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本当のことを答えてください

作者: ハープ

 気がつくと何もない部屋にいた主人公。その部屋に唯一あったスマホの画面には、奇妙な文章が書いてあって……。



 気がつくと、私は何もない部屋にいた。壁も天井も床も真っ白で、何の素材でできているかも分からない。家具もなければカーペットも敷かれていない。窓もドアもないから、私はいったいどこからこの部屋に来たのかすら見当がつかない。そんなに広くはないその部屋で、ふと床に落ちている唯一のものを見つけた。

 

 それがなんなのか確認して私は思わず独り言を言った。「スマホ……?」状況の意味が分からなさすぎて、思考を声に出すことで少しでも自分を落ち着かせようとしたのだ。


 他にできることもないので、私はその見覚えのないスマホを手に取り、画面を見た。文字が書いてある。

「この部屋から出る方法は一つだけです。今からこの画面に出てくる質問に、『はい』か『いいえ』で答えてください。質問はいくつかあります。全て本当のことを答えることができたら、あなたはこの部屋から出ることができます。ここまでの説明が理解できたら、この画面をタップしてください。」私はこの時点で、この状況は夢だと考えだした。だって、この部屋もスマホに書いてあることも意味が分からない。自分の頬をつねってみたものの、痛いのか痛くないのかもよく分からず、目が覚めることもなかった。


 一旦自分の記憶を辿ってみる。自分の名前も家族のことも、友達のことも学校のことも近所の家のかわいい猫の名前も思い出せるのにこの部屋に来た経緯は思い出せない。やはりこれは夢だろうと判断し、私はスマホの画面をタップした。ここで朝が来るのを待っているだけなのは退屈だと思ったのだ。それに明晰夢を見るのは初めてだから、少しわくわくしていた。


 画面が切り替わり、質問が現れた。「あなたの名前は三文字ですか?」画面の下半分には『はい』『いいえ』の表示がある。私の名前は「ふうり」なので三文字だ。『はい』を選択する。次の質問。「あなたの名前は片仮名ですか?」私の名前は平仮名なので『いいえ』を選択。次、「あなたに兄弟はいますか?」弟がいるので『はい』だ。


 この調子で他にも様々な質問が現れた。友達のこと、好きな教科、住んでいる地域……全て『はい』か『いいえ』で答えられるようになっていて、中には「あなたは今、実在しますか?」という質問まであった。私は質問に答えながら、弟がはまっているとあるアプリを思い出した。


 そのアプリは、特定のキャラクターや芸能人を思い浮かべながらその対象に関する質問に正直に答えていくと、AIが自分が思い浮かべているキャラクターや芸能人を当ててくれるというアプリだ。かなり正答率が高いらしく、弟はお気に入りだ。その話を聞かされたから、私の夢にまで似たようなものが出てきているのだろうか?


 全ての質問に答え終えて、画面が変わった。また文章が表示されている。「本当のことを答えていない回答があります。まだあなたはこの部屋から出ることはできません。再挑戦するには画面をタップしてください。」全て本当のことを答えたはずなのだが、夢ならではの理不尽さなのか部屋からは出られないようだ。私は画面をタップして、再挑戦することに決めた。


 それから何度挑戦しても、正直に答えているはずなのに部屋からは出られなかった。質問は毎回同じものを同じ順番でだしているだけなのだが……。私は何か思い違いをしているのだろうか? だとしたらどの質問の答えが間違っているのだろう。


「……まさかね」と私はふと脳裏に浮かんだ仮説を見ないふりして、何度めかの再挑戦を始めた。


 そして、その再挑戦も同じ結果になり、いっこうに何もない部屋から出られない私は、ついに先程見ないふりをした仮説を試してみることにした。どうせ夢なのだから、と心の中で言い訳しながら。


 質問に一つ一つ、正直に……つまり今まで通り答えていく。たった一つを除いて。


 それは、「あなたは今、実在しますか?」という質問だ。


 私はその質問に、『いいえ』を選択する。ある予感があった。


 全ての質問に答えた後、スマホの画面には。


「あなたの回答は全て本当のことです。おめでとうございます! あなたはこの部屋から出ることができます。画面をタップしてください。」と表示されていた。


 スマホをタップした瞬間、私はこの部屋に来る直前の自分の記憶を思い出す。それは私が弟と一緒に登校していた時のことだ。弟は自分が今はまっているアプリ……思い浮かべたキャラクターや芸能人を当ててくれるアプリの話をしていた。私はその話を聞きながら歩いていたから、あまり車に注意していなかったのだ。だから轢かれる直前まで気づかなかった。


 爆音、衝撃。弟が「ふうり姉ちゃん!」と叫ぶ声。全部思い出した。


「私……死んだんだ。あの時、交通事故で」今度は受け入れるために声に出したけど、到底受け入れられそうにない。それを思い出すためのこの部屋と質問だったのだろう。予感はあったのだ。なんだかこの質問だけ他の質問に比べて浮いていて違和感があった。


 気づきたくなかったな、と思った。これでは何もない部屋にいた方がまだましだった。いつの間にか景色が変わっていて、その場所はきっと美しい世界なのだろうけれど、天国で自分が幸せになれるとは、私には全く思えなかった。


 


 

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