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19話 断罪⑧



 フリージア王国の国王、ラングロード・フリージア陛下がここに来ていた。



「父上、どうしてここに」


「アリシア殿とシド殿に呼ばれてきたのだ」


「そ、そうですか。それよりも父上。こいつを捕まえましょう」


 殿下は俺を指さして得意げに笑う。

 怒り狂っていた様子から一転、その顔には笑顔が張り付いていた。


 王である父が――味方が来たと思っているのだろう。


「こいつは王子である僕を殴りました。次期王である僕を。不敬罪で逮捕――いや、死刑にしてください」


 そして陛下の護衛を一瞥する。


「兵士ども! こいつを捕まえろ! 犯罪者だ! 死刑にしろぉ!」


 そう告げて、はははと笑っていた。


「どうだ、シド・ヴァリス! お前はもう終わりなんだよ! 王族である僕を殴った時点でなあ! S級冒険者だろうがなんだろうが、法律による罰は受けてもらうぞ!」


「レジス」


 ラングロード陛下はレジス殿下に向かって言葉を投げかける。


「レジス。いいかげん口を閉じろ」


「いえ、言わせてください父上。僕はこいつを――」


「口を閉じろと言っているのだ。恥さらしめ」


 その言葉の後、陛下はレジス殿下の頭を思い切り殴りつけた。


「ごぁっっ……」


 ごん、と重い音が響く。


 いい一撃が入った。

 これは痛そうだ。


「う、うぇ……? な、なんで」


 頭を押さえて殿下は混乱している。

 なぜ殴られたのか、まるでわかっていないようだ。


 それはそうだろう。

 彼からすれば陛下は味方のはずだったのだ。

 それがまさか黙れと言われて殴られるなど想像もしていなかったに違いない。


「口を閉じろという言葉が聞こえなかったか?」


「…………」


 さすがに、三度目の言葉で彼は黙った。


「シド・ヴァリス殿。アリシア・エーゼンフローヌ殿。此度は我が愚息が多大なる迷惑をかけて申し訳ない」


 陛下はその言葉と共に頭を少し下げる。


「私にも王という立場がある。公共の場で堂々と頭を下げるわけにはいかないのだ。本来ならば頭を床にこすりつけてでも謝罪すべきと理解しているが、これで容赦してほしい」


「お気持ちはお受けしました。その言葉と謝罪のみで、わたくしは十分です」


「俺も問題ありません」


「そうか。寛大な心に感謝する」


「父上!」


 一連の言動を見ていた殿下がたまらずに叫びだした。


「王であられる父上が、頭を下げるなんて何を考えているのですか。それもアリシアならともかくシドという野蛮な平民に」


「レジスよ。少しの間だけでも黙ることもできんのか、貴様は」

 

 陛下は再度レジス殿下の頭を殴りつけた。

 

「それに私がなぜ謝罪しているのか。誰の行動のせいで謝罪しているのかまだわからんか?」


「そ、それは――」


「貴様の愚かな行動の責任に決まっておろうが、愚か者」


 そしてもう一発頭にくらわせる。 


「いいか? レジス。私は貴様の言動を最初から見ていた。もう一度言う。最初からずっと見ていた。その意味が愚かな貴様にわかるか?」


「……さ、最初から?」


「ああ。そうだ。冤罪の件も、聖女エリーナによる暗殺指示も、聖女の罪を隠蔽しようとしたことも、魔法を用いて二人を殺そうとしたことも知っている。ああそうそう、貴様の気持ちの悪い言動も全て見ていたぞ。親として、息子のあのような姿を見るのは辛いものがあった」


 そのときのことを思い出しているのだろう。陛下は遠い目をしていた。


 婚約者に元カレがいて罵倒したり、次の女は経歴を調べるとか言ったり。

 挙句の果てには自分が数日前にフッたアリシアとまた婚約しようとしていた。


 うん、酷いな。

 他人の俺からしても気持ちの悪い言動なのに、陛下からすればそれは自分の息子の言動だからな。


 陛下にはさすがに同情する。

 


「いったいどこにいたというのですか。この場には僕らしかいませんでしたよ」


「ここの隣の部屋にいたのだ。魔道具によって音と映像を繋いで全てを見ていたぞ」


「魔道具……!?」


 殿下はきょろきょろと周りを見回す。

 そして端の机においてあるこぶし大のガラス球の方に歩いていくと、それを床に叩きつけた。


「クソ! こんなもの!」


 殿下は砕けた球体の破片をだんだんと踏んでつぶしていた。



「魔道具ってあれ?」


「ええ。あらかじめ置いておきました。言われなければ意外と気づかないでしょう?」


 アリシアがふふん、とドヤ顔をする。


「あれと同じ物が隣の部屋にあります。音と映像を送ったり映したりできるんですよ」


「便利だね。ああいう魔道具があるなんて」


「ええ。便利な分それなりに高価なんですよ。壊した魔道具の代金は後で王家に払ってもらわなければいけませんね」


「どれぐらいの値段なの?」


「そうですね……。王都で家が2,3件建つくらいには高価でしょうか」


「ばか高いな」


 そんな高級品をげしげしと踏みつぶしているレジス殿下。

 ……こいつ碌なことせんな、ほんと。


「お前の差し金か、アリシアァ……」


「はい。すべてわたくしの狙い通りです」


「す、すべてだとぉ!」


「殿下も最初おっしゃっていたではありませんか。冤罪の解消を、いまこの場で行って意味があるのかと。もちろん意味があります。全て陛下が見ているのですから。ああ、一応言っておきますが見ているのは陛下だけではありませんよ?」


「な、他に誰が!」


「わたくしの父と、学園長、騎士団長、それに教皇殿でしょうか」


「き、教皇様まで見ているの……!」


 エリーナが悲鳴のような声を上げる。

 彼女もさすがに立場的に教皇には弱いらしい。


「俺とアリシアの伝手で集めさせてもらった」


 さすがに公爵令嬢一人の声掛けでここまでの人は集められない。

 彼女の力が及ばない分はS級冒険者の俺の立場を使って集めたのだ。



 俺達の作戦はシンプルだ。

 アリシアの冤罪を晴らして、エリーナによる暗殺を証明する。

 そしてそれを陛下や教皇などの有力者に見せることだ。


 陛下たちがみていることを知れば二人は警戒して尻尾を出さないかもしれないから、隠れてもらっていた。

 

 魔道具を使って遠隔で様子を見せることを思いついたのはアリシアだ。

 魔道具も用意してもらった。



 途中何度か二人を煽ったのは、彼らから冷静さを奪って短絡的な行動をさせるため。

 まあ、ストレス解消も兼ねてたのは否定しないけどね。



「お前らのせいか! 全部お前らの!」


「せい、と言われてもな。俺達だって煽りはしたけど、殿下の行動の責任は殿下にありますよ」


 俺も殿下が暴力を振るう可能性までは考えていた。

 だがそれは殴りかかってきたら向こうの心証が悪くなって御の字、といった程度だ。


 それが魔法をつかってまで殺しに来た時は驚いたよ。


 口封じのためとか言ってたけど、冷静に考えて学園内で人を――それも公爵令嬢を殺して、隠蔽できるはずもないだろう。

 絶対にバレるし、絶対に隠せない。



「騒ぎが起こることを見越して、あらかじめ学園長には何が起こっても教師を派遣しないように言っておきました」


「レジスよ。そもそもおかしいとは思わなかったのか? あれだけの激しい魔法を放っておきながら、誰も来ないはずがないだろう」


「…………」


「レジス。貴様は短絡的で愚かな男だ。一時の恋心で王家と公爵家の縁談を破棄し、のみならず勝手に婚約者を決めた。しかも女の言うことを全て疑わず、無実の者に冤罪までかけた。だがたとえ愚かな息子であったとしても、悪ではないと思っていた。なのに、貴様は自身のために婚約者の罪を隠蔽するしようとしたばかりか、魔法を使って人を殺そうと企む始末だ」


「ち、父上。違うのです。僕はこの女に騙されていたのです。全部このエリーナが悪いのです」


「なによ、ここにきて全部私のせいにするつもり!? 言っとくけど、魔法使って二人を殺そうとしたのは私は関係ないからね! 全部あんたが一人でやったことよ!」


「なんだと。元はと言えば、お前がアリシアを暗殺しようとするからこうなったんだ! 余計なことをしやがって! あれさえなければただのスキャンダルで終わったものを!」



 そうか?

 冤罪を着せたのと、勝手に婚約破棄したのは割と大きいことじゃないか? 

 ほんとにただのスキャンダルで終えられる?



「何が余計なことよ。冤罪の件も全部私に頼りきりだったくせに! そんなに言うなら自分で策の一つでも考えなさいよ!」


「なぜ僕がそんなことを考えなきゃいけない。考えるのは下々の者がやることだ!」


「そんなんだから考えなしに魔法使っちゃうんだろバ------カ!」


「考えたうえで暗殺を指示するお前よりマシだこのクソアバズレ!」





「もうよい!!!」




 見苦しい二人の争いを陛下が一括した。


「なにをするかと思えば、責任の押し付け合いか! 貴様らの人間性にはほとほと呆れ果てたわ! この二人を拘束しろ!」


 ぞろぞろと二人へと衛兵が集まってくる。

 このまま牢屋にでも連れていかれるのだろう。


「父上。待ってください。話を聞いてください!」

「私は聖女よ。こんな扱い許されないわ!」


「貴様らの罪は裁判をもって正式に裁かれる。その時を牢屋で待っておれ」


「おい。やめろ離せ。僕は王になる男だ。王になるはずだったんだ!」

「こんなの間違ってるわ。聖女になったんだもの。私はもっと豪華な暮らしを――」



 わめく二人は衛兵に連れられて行った。

 後に残ったのは、俺とアリシアと陛下の3人だ。



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