第24話 図書館にて…
あれ~?色々と大変なことに…(汗)
騒がしい朝食を終えて由宇達は学校へと向かっていた。
「今日が火曜日…今日を入れたらあと六日で本番かぁ」
由宇はコンサートへの日数を数えて溜息をはいた。
「まぁ…頑張るしかないさ」
隣を歩く神威が由宇にそう言うが彼もまた不安そうにしている。
「そっか…神威は女装しなきゃいけないんだよね」
神威の肩がピクリと反応する。
「ああ、それが心配なんだ…だから、その話はもうやめようか?」
神威がもの凄い笑顔で由宇を見る。顔は笑っているが目が笑っていない。由宇は額に青筋を浮かべながら頷く。
「(神威の前でこの話はやめよう…)」
あまりにも神威の笑顔が怖かった由宇は話題を変えることにした。
「…っていうか」
由宇は後ろを振り返る。
「何で天狼さんがついてくるの?」
由宇達の後ろを天狼が藍色の髪をなびかせながら歩いてくる。
「いいじゃないか、由宇の通う学校が見たかったんだよ。姿はちゃんと消しておくから安心しな!」
「いや…そうじゃなくて」
「…無駄よ由宇」
神子は納得のいかないという顔をしている由宇を止める。
「…神子?」
「彼女を止めようとしても無駄よ」
「…だって何か理由があるんでしょ?」
「いえ…違うわ」
由宇はさらに首を傾げる。理由もなく私達についてくるわけがないと思っているからだ。
「だって、彼女何も考えてないんだから」
「…はい?」
「彼女は楽しそうだからついて行くだけ。特に意味はないわ」
由宇は額を押さえて溜息をはいた。本当に自由な神様だな、と深く考えるのはやめることにした。
それから普通に授業を受け、現在は放課後。由宇達は図書館にきていた。
何故かというと音楽室で歌の練習をしようとしたのだが今日は別のクラブが使っていたのだ。
そこで予定を変更し、今日は歌詞をしっかり覚えることにしたのだ。音楽プレイヤーで曲を聞きながら歌詞を見て覚える。歌う前に歌詞を覚えることも大切だ。
図書館に入ってからしばらくして光がやって来た。
「…光じゃない、どうしたの?」
由宇が光に声をかけると光はこちらに歩いてきた。
「ああ、由宇さん。ちょっと用事がありまして。…歌詞を覚えているんですか?」
「うん。まぁね。あ、そうだ!紹介するね!神子の幼なじみの天狼さん。今日から家でしばらく暮らすから」
天狼は光に笑顔で片手をあげて挨拶をした。
「あたしは天狼。よろしく頼むよ!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「そういえば光はなんでここに?」
「いえ、たまたま彼女に用がありまして…」
光が視線を向ける先には茶髪をセミロングの長さまで伸ばして眼鏡をかけて本を読んでいる少女がいた。
「明日菜さん、仕事の打ち合わせをしたいのですが…」
光が声をかけると明日菜と呼ばれた少女は顔を上げ
「……わかった」
と、小さく呟いた。
「彼女は佐倉明日菜さん、図書委員長を勤めています」
明日菜は何故か由宇をじっと見つめている。
「あ、あの…何か?」
思わず丁寧に声をかけてしまった由宇だが次の瞬間、明日菜は衝撃の一言を口にした。
「……貴女の肩にいる猫…興味深い」
「「「!?」」」
由宇達は驚愕したが光だけ落ち着いていた。
「あなた…神子が見えるの?」
明日菜は頷いて天狼を指差した。
「……貴女も見える」
天狼は一瞬驚いたがすぐに明日菜を観察するように視線を鋭くする。
「何であたしが見えたんだい?普通の人間には見えないはずだけどねぇ…」
睨む天狼を光が制するように手の平を向ける。
「明日菜さんは霊感が強いんですよ。以前から色々見えていたらしいです」
天狼は光の言葉を聞いても納得できないのか明日菜に静かに横から近づく。そして確認するかのように手を伸ばして顔に触れようとした。
「………」
明日菜は辞書くらいの分厚い本を畳むと真上に投げる。そして横からきた天狼の腕を椅子に座ったまま軽くのけ反って回避すると足を引っ掛ける。
「うわっ!?」
足を引っ掛けられたせいでバランスを崩した天狼は明日菜の膝の上に倒れこむ。すると、まるで狙ったかのように真上に投げた本が天狼の頭の上に落ちて“ゴスッ”という音が響いた。
「きゃん!?」
天狼が可愛い悲鳴をあげて痛がり、明日菜はその天狼の耳を触りながら
「……興味深い」
と、呟いた。光は拍手をして、由宇達は呆然としていた。神子でさえ顔を引き攣らせている。一応神様である天狼があっけなく弄られている光景はなんとも言い難い虚しさが響いている。
「う~神子ぉ~」
若干涙目になった天狼がとぼとぼと帰ってきたので神子が猫の姿のまま頭を撫でる。猫に撫でられる美女…なかなかシュールな光景である
ちなみに明日菜はそんな神様二人を見て
「……ユニーク」
と呟いていた。…どこのインターフェイス?
それから数十分、由宇達は静かに歌詞を覚える作業に集中する。光も仕事を終えた後は本を読んでいた。
すると廊下が騒がしくなってきた。どうやら人が集まってきているようだ。
「…何かしら?」
テーブルの上で寝ていた神子がうるさそうに起き上がる。
「様子を見てきます」
「………」
光と明日菜が立ち上がる。光は風紀委員として、明日菜はうるさくて本に集中できないからだろう
由宇達が廊下に出ると以前髪の色を注意され光の制裁を受けた生徒が気の弱そうな生徒の胸倉を掴んでいた。
「おい!ぶつかっておいて謝りもしねーのか!?」
「ぶ、ぶつかったのはそっちからで、僕は何もしてない…」
「なに~?てめぇなめてんのか!?」
「ひぃ!?」
なんとも目茶苦茶な事を言うものだと由宇は思っていた。当然光が止めに入る。
「校内暴力は禁止です。彼を離しなさい」
光を見た瞬間にその男子生徒は顔を歪める。
「てめぇ!この前はよくもやってくれたなぁ!」
光はやれやれといった顔で溜息をはく
「今は何にも武器は持ってないだろ!?この前は油断したが今日はそうはいかないぜ!」
大声で叫ぶ男子生徒に光は呆れたように肩を竦める。
「明日菜さん、お願いします」
「……了解」
明日菜は何処からか取り出した辞書を光にほうり投げる。
「さて…生徒指導室行きですね」
光が本を手にして一瞬怯むが男子生徒は走り込むと光に殴りかかる。
光は体を捻って避けると本を横に薙ぎ払う。
「二度も同じ手をくらうか!」
男子生徒はしゃがんで本の攻撃を避けるとアッパーを繰り出した。光はバックステップで離れる。
「おらぁぁぁぁ!」
そのまま再び男子生徒が殴りかかったので神威が助けようとした瞬間
ヒュン!
まるで手裏剣のように神威の頬を何かがかする。
「え?」
それは男子生徒の足元に刺さり、男子生徒は思わず足を止める。床に刺さっていたのは何の変哲もない本の栞だった。
由宇達が振り返ると何かを投げた態勢のままの明日菜がいた。
「え?ええ!?明日菜さん今の何!?」
「…栞を投げただけ」
由宇の質問に平然答えた彼女は光の隣に並ぶ。
「僕は右から…左は任せます」
「……わかった」
明日菜は光の言葉に無表情のまま頷くと同時に走り出す。そして光が本を振り下ろす。男子生徒は驚きながらも咄嗟に左へと回避する。
すると明日菜がジャンプして本を振りかぶり一気に振り下ろした。本は見事に男子生徒の頭を直撃した。ちなみに殴ったのは本の角の部分。非常に危険なので絶対に真似をしないように…
一同唖然。光と明日菜は特に気にした様子も無く駆け付けた風紀委員の生徒に事情を説明した。
「えっと…何からつっこんだらいい?」
「…あたし、あいつらが人間じゃないように思えてきたよ」
由宇は顔を引き攣らせて天狼は呆れていた。
その後、明日菜と光に色々と質問をしたが
「風紀委員ですから♪」
「…大した事じゃない。私は彼を手伝っただけ」
そう答えるだけであり、神子と天狼曰く特別な力は持っていないとのこと。結局謎を抱えたままその日は終わってしまったのだった。
明日菜は天がリクエストしたキャラです。モデルは勿論あの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスです。