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9話 邂逅後②


 4/9に公開いたしました9話『邂逅後②』につきまして、誤って8話『邂逅後』と同一の内容が掲載されておりました。

 現在は正しい内容に修正済みでございますので、ご興味のある方は改めてお読み頂けますと幸いです。


 読者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。





「お前、生きてるだろ」



 俺は御者の体を蹴り上げた。



「シド、なにを!?」


「ご遺体にむかってそのようなことは――」



 二人から疑問と制止の声が発される。

 いきなりこんな奇行に及んだら驚くのも無理はない。

 だが、これは間違ったことではない。



「が、は……っ」



 俺に蹴られた御者は、その衝撃で腹から息を吐きだした。



「え――? いま、声が」



 二人が目を丸くして驚いている。


「これでわかったろ? こいつは生きてる」



 俺は剣をいまだに寝転がっている御者の首元に突き付けた。


「起きろ。生きていることはわかっている。それともほんとに死ぬか?」


「はいはい。わかってますよ」



 御者は目を開けて、しんどそうな笑みを浮かべる。



「ほ、本当に生きていらしたんですね。なにはともあれ、生きておられてよかったです」


 アリシアがそう呟く。


「幸運でしたね。深い傷を負っていたのに、こうして命を助かるなんて」


「いや、幸運じゃないよ」


 ぴしゃりと、俺はアリシアの言葉を否定する。


「あ、そうですね……。そもそも盗賊に襲われたことが不幸なのですから。幸運というのは違いましたね」


「そういう意味じゃない。こいつはそもそも盗賊に襲われてなんかない。怪我だってしていないよ。おい、さっさと起きろ」


「怪我してないってのは酷いですね、お兄さん。俺だって盗賊に斬られて傷を負ってんよ。ほら見てくださいよ、こんなに血が出てる」


 御者は自分の服を指さして言う。

 彼の言葉の通り、彼の服にはべったりと血がつき、それに地面にも血だまりができている。



「盗賊にやられて怪我してるんで、自力じゃ起きれないんですよ。話すんならこのままの姿勢でお願いしたいんですがねぇ」


「ダメだ。起きろ」


「シド。あまりそういってことは――」



「服についている血や地面の血は偽物だ。おおかたあらかじめ所持していた他人の血をぶちまけただけだろ。斬られてもないし、殴られたはずもない。これ以上その三文芝居を続けるなら、お前の体に本当に傷がつくことになるが? それでもいいなら続けてろ」


「……はいはい、わかりやしたよ。俺の負けです。ま、あんなんで騙せるなんて、最初から思ってなかったですよ」


 御者は言葉を述べた後、ひょいと何事もなかったかのように起き上がる。



「そちらのお嬢さんがた。名前を知りたがってましたよね。教えてあげますよ。俺の名前はヨーゼフ。お見知りおきを」




「「………………」」



 先ほどの様子から一転、軽薄な笑みを浮かべる彼の様子にアリシアとエマはあっけにとられた。



「健康そのものだよ、こいつは。下手な芝居してんじゃねえ。死んだふりもな」



「そ、そういえば。なぜ彼が生きているとわかったのですか?」


「見ればわかるさ」


 アリシアからの疑問に、俺は答える。


「人は呼吸している以上はお腹が膨らむからな。うつ伏せに寝ていたらお腹の動きは直接は見えないが、お腹が地面を押して背中がかすかに動くんだよ。それで生きているとわかった」


「では、怪我の方は?」


「生きているならこいつは敵。つまりは盗賊側の人間だ。怪我なんてしてるわけがない。流れる血は全部嘘だ」


「シド様」


 俺の言葉に異を挟むように、エマが語りかけてくる。


「生きているなら敵というのは短絡的ではありませんか? 盗賊が殺し損ねた可能性もあると思うのですが」


「それはない。盗賊が馬車を狙うとき、御者は真っ先に狙われるんだよ」


 これは確実と言っていい。

 

 盗賊が最も警戒するのは、相手が自分たちから逃げること。

 それを防ぐために一番先に相手の足を奪うのは定石だ。


 だから盗賊が馬車を狙うならば、まず真っ先に御者を殺す。

 馬は荷を運ぶために生かすこともあるだろうが、御者は絶対に殺す。


 どんな間抜けな盗賊でも、それをしくじるわけがない。


 だから馬車が狙われた以上、御者がいきているはずがない。

 

 たまたま盗賊が殺し損ねた? 


 そんなはずはない。


 あの盗賊たちはそれなりの練度を持っている奴らだった。

 御者が死んでいるか、確認を怠るようなミスをするほど間抜けな存在ではないだろう。



「こいつが生きているのは、盗賊の仲間だからだ。だからわざと見逃されたに過ぎない」



 俺の言葉に、エマとアリシアが息をのむ。


 御者は何も口を挟まなかった。


「死んだふりをしていたのは、仮にこの状況が誰かに見つかったときのための保険だろう。馬車が盗賊に襲われている横で、御者がのんきに立っていたら怪しすぎるからな。万が一兵士たちにでも見つかれば、盗賊達と一緒に切り捨てられる可能性もある」


「ご名答ですよ。俺は盗賊の一員。下っ端ですがね。死んだふりをしていたのは、確かにあんたみたいな奴を警戒していたからです。ま、バレちまったから意味はなかったですが」


 御者は白状し、ペラペラとしゃべりだす。

 


「盗賊の仲間という情報と、アリシアたちが本来通るはずもないルートを通ってきたことから、こいつがアリシアたちを誘導してきたことは明らかだ。お前の任務はここに馬車を通らせて、仲間の盗賊に襲わせる。そんなとこだろ?」


「はは。そこまでバレてんならもう言うことはないですよ。後は命乞いでもするしかなさそうですね」



「待ってください」


 俺と御者の会話に、アリシアが口をはさむ。


「ヨーゼフさんが盗賊の関係者というのはわかりましたが、それはおかしいです。彼は学園で選ばれた御者です。そのような人物が盗賊のお仲間だなんて」


「学園?」


「王都にあるフリージア王立学園です。貴族のみが入れる学園で、私は少し前までそこの生徒でした。昨日卒業しましたが」


「あ、ああ。フリージア王立学園ね。よく知ってるよ」


 エリーナが通っていた学園だ。

 

 言われてみれば、アリシアも公爵令嬢なのだから、王立学園の生徒であっても不思議ではない。

 昨日卒業したということは、エリーナと同じ学年か。


「学園には貴族の生徒がたくさんいます。警備の都合上、出入りする者や生徒に関わる可能性のある者の身元の確認はしっかりと行われるはずです。盗賊の仲間が学園の用意した馬車の御者に成ることなどできません」


「じゃあどうやって――?」


「一つ方法を考えるとしたら、学園の関係者からの紹介があれば、比較的簡単に御者になることはできます」


「じゃあこいつ、というかこの盗賊団は、学園に伝手があるということか? 貴族とつながりのある盗賊?」


 貴族が盗賊とつながっていることはそこまで珍しいことではないが。

 しかしこいつらほどの実力があり、そして貴族とのコネクションももっているのなら、わざわざ盗賊なんて真似をしなくとも別の仕事をすることもできるはずだ。

 

 正規兵にでもなれば、盗賊よりもよほど安全に確実に金を稼ぐことができるだろう。


「それは逆でしょう。貴族とつながりのある盗賊ではなく、盗賊のふりをした貴族の手先かと。私はこれでも公爵令嬢です。そういった重要な立場の人間を襲わせる場合、どことも知れぬ盗賊ではなく自分の手先を使いたがるのが貴族です。重要なことは、信頼できる者に任せたがるのが人の心情ですから」


「お、おお……。そうか」


 

 アリシアの言葉に、俺は納得する。

 彼らは確かな練度があった。

  

 傭兵崩れの盗賊かと思っていたが、盗賊のふりをした兵士であったのならその強さにも納得だ。

 


「学園の人事の采配に口利きができ、これだけの兵を動かせるほどの貴族。そういった力のある貴族ならば何人かは思いつきますが、彼らが私を襲わせて得をすることなど。いえ、もしかして貴族ではない? まさか……」



 アリシアが考え込み、そしてポツリとつぶやく。




「貴方たちは神殿騎士ですか?」


 


「!?」


 その瞬間、御者の顔色が変わった。


 

 俺に生きていることを見破られ、盗賊との関わりがバレても軽薄な笑みを絶やさなかった御者が。

 その笑みはもうどこかへと消え去り、顔をこわばらせている。


「そのリアクションからするに、神殿騎士っていうのは外れてはいなさそうだな」


「…………」



 御者は何も言わず、黙りこくっている。


 ということは、そういうことなのだろう。

 この状況で何も言わないというのなら、それはもう自白しているのと同じようなものだ。



「どうして奴が神殿騎士だとわかったんだ?」


「……学園に自分の私兵を紛れ込ませることができるほどの立場の権力者は限られています。その中で私を狙う動機のある人物を考えて、導き出した結論ですよ。学園に関係する権力者のうち、私を殺して喜ぶのはエリーナさんだけですから」



「エリーナ?」



 え?

 ここでその名前が出るの?




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