれを名乗ればいいか迷っているらしい。だから私は勝手に『永花(えいか)』と呼んでいる。彼女の微笑みが花のようでそれが永遠に続くように、と。


 食料が入った籠を背負って帰り道を歩く。神は食事が必ずしも必要ではない。ただ、神力の回復を助けるので私は毎日食事を欠かさずとっていた。



 家に帰り着いたのは夕方で辺りは夕日で一面黄昏に染まっていた。私は荷物を置くといつもの鍛練のために草原へと出かけた。


 私が草原に着いた時、いつもとは違う光景があった。


 黄昏に染まった草原にぽつん、と一人の少女が立っていた。夕日に染まってはいるがそれでもはっきりわかる藍色の髪、同じ色の着物、そして髪をとめる髪飾りとその隙間から出ている獣耳。


 しかし、なによりも寂しそうに夕日を見上げる顔が美しくて…私はその姿に思わず見とれてしまった。


 どれだけそうしていたのか、彼女は私に気がついて振り向いた。


「……誰?」


 私はそのこえでハッと我に帰ると慌てていつもの無表情に戻った。


「私は神子。ここの近くに住んでるの。あなたは?」


 彼女は先程とは違った明るい笑顔で私を見る。


「私は天狼。よろしく」


 これが私と天狼の出会いだった。










 私が天狼と出会ってから彼女は毎日同じ時間に来るようになった。


 彼女はただ私の鍛練を黙って見ているだけだった。私もそんな彼女に何も言わずただ黙々と鍛練を続けた。


 気がつけば天狼と出会ってからから数年の月日が流れていた。


 そんなある日、ふと彼女が私に話し掛けてきた。


「ねぇ、神子はなんでいつも“独り”で鍛練してるの?」


「…え?」


 あまりにも突然の言葉に私は呆然とした。


「神子っていつも独りで鍛練してるじゃない。他に友達とかいないの?」


 私は何故か胸の奥がズキリと痛んだ気がして思わず顔を背けた。


「わ、私は独りがいいのよ」


「…本当に?」


  背後から聞こえる声に私は思わずビクリと肩を震わせた。


「神子って何だかいつも寂しそうにしてるよ?」


「そ、そんなこと…」


 そう言われて考えた。私は何故独りなんだっけ?


 早く一人前になるため?


 独りの方が気が楽だから?


 違う…きっと私は怖いんだ。あまり感情を表に出さない私を周囲の神達は嫌っていて、いつも私を避けた。


 そういえば友達を作ろうと何度か試してみたこともあった。しかし、上手くいかなくて時には拒絶されることもあった。その時、とても辛くて、悲しくて…


 それから私は周りに頼る事を止めた。親のかけてくれる優しい言葉すら私を苦しめる気がして私は一人暮らしを始め、毎日鍛練をして寂しさを紛らわした。いつかのようにまた拒絶されるのではないかと不安で仕方なかった。


「本当は独りは嫌なんでしょ?」


「……っ!!」


 天狼の言葉に思わず息を呑んだ。


 私は思わず逃げ出そうと駆け出した。しかしそんな私の右手を天狼が捕まえる。


「待って、神子!」


「離して!あなたに何がわかるの!」


 振り返って思わず怒鳴った私は再び息を呑んだ。


 その時見た天狼の顔がとても寂しそうだっから。


「わかるよ…だって、私も同じだから」


「…え?」


 天狼は出会った時と同じように夕日を見つめた。あの時と同じ寂しそうな顔で。


「私も友達がいないんだ…私は神力を操るのが下手でいつも馬鹿にされてた」


 天狼の手は離れていたけど私はじっとその場に立って天狼を見ていた。その横顔は儚くて、今にも消えてしまいそうなくらい美しくて…


「だからいつも独りで過ごしてた。そんな時この場所を見つけたの。そしてそこで鍛練してる神子を見て…綺麗だって思った」


「…え!?」


 私は聞き間違いではないかと思いながら天狼を見た。


「そ、そんなわけないでしょ!私が綺麗だなんて…冗談はやめてよ…」


 こんな無表情で無口な私が綺麗だなんて冗談だと私は思ったが彼女は首を横に振って私の方に振り向いた。


「私はね…頑張ってる神子に憧れてたんだ。毎日欠かさず鍛練をして、いつも一生懸命で、辛い顔も見せない神子が好きで…だから毎日ここに来てると元気をもらえるの…本当に神子はすごいよ」


 この時、私は初めて認めてもらえた。ずっと一人前になって誰かに認めてもらいたくて…それが叶った。


 思わず泣きそうになった私は天狼に背を向けて涙を堪えた。


「ねぇ、神子…明日から私もここで一緒に鍛練してもいい?」


 私は頷いて肯定した。今声を出したら震えて上手く喋れない気がしたから。


「よかった!じゃあもう一つお願いがあるんだけど…」


 私が涙を堪えながらゆっくり振り返ると、天狼は何やら顔を赤くしながらもじもじしていた。


「あ、あの…私いつも内緒で神子に会いにきてたんだけど…今日ばれちゃって…喧嘩して家を飛び出してきたの…だから…その」


 私は彼女が言いたいことを理解した。そして同時に可笑しくて思わず笑ってしまった。それはもう思いっきり笑った。


「え?み、神子、どうしたの!?」


「あはは、あは、ごめんなさい…あまりにも可笑しくて。親と喧嘩したから泊めてほしいんでしょ?」


 私がそう言うと天狼は更に顔を赤くした。


「わ、笑わないでよ!私は神子に会いたくてやったんだよ?」


 私は彼女に背を向けて歩き出した。私のために親と喧嘩したなんて…可笑しくて、呆れて、でも…とても嬉しかった。


「あ、神子!返事聞いてないよ!」


 だから私は振り向きながらありったけの笑顔で


「泊まるんでしょ?早く来なさい。置いていくわよ?」


 彼女に手を差し出した。


「あ……うん!」


 天狼はしっかりと私の手を握り返してくれた。


 その後、天狼と夜遅くまでずっと話をした。次の日、目が覚めると何故か天狼に抱き着かれていて全く動けず、私は初めて鍛練をサボった。


 それからというもの、天狼は毎日私の作った料理を食べに来た。夕方の鍛練は二人で一緒にやるようになり、天狼は私と互角に戦えるほどつよくなった。


 普段の生活も変わった。天狼は私をよく街に連れ出すようになった。始めは私も戸惑ったが、天狼がそばにいると思うと自然と笑顔になれた。私達を見て周りが驚いた顔をしていたのはいい思い出だ。


 300年たったころ天狼は今まで以上に活発な性格になり、口調も変わった。昔の可愛らしい天狼も良かったけどこれはこれでいいと思った。


 さらに活発になった天狼はよく悪戯をするようになり、それを私が謝るということが日常茶飯事となった。おかげで私達は有名なコンビとして天界中に知れ渡った。


 とある食卓の料理を天狼がつまみ食いしたり、酒を飲んだ天狼に絡まれて私も飲まされ、酔った勢いで街中で二人で暴れてこっぴどく叱られたりもした。でも、毎日が楽しくてとても充実していたと私は思う…













「……と、こんなところかな」


 一通り話終えた私はゆっくりと背伸びをした。


「神子さんって昔と今じゃ全然違うんだね…」


 由香が私を見ながらそう言った。


「そうね、あれから私も随分変わったわ…天狼もいつの間にか口調が変わってたし」


 私は人の姿になるとキッチンから饅頭を持ってきてテーブルの誰も座っていないソファーの前に置いた。ついでにお茶も入れる。


「神子さん、それは?」


 私は不思議そうな顔の三人にクスリと笑ってみせると時計を見てカウントをとる。


「3…2…1…」


「おじゃまするよ~!」


 私のカウントと同時に天狼が開いている窓から中に入ってきた。


「いらっしゃい、おやつならそこよ」


「お、さすが神子!私のことよくわかってるねぇ~!」


 私は天狼に振り返りながら笑顔を向ける。この笑顔は彼女のおかげでできるようになったんだと改めて実感した。


 だから…私はそっと祈る。


「当たり前よ。私達、親友なんだから」


 願わくば、これからもこの関係が続きますように。




 天狼の性格が違いすぎて書いた自分でもびっくりです(汗)


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