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15話 断罪④


―――S級冒険者『シド・ヴァリス』視点―――




「つ、罪? 私にいったい何の罪があるというの?」


「それについて言う前に、アリシアの疑惑への反論をさせてもらう。さっきも言ったが、そもそもアリシアやエリーナが在籍中に俺が王都に来たことはない。卒業式の日に始めて来た。当然、王都の歓楽街に行ったことなんてないし、そこでアリシアの姿を見たこともない。そしてそれをエリーナに伝えたこともない」


「しょ、証拠は? そんな証拠はあるのですか?」


「ないけど……そんなもの必要か? 証人としてお前が名を挙げた俺が否定している以上、そもそも不貞の疑惑自体がなかったってことだろ。俺の言葉が信用できないというのなら、他の証人を誰か連れてくるか?」


 そんな奴がいれば、の話だけどな。



「そんなことをする必要ありません」


 イーノという教師が冷たい声で告げた。


「先ほどのエリーナ君の言葉と今のシド・ヴァリス殿の言葉の矛盾から判断しますと、エリーナ君が嘘をついていることは明らかです。これ以上の彼女の証言・証拠も嘘の可能性の方が高い。そんなものは必要ありません」


「嘘!? ならシドの方が嘘をついているかもしれないじゃない! そ、そうよ! そこのアリシアが体を使ってたらしこんだに違いないわ! 全部彼女が仕組んだことよ!」


「それを肯定できる材料はないんですよ。貴方が嘘をついていると考えた方が納得がいく。特に、先ほどのまでの言動の不審点を考えるとね」


「ふざけんな! 私は聖女だぞ! 噓をついているわけないだろうが! これは教会全体に対する侮辱だ!」


「……嘘泣きの次は怒って騒ぐのですか? あまりいいやり方ではありませんよ。殿下も引いています」


 アリシアの指摘に、エリーナがハッとしてレジス殿下の方を見る。


「エ、エリーナ……?」


 殿下は目を丸くしてエリーナのことを見ていた。

 彼女の豹変ぶりに驚き、固まっている。


「殿下。違うのですよ。ええと、その。すみません。少し取り乱してしまって」


「取り乱して本性が出た?」


 ちゃちゃを入れてみる。


「うるさい! シド、あんたは黙ってろ!」


「エリーナ……」


 つい感情的になって俺に怒鳴ったが、これは失敗だ。

 隣に殿下がいることをもう忘れているのか?


「ほ、本当に。嘘なのか? いじめも、アリシアの不貞も。全て」


「嘘ではありません。殿下。私は真実を言っています」


「だ、だが。これまでの証人は全てあやふやなものだったじゃないか。それに、エリーナが証人だといったシドという冒険者も君の言ったことを否定している」


「嘘ではありません! これはアリシアの罠です! あの悪女の策略なのです! 私のことを信じてください!」


「し、信じたい。信じたいが……信じられる材料がないんだ……!」


「それは……そう! シドがこの場にいることがおかしいではありませんか! 先ほどまで魔道具を用いてアリシアの従者に化けていました! 彼を呼んだのはアリシアに違いありません! 彼らが一緒にいることがおかしいのです。たかが一介の冒険者がなぜ公爵令嬢と一緒にいるのですか!?」


「それは……確かに、そうだ」


 レジス殿下はエリーナの言うことに頷き、納得していた。



「全て彼女の策略です。私を、私だけを信じてください。殿下」


「あ、ああ。すまないエリーナ。僕がどうかしていた。婚約者である君を疑うなんて。だがもう大丈夫だ。悪いのはアリシアで、君は僕を助けてくれる最愛の妻だ。君のことを信じる」



 いやちょろいなお前。

 さっきまでエリーナを疑っていたのに、ちょっと説得されたらすぐに信じるのかい。



「確かに私も疑問ですね。どうしてシド・ヴァリス殿がアリシア君と一緒に?」



 イーノ教師がこちらを向き、そう質問してくる。


「あなたほどの冒険者ですから、どこかで公爵家とつながりがあったとしてもおかしくはありません。しかしこの場にいることは疑問があります」


 その口ぶりから察するに、先生はどうやら俺がS級冒険者であることは知っているようだ。


 レジス殿下は俺がS級冒険者であることは知らないようだが。

 『シドという冒険者』という言葉から俺のことは知らないとわかる。



「公爵家とのつながりはありません。彼女は少し前にとある事件に巻き込まれており、アリシアとはそこで縁をもちました。その『とある事件』について今から言いたいと思います」


「察するに、その事件というのがエリーナ君の罪ということでいいのですか?」


「はい」


「……気にはなりますが、ここからは私の立ち会うことではありませんね。アリシア君の冤罪の件について話しを聞くことは同意しましたが、他は別に私の仕事ではありませんので」


 学園の件について準備を進めていたのはアリシアだ。

 生徒への聞き取りや先生への根回しも彼女が行っていた。


「先生に話したのは私の冤罪の件についてまでです」


 アリシアは俺に近づき小声で話しかける。


「盗賊のことははなしてませんわ。冤罪は学生時代のことでしたからこの場にいて頂きましたが、盗賊は卒業後のことですし。事は教会と公爵家の問題なので、彼を巻き込むことはしたくありません」


「わかった。そういうことなら、先生には席を外してもらおうか」


「イーノ先生、お立会いいただきありがとうございます」


「いえ、これも仕事ですので。では失礼します」


 イーノ先生は一礼をして部屋を出ていった。

 ああ、あと証人として連れてこられた女子生徒も一緒にね。

 

 残されたのは俺・アリシア・エリーナ・殿下の四人だ。




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