第23話 突撃隣の…
神子がよく喋ります
天野家では朝食の準備は主に由香が担当している。理由は神威と由宇が二人とも朝が弱いからである。
いつものように目覚まし時計の音で目が覚めた由香は眠たい目を擦りながら洗面台に向かう。顔を洗いいざ朝食を作ろうとした時、キッチンからいい匂いがただよってくることに気がついた。
「(あれ?誰だろう…お姉ちゃんかな?)」
キッチンに入ると長い白髪が目に入る。
「お姉ちゃん?珍し…い……」
由香は言葉を詰まらせた。キッチンにいるのが猫耳に尻尾で、さらに真っ白な着物を着た白髪の美人だったからである。
「…おはよう」
「…え?お姉ちゃん?」
由香は目を擦って見間違いじゃないかを確かめる。
「残念、ハズレよ」
「…まさか神子さん!?」
神子は頷くとニッコリと微笑んだ。
「ど、どうしたの?朝ご飯は私が作るし…それにその格好も」
神子は苦笑いしながら気まずそうに視線をそらした。
「着物を着たのはそんな気分だから。料理をしていたのは…」
神子がそこまで言った瞬間
「神子~!朝飯食べさせておくれ~!」
リビングに藍色の髪をしたスタイルのいい女性が“窓”から入ってきた。
「…彼女が来るからよ」
神子は溜息をはき、由香は突然の来訪者に唖然としていた。
「これは…」
「凄い…」
「どれだけ食べるのよ…」
上から神威、由宇、由香である。現在テーブルの上には大量の料理が並び、その八割を藍色の髪をした女性…天狼が食べていた。
「うん!やっぱり神子が作る料理は美味しいねぇ~!」
「天狼…いい加減自分で料理くらいしなさい」
「あぁ~、無理だね!面倒だし!」
「…はぁ」
天野家に突然、しかも窓から入ってくるという奇怪な登場をした女性が神子の幼なじみだと聞いた時、三人が同時に
『いや、嘘でしょ』
と思ったほどに自由な人物である。
しかし、自由で行動的な天狼としっかり者で天狼に注意をする穏健な神子。はたから見ればこれほどお互いをカバーしあえる組み合わせはない。
「だいたい、あなたは……」
「あっはっはっ!」
由宇達三人は普段の生活とは掛け離れた家のテンションに完全に置いていかれていた。
「えっと…神子さん?よく天狼さんが来るのがわかりましたね」
何とか場の空気を変えようと由香が神子に話し掛ける。
「ええ、当然よ。彼女、私の所に毎日ご飯ねだりに来てたのよ」
「あはは、だって神子の料理は美味いんだから仕方ないさ!」
「昨日の夜に久しぶりに再会したのよ。それで彼女のことだから朝からご飯ねだりに来ると思ってね。準備したら…結果はこの通りよ」
ここまできたら最早呆れるどころか感嘆してしまう。
「久しぶりの再会って…どのくらい会ってなかったの?」
今度は由宇が質問をした。
「たしか…400年くらいだったかねぇ?」
「…そうね」
「よ、400年…」
「まぁ、神様だからな。だいぶ昔から生きてるんだろう」
絶句している由宇と由香に神威が声をかける。
「え、えっと…ちなみにその間は何を食べていたんですか?」
「もっぱら姿を消してその辺の食卓からちょいちょいとね♪」
『(あんた神様だろ!そんなことしていいのか!?)』
三人は同時に心の中でつっこんだ。
「三人とも…彼女に常識は通用しないわよ?勝手に、しかも窓から入ってくる時点で気づくべきよ」
流石というべきか神子はいつもの通りにしているあたり流石は幼なじみというべきだろう。
三人は同時に溜息をはくと天狼を見る。
「いやだねぇ~そんなに見つめないでおくれよぉ」
「いや、そうじゃなくて…他にもあるんでしょ?」
由宇の問い掛けに天狼は目を見開き、神子はクスクス笑っていた。
「やれやれ、流石は神子のパートナーだ。鋭いね」
天狼は苦笑いした後、手を合わせて頼み込むように頭を下げた。
「泊まる所がないんだよ。だからしばらく泊めてくれないかい?」
「…やっぱり」
神子は額を押さえて溜息をはき、他の三人は苦笑いをしていた。
「まぁ、神子の知り合いなら大丈夫でしょ」
「うん、私もいいと思うよ!」
「俺もかまわない」
「あんた達…ありがとう!」
天狼は笑いながら由宇に抱き着いてきた。
「まぁ、何にしても問題が一つ…」
神子の言葉に天狼以外が頷く。天狼は首を傾げる。
「なんだい?問題って?」
そして天狼以外が同時に口を開いた。
『食費がかなり増える!』
天野家に新しい神様がやって来た。
次回、また新キャラがでるかも…