表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/20

12話 断罪①


――悪役令嬢 『アリシア・エーゼンフローヌ』視点――




「なんの用だアリシア。こんなところに呼び出して」


 

 婚約破棄の数日後。

 私はレジス殿下と聖女エリーナを学園に呼び出していた。


「こんなところ、とはひどい言い草ですね。つい少し前まで通っていたあなたの母校ではありませんか」


「ふん。揚げ足取りは楽しいか? 性格の悪いお前らしいな」


 不満げに顔を歪ませてこちらを睨む殿下。

 

 大した嫌味は言ってない気もするが、この態度だ。

 ずいぶん嫌われたものだなと思う。


 もし仮に婚約破棄がなかったことになっても、彼との仲が戻ることはないだろう。


 

「何の用事だと聞いているんだ。話をはぐらかすな、売女め」


「売女とはそれこそ酷い言い様です。一国の王子ともあろうお方の台詞とは思えませんね。謝罪してください」


「誰がそんなことをするものか。貴様が夜な夜などこぞの男に尻尾を振っているのは事実ではないか」


「それが事実という根拠はあるのですか?」


「卒業パーティの時にエリーナが言っていただろう。夜になれば歓楽街へと足を運び、男を誘って練り歩くその姿を他人に見られているのだ」


「卒業パーティの時に私が聞いたものから内容が過激になっていますね……。それにそれは事実ではありません」


「減らず口を! ならばその男は誰だ? また一人男を誘ったのか? 婚約を破棄して大した時間もたっていないすぐに、このように若い男を連れまわしている現状こそが、貴様の淫蕩さを表しているだろう!」


 殿下は私の後ろにたつ男性を見て、それ見たことかと嘲笑を浮かべる。


 殿下の言葉の通り、私の傍らには従者が立っていた。

 彼は殿下の挑発に対応せず、ただ黙って殿下の言葉を受け流している。 

 

「彼は私の信頼する従者です。決して殿下が口にしたような不埒な仲ではありません。先ほどの言葉は私だけでなく彼に対する侮辱でもありますよ。いわれのない流言を信じて他者を公然と侮辱することがフリージア王国の王子のすることですか?」


「くっ……。ふん。従者ならば先にそう言えばいいものを」


 さすがに今の言葉は殿下も悪いと思ったのか、すぐに矛を収めた。

 それでも謝罪をしないあたりがもう色々とダメだと思うけど。


 まあ、彼の人となりについてはもう諦めている。

 別に矯正しようとも思っていない。

 

 婚約破棄されてから数日。

 手続きを終えて、正式に破棄も受理されたことだし。

 もう他人だ。



「さて、私がお二方をお呼びしたのは先日の卒業パーティの婚約破棄の件についてです」


「それがどうした? 破棄のための手続きはもう完了したはずだが?」



 殿下と私の婚約破棄はもう済ませている。

 襲撃の後から数日後、正式に破棄の手続きを取っていた。

 とはいっても、書類を何枚か書いて終わったが。


「私の用事は婚約破棄の際にエリーナさんがおっしゃられた私の罪とやらについてです」


 エリーナさんの方を見る。

 彼女はこちらを睨みつけながらも顔を青ざめていた。

 焦りからか恐怖からか、汗もかいている。


「エリーナさん。先ほどから一言も発せられておりませんが、どうかいたしましたか? 体調がすぐれませんか?」


「な、なんでもないわよ―いえ、ありません。体も別に問題ないです。どうぞ続けてください」


「そうですか? ですが顔色が悪いですし、汗もかいておりますが」


「なんでもないと言っているでしょう……!」


 声を震わせているエリーナさん。


 指摘した通り、エリーナさんの顔色はよくなかった。


 それはそうだろう。

 公爵令嬢を始末するために刺客を送ったはずなのに、 当の令嬢が生きて目の前にいるのだから。


 おまけにこれから自分の浅はかな策に対して言及されるのだ。

 顔が青ざめるのも仕方ないというもの。


 だからといってその姿に同情して、何か手加減することはあり得ないが。


「くそ。なんでお前がここに。なんで。あいつらはいったいどうしたのよ」


 エリーナさんが小さくそう呟くのが聞こえてくる。

 

「エリーナ? どうした? 本当に大丈夫か?」


「は、はい! 大丈夫です!」


 エリーナさんは取り繕って笑顔を見せる。

 彼女の言葉と笑顔に「そうか」とレジス殿下は納得するが、彼女の顔が引きつっていることに気づかない。


「話を戻しますね? 今から婚約破棄の時におっしゃられた、私の罪というものを否定させていただきます」


「ふん。そんなことを今この場でやって意味があるのか?」


「ええもちろん。それはすごく意味のある、重要な事です」


 今この場にいるのは私と従者、そして殿下とエリーナさんの4人だ。

 どんなに証拠を用いて罪を否定したとしても、それを認識する第三者がいなければ話にならない。意味がない。


 仮にこの場で冤罪を晴らしても、この場にいない他の者たちにとっては私が悪女であることは変わらないのだ。


 殿下が言っているのはそういうことだろう。


 だが、これについてはいまはいい。

 話を進める。



「まず、私が行っていたといういじめについてですが、そのような事実はないと否定させていただきます」


 そのときコンコン、とノックが鳴った。

 これはもちろん偶然ではない。


 エリーナさんと殿下がドアの方に注意を向けた。


「私がお呼びした者です」


「いったい誰を……?」


「会えばわかりますよ。どうぞ入ってください」


 入って来たのは教師と一人の女子生徒――いや、元生徒だ。

 今年卒業したばかりの生徒、つまりわたくしの同級生だ。

 殿下とエリーナさん、そして私の同級生でもある。


「イーノ先生。および立てして申し訳ありません。本日、イーノ先生の立ち合いの下で、確認したい事実があります」


「なるほど。さっきのはそういうことか」


 殿下がそう呟く。


「つまり、先生が第三者となってここでお前の学生時代の言動を改めて確認する、ということか」


「ええ。そういうことです」


「ふん。恥の上塗りになるだけだろうに。まあそれはいいが、そっちの生徒は? 彼女も第三者として聞いてもらうのか?」


「いいえ。彼女は第三者などではありませんよ。殿下。彼女の顔に見覚えはありませんか?」


「見覚え……?」


 殿下は女子生徒の顔を注視して、考え込むように片方の眉を下げる。


「ああ、卒業パーティのときの」


「ええ。わたくしがエリーナさんにいじめをしていたと証言した人です。わたくしの冤罪を晴らすのですから、証人である彼女にも話を聞くのは当然でしょう?」



 役者はそろった。

 さあ、私にかかった冤罪をはらしていきましょうか。





 4/9に公開いたしました9話『邂逅後②』につきまして、誤って8話『邂逅後』と同一の内容が掲載されておりました。

 現在は正しい内容に修正済みでございますので、ご興味のある方は改めてお読み頂けますと幸いです。


 読者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ