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3話 王都にて



 学園の卒業式に合わせて王都へたどり着いた俺は、そのまま徒歩で王立学園へ向かっていた。


 初めて来たが、王都は賑やかな場所だ。

 魔物退治のために王国の街は色々と行ったことがあるが、王都はこれまで訪れたどんな街よりも騒がしくそして活気がある。

 

 住んでいる人も多い。

 確か王国で最も多く人がいると聞いた。

 その数は100万を超えているとすらいわれている。


 故郷の街は何人いるだろうか。

 数千人くらいだった気がする。

 それと比較したら100万という数のなんと多いことか。


 初めて聞いた時には想像もできない規模だったが、実際に来てみたらその大きさと人の多さに驚いた。



 決して道は狭くないはずなのに、人通りが激しいせいで歩きにくかった。


 それほどまでに人が多いのだから周りの喧騒もそれなりのものだ。

 騒ぎが起こっているわけでもないのに、人の話し声が重なって音は大きくなっている。


 聞き耳を立てなくても、道を歩いているとちらほらと街の人の話し声が聞こえてくる。


 内容は天気の話や八百屋の野菜の値段、それに値下げ交渉や旅行の話まで聞こえてくる。

 あそこで討伐する魔物の話をしている者は冒険者だろうか。


 そして聞こえてくる会話の中には王立学園の話題をしている人もいた。


 よくよく注意して聞いてみると学園の話をしている人が多かった。

 今日は学園の卒業式なのだから納得だ。


 そして今年はただの卒業式ではない。

 今年の卒業生の中には王子や聖女がいるのだから、王都の民が注目しているはずである。




「聞いた? 聖女様のこと」


「ああ」



 そこで聞こえてきた単語にピクリと耳を動かす。


 聖女。

 エリーナのことだ。


 自分の婚約者の噂話を耳にすると言うのは、なんだか少し照れくさい。


 しかしそれと同時に嬉しいとも思う。

 エリーナが王都の人に受け入れられていることを感じられた。





「聖女様はレジス王子様と結婚するらしいわよ」





 しかし、続いて聞こえてきた言葉のせいでその嬉しさは吹き飛んだ。



「え?」



 聖女と王子の結婚……?


 聖女って、もちろんエリーナのことだよな?

 二人目の聖女が現れたなんて話はこの3年間聞いたことない。

 

 聖女がエリーナのことならば、彼女が王子と結婚するということで――。


 嫌な考えが頭をよぎるが、俺はそれを頭を振って否定した。

 

 いや、そんなことありえない。

 エリーナは俺の婚約者のはずだ。


「あの!」


 俺はエリーナのことを話していた方に向かって声をかける。

 噂話をしていたおばさん二人は驚いたようにこちらを向いた。



「え? なに?」

「誰あなた?」


「あの! 今の話は本当ですか!?」


「今の……?」


「聖女と王子が結婚するっていう話です! ていうか聖女ってエリーナのことですよね!」


「え、ええ。エリーナ様のことよ」

「他に聖女様なんていらっしゃらないし」



 ……だよな。

 エリーナのこと、だよな。

 俺もエリーナのことだとは思っていたが、別の人のことであってほしいと少し期待していた。

 そんなはずないのに。


 いやでも、その噂自体が根も葉もないでたらめってこともあるのだ。


 おちつけ。

 ここで心を乱してもいいことなんて何もない。



「さっきの聖女様と王子様が結婚するって話なんですけど。詳しく教えてもらっていいですか?」


「詳しく? 別にいいけど、広場のお触れに書いてあるわよ? それを見れば?」


「……お触れ? 何が書いてあったんですか!?」


「聖女エリーナ様とレジス王子様が結婚するっていう内容よ。今日の王立学園の卒業式のパーティで宣言されたらしいの」


「う、嘘だ。そんな……」


「嘘じゃないわよ。疑うなら広場に行ったら?」

「それよりあなた顔色悪いわよ? 大丈夫なの?」


「嘘だ。そんなはずない。エリーナが王子と、他の男と結婚……?」


 そんなの聞いてない。

 何かの間違いだ。


 そうでなかったら、俺との婚約はどうなってしまうんだ。


 この人たちの言う通り広場に……いや、直接聞きに行こう。


 学園に行って、エリーナに直接訊けばいいんだ。

 そうすれば、王子との結婚なんて無責任なただのデマだと否定してくれるはずだ……!


 そう決意した俺は走って王立学園への道を急いだ。






「なんだったのかしら。今の人?」


「聖女様のファンじゃない? ほら、聖女様は見た目もよいと噂されてるし」


「憧れの聖女様が王子様と結婚すると聞いてショックだったのねぇ」


「あ、結婚と言えば。レジス王子様って聖女様の他に婚約者もいたはずだけど……その人はどうなったのかしら?」






 俺は急いで王都を走り、王立学園へとたどり着いた。


 学園は無関係の者が自由に出入りができるようにはなってない。

 警備のために衛兵が立っているし、敷地には侵入者防止のために柵が設けられている。


 エリーナに事情を聞きたい。デマだと否定してほしい。

 躍起になっている俺は当然のごとく入口の門にて衛兵に捕まった。


「おいお前! いきなり何の用だ!」


「すみません。エリーナに会いに来ました」


「エリーナ様に会う? あの方を誰だと思っている。教会の象徴である聖女様だぞ。どこのだれかは知らないが、お前なんかが会えるわけないだろう」


「いや、俺はエリーナの――」




「私がどうかしたの?」



 そのとき、懐かしい声が聞こえてきた。



「エリーナ……!」



 そこにいたのは俺の婚約者であるエリーナだった。


 もとより美人であった彼女だが、三年間でより美しくなった。

 肩までだった髪は腰までのび、美しい金髪にはさらにつやが出て磨きがかかっている。

 顔立ちも大人びている。

 たった三年で、婚約者である少女は大人の魅力を手に入れていた。



「聖女様。この不届き者が学園に侵入しようとしたものですから捕えていたのです」


「不届き者……?」


 エリーナは俺のことをみて、驚きのあまり目を見開いた。


「……シド!?」


「ああ。そうだ。俺だよエリーナ。三年ぶりだね」


「シド。この大事な日に何をしに……!」


「それはもちろん。君に会うために来たんだ。それより、あの噂は本当なのか? 王子と結婚するっていうのは」


「ちょ! ちょっと黙って!」


 そう言って、エリーナは俺の腕をとる。


「……ここじゃダメね。人の目もあるし。場所を移すか」


 ぶつぶつとエリーナは呟いたあと、衛兵に向きなおる。


「衛兵さん。この人は私の知り合いです。用事があるので連れて行きますね」


「聖女様の知り合いだったのですか。それは大変失礼いたしました!」


「いいえ。いいんです。衛兵さんは自分の仕事をしただけですので」


「は、はい! 恐縮です!」


 そう述べた後、衛兵は「聖女様……! やはりお優しい……!」と感激していた。



 門を通った後はエリーナに続いて校舎の中に入る。


 本当ならその場で質問したかったが、


「こんなところで騒いだら迷惑になります。外部からの客のために応接室があるからそこに行きましょう」


 というエリーナに従うことにした。



 そのまま彼女は一言もしゃべらずに応接室まで歩みを進める。

 何度か話しかけても返事を返すことはなかった。


 



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