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11話 婚約破棄同盟



「話を戻すが、その婚約破棄の件がアリシアが教会に命を狙われたと思った根拠か」


「ええ」


「でもちょっとおかしくないか? 婚約破棄された側が恨みに思って命を狙うならともかく、した側が狙うのはどういうことだ?」


「一応言っておきますが、恨みに思っても私は命は狙いませんよ? 死んだらそれで終わりですからね。わたくしはそんな甘い対応はいたしません」


「ちょいちょい闇だすのやめてくれませんかねぇ……」


 怖いから詳しくは聞かないことにする。


「それに、別に婚約破棄されたことも殿下を奪われたことも恨んでいません。殿下を盗られたのは私の未熟が招いたこととして受け止めています。ただ、婚約破棄の時にかけられた冤罪に関しては話は別ですが」


「冤罪ね」


「ええ。私がエリーナさんをいじめたことやわたくしが夜な夜な男と不貞を働いていたという事実無根のデタラメです。それを払拭し、偽証だと認めさせ、彼らに然るべき処罰を与えたいとは考えています」



 アリシアがぐぐ……と拳を握りしめる。

 これはそうとう頭に来ているとみて間違いないだろう。



「問題は冤罪の方なんですよ。エリーナさんの語った私の罪というものは、証言こそは取れているらしいですがどれも決定的な証拠がありません。その証言というのも怪しいものです。誰も彼もが教会と付き合いのある貴族の子女で、エリーナさんの派閥の者です。彼女に言われるがままに証言した可能性があります」


「それをばれるのをエリーナが恐れたということか」


「少し調べればわかるものですからね。ですが、当事者である私が死ねばその恐れもなくなります。他の貴族は誰も深くは調べようとしないですし、調べたところで聖女と王族に面と向かって対抗できる者なんていません」



 仮にアリシアの件を知った者が冤罪について調べたとしよう。

 それで証言の不確かさや何かしらの証拠を手に入れたとしよう。


 それがそこらの平民や下級貴族であるば、あれは嘘だと言ったところで彼らにとっては何の問題もないだろう。


 王子と聖女の仲を妬んだデタラメだと一蹴されてそれで終わりだ。

 もしくは聖女に不都合なことを述べた者は、邪魔だと教会から判断されてその存在ごと闇に葬られるか。


 どちらにしろ大したことにはならないな。


 権力に対抗するには真実だけじゃ足りないのだ。

 同じくらいの権力をもたなければいけない。


 あの王族と聖女に対抗できる権力と言えば、この国ではそれこそ公爵家くらいだろう。


「公爵はどうなんだ?」


 公爵家の令嬢であるアリシアもそうだが、公爵本人も二人に対抗できるくらいの発言力はある。


「私が頼めば動いてくれるでしょう。公爵令嬢の冤罪によって公爵家の評判も傷つきますから。その意味でも助けてくれるはずです。ですが、それも私が生きている間の話です」


「死んでしまったら何もしないと?」


「私が死ねば被疑者死亡ということで片が付き、これ以降の調査にはあまり意味がありません。冤罪か否かはうやむやになります。殺人等の大きな犯罪ならばまだきちんと調べられますが、今回の冤罪のような犯罪ではない場合ではそのようなことはありませんね」


「死人に口なしってことか」


「ええ。貴族の間ではこういったことは珍しいことではありません」


「うお。権力者の闇……」


 貴族って怖い。


「父も王族や教会を敵に回してまで死んだ娘の無念を回復させることはしないでしょう。あの人はそう……現実的な人ですから」


「つまり、アリシアがいなくなれば動機の面でも権力の面でも冤罪を晴らすことができる人間はいなくなるのか」


「ええ。エリーナさんはそのために私の命を狙ったと考えられます」



 確かにそう言われてみれば彼女を殺すことにはメリットがある。

 むしろメリットしかないとも言っていい。


 殺したならば死人に口なしとばかりに婚約破棄の時の罪はうやむやになる。

 アリシアの死も盗賊がやったと言い張れば犯人はわからなくて迷宮入りだ。

 あるいはスケープゴートとして犯人役の盗賊を仕立て上げるか。


「これが全てエリーナが仕組んだことか」


 よくできた作戦ではあるが、実に胸糞悪い話でもある。

 彼女の心がそこまで汚れているとは思いたくない。


 確かに王都に行ってからの三年間で彼女は変わった。

 故郷の街で暮らしていた頃の優しさは失われ、自分の欲のために他者を陥れるようなことをするようになってしまった。


 だが、さすがに冤罪がバレないように殺しの依頼までするようになるなんて……。


 そこまで変わってしまったのだと受け入れることはできない。

 何かの間違いであって欲しい。



「ですがこの推測にも明確な証拠があるわけではありません。婚約破棄の時の冤罪はまだしも、私を害そうとしたことは教会の一部の人間の暴走でエリーナさんが関わってない可能性もあります」



 言われてみればそうだ。

 別に、エリーナが何かをした証拠もないのだ。


 御者(偽物)の反応からアイツが教会の人間であることは確かなんだろうが。


 いや、そういったことは明日の尋問で確かめればいい。

 そのために二人を生かして捕まえて来たんだから。



「シド。私に協力していただけませんか?」


「協力というのは?」


「先ほどの襲撃について、裏で手を引いている者を捕まえることに協力してください。もちろん謝礼は払います」


「それはつまり、エリーナが悪事をした証拠を集めることに協力するということか?」


 アリシアの依頼にそう返す。

 意識したわけじゃないが、意地の悪い聞き方になってしまった。



「……彼女の元婚約者である貴方にそれを頼むことは酷なことではあると理解しています」


「いや、ごめん。俺も意地悪なことを言った。協力するよ」


 もしエリーナが人の道を外れてこのような悪事を企んだのなら、それを正すことは幼馴染で元婚約者の俺の役目だろう。


 もちろん彼女が関わっていない可能性もある。

 その時はエリーナがそこまでの悪人ではなかったとわかるので、それはそれで構わない。



「では、私達の協力関係が成立したということで」


「ああ。婚約破棄の被害者同士の協力関係だな。さながら婚約破棄被害者同盟といったところか」


 俺の言葉に、アリシアはクスリと笑った。


「すみません。笑い事ではないとは思いますが。婚約破棄被害者同盟という言葉が面白くて」


「……そんなに面白かった?」


「ええ。面白いですよ。いいですね。婚約破棄被害者同盟結成です」



 婚約破棄被害者同盟。

 同じ日に婚約破棄をされた俺とアリシアの協力関係は、そんな言葉で表されることになった。



 4/9に公開いたしました9話『邂逅後②』につきまして、誤って8話『邂逅後』と同一の内容が掲載されておりました。

 現在は正しい内容に修正済みでございますので、ご興味のある方は改めてお読み頂けますと幸いです。


 読者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。

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