第22話 神子の夜
久しぶりの投稿です。
―神子Side―
私は現在天野家二階の由宇の部屋にいる。時刻は深夜1時であり由宇達は皆眠っている。
「………」
私は由宇と一緒のベッドに寝ている。しかし、今日は何故か眠る気分にならなかった。というか私には基本睡眠は必要ない。由宇と一緒に寝ていると温かくて気持ちがいいのだ。
しかし、今日は中々眠れなかったので私は人の姿に変わり、ベランダに出て月を眺めていた。雲一つなく星も綺麗に見える。
「…お姉ちゃん?」
ふと下から声が聞こえたので庭に視線を落とすと月がいた。
「あら、月じゃないの…あなたも眠れないの?」
月は頷くと近くの木を伝って私の隣に来た。
「神威は大丈夫だった?」
月の言葉に思わず笑ってしまった。結局、葵のせいで女装したまま帰った神威を見て由香が
「お姉ちゃんが二人いる!?」
と言って神威がだいぶ落ち込んでしまったのだ。追い撃ちとばかりに由香に
「凄い!絶対にばれないよ!綺麗だし」
と、言い換えれば女に見えても不思議じゃないと言われてしまい、更に落ち込んでしまったのはつい数時間前のことだ。
「神威には悪いけどやっぱり似合ってたわ」
そのまま二人で笑い合う。
「ねぇ、お姉ちゃん。ちょっと散歩しない?」
私は少し考えると頷く。
―SideOut―
その後、神子は月を肩に乗せて人の姿のまま出かけることにした。服装は上下白い服に白のロングコートという季節に全く合わないが何故か神子が着ていると不思議と違和感がない。
「由宇、ちょっと借りていくわね」
由宇の机の中から使わなくなったヘアゴムを借りて由宇と同じポニーテールにする。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って二階から飛び降りると誰もいない道を歩き出した。
「月が綺麗ね…」
「うん…」
真っ白な女性が肩に黒猫を乗せて歩く光景はとても幻想的だった。
ちなみにこの真夜中の散歩が気に入った二人が後にたまたま人に見られて『真夜中に現れる妖精』と呼ばれるのだがそれはまた別の話である。
二人は街の外れにある公園に来ていた。
「…お姉ちゃん」
公園のベンチに座った神子に月が神子に話し掛ける。
「なに?」
「お姉ちゃん、最近元気ないね…」
「……」
神子は視線を外すと月を見上げる。
「私はダメな神様よね…」
「…え?」
神子がふと呟いた一言に月は首を傾げる。
「いくら見習いだからっていっても悩んでいる女の子一人救えないなんて…」
悔しそうに俯く神子に月が言葉をかけようとする…その瞬間
『なんだなんだぁ!?しばらく見ない間にすっかり腑抜けになったもんだね!』
二人が声のした方を見ると一匹の狼が公園に入って来た。藍色の毛並みと右目の傷が印象的だった。
「…天狼」
天狼と呼ばれた狼は一瞬光ると神子と同じくらいの女性に姿を変えた。髪は藍色のセミロング。そして黒いロングコートで右目は閉じられている。
「懐かしい気配がしたから来てみたら…あんたらしくないねぇ…何があったんだい?」
切れ長な目を細めて天狼は神子を見る。
「実は…」
神子はこれまでの経緯を天狼に話した。
「へぇ…あんたも大変だねぇ」
天狼は髪をかきあげながら息を吐く。
「お姉ちゃん…この方は?」
「ああ、月は会ったことないわよね。彼女は天狼。私の幼なじみでライバル…かな?」
「なんで最後が疑問形なんだい?」
月が驚いているところに天狼が言葉を挟む。
「月が知らないのも無理ないわよ。最後に会ったのは400年前だったかしら?」
「あ、私生まれてないね」
神子の呟きに天狼の顔が少し引き攣る。
「いくら神として生きてるからって女性が年齢関係の話しをするのはどうかと思うんだけどねぇ…」
天狼は再び溜息をはくと、それよりも…と言って神子を見る。
「久しぶりに一戦やるかい?悩んだ時は派手にやるのが一番だよ!」
神子は一瞬ぽかんとした表情をしていたがすぐに苦笑いをして頷く。
「そうこないとね!」
「二人とも準備はいい?」
公園の周りに結界をはると二人は向かい合う形で立つ。
「懐かしいねぇ…」
「ええ、確か50勝50敗50引き分け…だったかしら?」
月は二人の会話を聞いて苦笑いするが二人は気にせずに姿勢を低くして構える。
「…始め!」
開始の合図と共に二人は同時に駆け出す。神子の体から赤いオーラが吹き出し、天狼からは青いオーラが吹き出る。
神子が左手で目の前を水平に薙ぎ払うと天狼はジャンプしてそれを回避する。地面には巨大な爪の跡がつく。
「…そら!」
天狼の蹴りを右手で受け流す。そして天狼の着地と同時に振り返りながらの回し蹴りを放つ。
「おっと!」
天狼は神子の蹴りを屈んで回避するとそのまま掌底を繰り出す。神子も同時に掌底を放ち、お互いの手の平がぶつかり合う。
「うわっ!?」
「……っ!!」
そして同時に二人共吹き飛んだ。
「ああ~!また引き分けかい!!」
「…そうだね」
時間は短かったが二人は戦闘態勢を解いた。
「あれ?もう終わるの?」
月が二人を見ながら首を傾げる。
「ああ、昔からの馴染みだからねぇ。すぐに自分の力が通じるかがわかるのさ」
「これで50勝50敗51引き分けだね…」
二人はお互いに笑い合う。
「神子、あんたが難しい問題を抱えてることはわかる。でもあんたならどうにかできるって私は思うよ」
「…そうかな」
「うん、あんたなら大丈夫さ!私もこの街にしばらくいるからね。相談したいことがあるなら何時でも言いな。話し相手にはなるよ…じゃあね」
そう言って天狼は公園から出て行った。
「私なら大丈夫…か」
神子は天狼の後ろ姿を眺めながら小さく呟いた。
「うん…私が由宇を導かなきゃ…それが私にできることだから」
しっかりと前を見つめる神子の背中を月が照らしていた。
今回は少し戦闘描写を入れましたが。後々また入れていきたいです。