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20話 終幕



 俺たちが仕組んだこととはいえここまで上手く事が運ぶとはおもわなかったな。



「シド殿。アリシア殿。二人には愚息が迷惑をかけたな」


「いえ、こちらこそこのような騒ぎに巻き込んでしまい申し訳ありません」


「よい。愚息を罰する良い機会であった。あやつを罰するのは王である私以外には難しいからな」


「殿下はどうなるのでしょう?」


「先も言ったが、裁判をもって刑が下されるであろう。君たちを害そうとしたことは言い訳の使用もない事実だ。ふさわしい罰を与えるので安心してほしい」


「エリーナはどうなりますか?」


「彼女の裁判については教会からの横やりもあるだろうが、私から何か手心を加えることはないと言っておこう。エーゼンフローヌ卿も珍しく憤慨していた。奴も娘を殺されかけたことには腹を立てるらしい」


「お、お父様が……」


 驚いたように小さくアリシアが呟く。


 公爵についてはアリシアから冷徹な人だと聞いていた。

 だが娘を思う親らしい気持ちもあるらしい。


「シド殿は確か聖女殿の幼馴染であったな。君にとっては残念かもしれないが、最悪の事態も覚悟しておいてくれ」


 最悪の事態とは、死刑なのだろう。

 人1人――いや、エマさんも入れれば2人を殺そうとしたのだ。


 しかも相手は公爵令嬢で。

 ならばそういった刑もあり得なくはない。


 聖女という立場がどれだけ彼女を減刑させるのだろうか。

 


「……罪にはふさわしい罰が下されるべきです。裁判の結果に任せます。ただ、一度でいいので、後日面会の許可を頂きたく思います」


 彼女に未練があるわけではない。 

 だが、もし仮に極刑が下されるというのなら、一度くらいは会って話しておきたかった。


 あれでも、人生のほとんどを共に過ごした幼馴染なのだ。



「それくらいならば構わないだろう。私から手配しておく」


 そう言ってくれた陛下に対して、感謝の言葉を述べる。


「シド殿、アリシア殿。そろそろ私は失礼させてもらおうか。いずれ機会があればまた会おう」


「はい。その時を楽しみにしています」

「た、楽しみにしています」


「うむ」


 うなずき、陛下は部屋を出ていった。





「終わりましたね」


「うん」


 そして俺とアリシアの二人だけが残る。



「…………」



 連れていかれたエリーナのことを思う。

 

 つい数日前までは、彼女は俺の婚約者だった。

 少なくとも俺はそう思っていた。

 

 会っていない間に彼女は変わり、婚約を破棄し、されには他者を貶め暗殺までしようとする人間になってしまった。

 そして俺たちの手引きによって逮捕され、今は連行されている。



「エリーナさんのことを考えていますか?」

 

「うん」


「……彼女のことを、まだ愛していらっしゃいますか?」


「いや。それはない」


 あれでも幼馴染だから、情のようなものは残っている。

 しかしそれはもう愛と呼べるほどのものではない。


 ほんの少し前までは愛していると思っていたのに。 

 簡単に心変わりをするなんて、俺は薄情な人間なのかもしれない。


 もしかして、俺も会えない3年の中で自分でも気づかないうちに心変わりしていたのだろうか。

 

 だとしたら、エリーナのことを責められな――いや責められるわ。

 少なくとも衛兵呼んで冤罪吹っ掛けるようなことは俺はしてないし。

 

 

「もう彼女のことはいい」


「ですが、あの方と結婚するために努力をしていらしたのでしょう?」


「それはそうだけど、まあ別にかまわないよ。また新しい目標なりなんなり見つけるさ」


「何をなさるかもう決めていますか?」


「いや。まだ決めてないな……。一応親にはエリーナのこと言わなきゃいけないと思ってるけど」


 この数日の間、エリーナと殿下のことに対処するためずっと王都にいたから結局故郷には帰っていなかった。


 父さんと母さんには事情を話さないといけない。

 破局したのはまだしもエリーナが捕まったと聞いたら驚くだろうなあ。


 あと、エリーナの両親にも言わなきゃいけないよな。

 二人に事情を説明するのが今から億劫になる。


 なんていえばいいんだろうか。

 いや出来事をそのまま言うしかないけどさ。


「でしたら、その後で構いませんから公爵領に来ませんか?」


「え?」


 アリシアの家に行くってこと?

 それって、なんか――



「今回ご協力いただけた謝礼を渡したいのです」


「あ、ああ。謝礼ね、謝礼」


 なんだ。

 ただ謝礼を渡すだけか。


 納得するとともに、自分が一瞬想像したことに恥ずかしくなる。



「……あと、個人的にお礼もしたいので」


 横を見ると、アリシアの頬が少し赤くなっていた。


「お礼というなら、公爵領に行く前に王都を案内してくれないか?」


「ご両親はいいんですか?」


「親の元に帰るのは明日にするよ。1日くらい遅れてもいいだろう」


「では、お言葉に甘えて」


 アリシアは俺の手を取る。


「王都を案内させていただきます」


「ア、アリシア? 手は――?」


「繋いだまま行きますが?」


「そうじゃなくて。なんで手を繋いでいるのっ?」


「繋ぎたかったから、ではダメでしょうか?」



 ダメじゃない。

 むしろ嬉しい。


 そう思ってしまう俺は、移り気なのだろうか。

 


「勘違いしないでくださいね? お礼だからといって、誰とでも手を繋ぐわけではありませんから」


 そういったアリシアは俺の前に出て手を引っ張る。


 

「アリシア! 俺も、誰とでも手をつなぐわけじゃないからな!」



 美少女だからって、誰でも手をつないで嬉しくなるわけじゃない。

 でも俺は、アリシアの手を振りほどくことはしなかった。



「……もう!」


 アリシアは振り返ることなく、そう小さく嘆息して、歩く速度を速めた。


 彼女が先行する形となっているため角度的にその顔は見えない。

 だが、髪の間から彼女の耳がちらりと見えた。

 その耳はそれはそれは真っ赤になっていて、今のアリシアの感情を表していた。





終わり

お読みいただきありがとうございました。

今作はこれにて終了です。

面白いと感じて頂けたならば、ブックマーク・ポイント・ご感想などをお願いします。


新作を投稿をしてしますので、そちらもお読みいただけると嬉しいです。


https://ncode.syosetu.com/n3017kj/



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