第19話 本は凶器にもなる・昴の苦悩(?)
気がついたらPVが55.000を越えてました!皆さんありがとうございます!
今回は光と昴のお話です。
朝の通学路を由宇と神威は歩いていた。由宇の指には赤い石のはまった指輪が光っている。
数日前に葵から渡された大切な指輪だ。由宇だけではなく他の皆にも作ってある。神威が青、陸がオレンジ、光は黄色、葵が水色、昴が黒、神子と月が緑である。神子と月は指輪をはめれないから耳飾りだ。
「……ふふ♪」
由宇は学校以外の場所なら必ずこの指輪をはめている。それだけ嬉しかったということだ。
「葵は器用だな。昴に石をカットしてもらう以外は全部自分でやったらしいからな」
そう、葵はとても手先が器用なのだ。中学校では美術の時間に女神の彫刻を作ったこともあるらしい。
「人間誰でも特技を持ってるものだよ」
由宇が指輪を見つめて呟く。
「そうだな。おっと、そろそろ校門近いし外しとけよ」
「うん」
由宇は指輪を指から抜きとり鞄の中にあるケースにしまった。
「あれ、光がいるよ?」
校門には風紀委員である光が何やらぶ厚い本を片手に立っている。同じように書類をめくりながら他の風紀委員も生徒一人一人を呼びとめて何やらチェックしている。
「おはよう、光。今日は何してるの?」
由宇が朝の挨拶をかねて光に話しかけた。
「おはようございます。由宇さん神威君、実は今年から服装検査が行われるようになったんです」
「へぇ~、だから風紀委員が校門にいたのか…」
アクセサリーをつけていたり、髪を染めたりしている生徒は風紀委員によりチェックされて改善されないなら生徒指導室行きになるそうだ。
「あなた達は問題ありませんね、流石です」
由宇はあはは、と小さく笑うと光が持っているぶ厚い本が目にとまった。
「光、その本は何?」
光はにっこりして本を持ち上げて一言
「護身用です♪」
と言った。
「……はい?」
「………?」
由宇と神威が首を傾げていると丁度男子生徒が他の風紀委員に文句を言い出した。
「別にいいだろ!これくらい!ちょっと色抜いたくらいでぐちぐち言いやがって!」
どうやら髪の色のことで風紀委員に捕まったらしい。だいぶ頭にきているのか今にも殴りかかりそうな勢いである。
「やれやれ、仕方ないですね」
それを見た光がため息をつきながら男子生徒に近づいていく。
「そこのあなた」
「…あ?何だよ!」
光が男子生徒に話しかけるとあきらかに不機嫌そうに振り向いた。
「あなたが髪の色を変えたのは事実ですよね?なら立派な校則違反です。素直にチェックを受けてください」
光の言葉についに男子生徒はキレた。
「うるせーんだよ!」
男子生徒は光に殴りかかったが、光は片足を軸に体を捻ってそれを避けるとそのまま本の角で男子生徒の横顔をぶん殴った。男子生徒はそのまま顔を押さえてうずくまってしまった。
「…やれやれ、校内暴力も追加ですね」
光は本で肩を叩きながら由宇達の方に戻ってきた。
「…光、今のは正当防衛になるのか?」
神威の言葉に光は微笑みながら頷く。
「ええ、むしろ校則違反者には手加減無しで頼むと校長から言われています」
校長も容赦がないものである。ちなみに光の持っていた本の表紙には『翔星高校校則一覧』と書かれていた。
「ストレス発散にもなりますよ?」
「…光、一応本の角も凶器になるから注意してね?
「あはは、勿論ですよ」
始めて光を恐ろしく感じた二人であった。
さて、場所が変わりここは校舎裏、そこに立つのは小柄だが妙に大人っぽい少女。黒いロングヘアーと宝石のような瞳が特徴の昴である。
『これで何度目かね~』
「………はぁ」
月の呟きに昴はため息をはく。皆さんもおわかりだろう。校舎裏や体育館裏に女子が呼び出される理由……
昴はポケットから小さな手紙を取り出す。水色の小さな封筒に一言、
『朝のHR前に校舎裏に来てください』
と書かれていた。朝早いためか離れた位置にある体育館裏ではなかったが、大体の予想がつく。
『今日はどんな男かしらね♪』
相変わらずテンションが無駄に高い月に何も言わずにいると、
「あの、お待たせしました」
昴は声が聞こえた方を見て眉をひそめる。今まで男子に告白されることはあったが、そこにいたのは…
「私、泉美里っていいます。黒神先輩!わ、私と付き合ってください!」
セミロングくらいの黒髪をなびかせた女子だった。
『あらあら~』
「…………」
何やらニヤニヤしていそうな月の声を聞きながら昴は額に手を当てて困惑していた。まさか女子に告白されるとは思っていなかったからだ。
「あの~、黒神先輩?」
昴を先輩と言うからには後輩にあたるのだろうが、昴にはあいにく百合属性はない………はずである。
「……君は私が女だということを前提に話しているのだな?」
「は、はい!勿論です!」
昴の性格からして、さっさと終わらせたいのだがなにせ相手が女子だ。男子なら簡単に一言で終わらせるのはどうだろうか。
「……君と私は初対面ではないのか?」
その言葉を聞いた瞬間美里は瞳を潤ませ始めた。その姿を現すなら小動物だろうか…身長も昴より低くさらに目もパッチリとしているためか小学生みたいだ。いわゆるロリっ子である。
「………っ」
『(なにあの小動物!抱きしめたい)』
月は人の姿になれれば真っ先に抱きしめていたと心で思った。昴は美里の反応に戸惑っている。
「実は私、背も小さいし、小学生みたいだから皆に虐められてたんです…」
美里は俯いて小さく震えているのがわかる。
「黒神先輩は覚えてないかもしれないけど、一度委員会の仕事でからかわれている私を助けてくれました」
委員会と聞いて昴は虐められている美里の姿を思い出した。
「……ああ、あの時か」
それは由宇と神威が分裂したころだった。委員会の書類を運んでいた時に数名の男女に囲まれて動けないでいた美里を昴が助けたことがあった。
昴は最初小学生が迷い込んで学校の生徒にからまれていると勘違いしたのだ。
「(迷子じゃなかったのか…)」
今の心での発言は相手に対して失礼だが美里には無論聞こえていない。
「あの時から先輩のことが忘れられなくて…だからお願いします!私と付き合ってください!」
凄い勢いで頭を下げた美里に昴は困惑する。
「(……何だか断りにくい…しかしだからといって了承するのも…)」
今クラスメートが昴を見たらなんと言うだろうか、昴は無意識に顔を赤くしてオロオロしている状態だ。普段とのギャップが半端ではない。
『…昴のキャラを崩壊させるなんて……恐ろしい子!!』
月が唖然としている中で美里が顔を上げた。涙で潤んでいる瞳と赤くなった顔、更に上目遣いとロリっ子という男ならば文句無しであろう攻撃を受けて、流石の昴も怯む。
「……うっ、……付き合うことはできないが……友達なら」
「本当ですか!?」
「…え、ええ」
『あの昴が押し負けた!?』
そのままHR開始まで時間がないことに気づいて慌てて二人は放課後一緒に帰るという約束をして別れた。
こうして、由宇達のメンバーに一人新しい顔が増えたのだった。
ちなみに昴がHRに遅刻したのは言うまでもない。
明日から大学の部活の合宿が始まります。生きて帰れるか心配です。
夜になっても生きていたら執筆したいです
(-.-;)