表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/20

10話 公爵家別荘



 ひとまず、森から移動することにした。

 聞きたいことは色々あったが長話するような環境ではないし、気絶させたリーダーが起きる可能性もあるからさっさと王都に運びたい。


 御者のふりをしていた者も気絶させて運ぶことにした。

 ま、もう一人くらいいか。


 それぞれの手で襟首をつかみずるずるとひきずる。

 その姿にアリシアとエマはドン引きしていた。


 運ぶ手段がこれしかないのだからしかたない。


 森を歩きなれてない二人のために適宜休憩をはさみつつ、王都を目指して歩く。

 どうにか日が沈む前に王都までたどり着いた。

 

 その後、王都で二人を衛兵に引き渡した。


 公爵令嬢のアリシアとS級冒険者の俺の証言によって、彼らの拘束と尋問が決定。

 ひとまず今日は牢に放り込み、尋問は明日以降に行われるらしい。

 その時に俺も立ち会うよう頼んだら快く快諾してくれた。


 あの二人から情報を抜き取るのは明日以降になるだろう。




 さて、次はアリシアとの話だ。

 まさか公爵令嬢が教会の神殿騎士に襲われた話をそこら辺の酒場でするわけにもいかないだろう。

 どこか人の目がない場所で話がしたいのだが、あいにく俺は王都でそんな場所を知らない。



「でしたら私の別荘に来てください」



 というアリシアの一言で、密談の出来る場所として公爵家の別荘に行くことになった。


 王都に別荘があるなんてな。

 さすが貴族だ。金持ちである。



「うお。すげ……!」



 王都にあるアリシアの別荘は、別荘という言葉を疑うくらいには豪華な屋敷だった。

 

 途中で通って来た民家が百軒は入りそうな屋敷だ。

 なんなら、そこらの地方領主の本邸くらいには大きいのではなかろうか。


 これで別荘なのだという。

 さすが公爵だ。とても金持ちである。



 そんな豪華な別荘に入る。

 客間に通されて、座ったことがないようなふっかふかのソファに腰かけた。


 すごいなこのソファ。

 冒険者ギルドの本部にあったソファの倍くらい深く沈む。

 俺の家にあるベッドの3倍くらい柔らかい。

 値段はたぶん、俺の家のベッドの3倍じゃすまないんだろうけど。 


 さすが公爵家。

 



「ここは私達しかいませんから。自由に話してもらって結構です」

 

「あ、はい」


 いかんいかん。

 感動しているばかりではダメだ。

 ここにはソファの感触を確かめに来たのではないのだから。


 この客間には俺とアリシアしかいない。

 ここが公爵家の別荘ならば盗み聞きしている者もいないだろう。



「森の中での話の続きをしよう。まず、あの御者が神殿騎士だと言った件について」


 アリシアは、あの御者のふりをした男を教会の神殿騎士だと看破した。

 


 神殿騎士。

 それは教会に仕える騎士のことを示している。


 教会は神とその使いである聖女を崇める宗教団体だ。

 その影響力は王国内だけでなく大陸全土にわたっている。


 それだけ大きな組織なのだから、当然揉め事に巻き込まれることもある。それに対処する部隊も当然ながら存在するだろう。


 それこそが神殿騎士。

 教会の持つ武力だ。


 国と同程度とまではいかないが、それなりに強力な武力だ。

 それこそ今回のように、数十人ほど騎士を集めて人を襲うことくらい難しくはない。

 まあ貴族を襲うなんて、普通はやらないんだけど。



 盗賊にしては腕前が良いと思ったのはそういうことならば納得だ。


 訓練された神殿騎士だったのだ。

 なんならそこらの傭兵よりかはずっと強いはずだ。


 そして彼らが厄介なのは強さだけではなく権力もある。

 先ほども言った通り教会の影響力は計り知れない。

 それこそ今回のように、警備が厳しいはずの学園に御者として一人もぐりこませることも難しくはないだろう。


 状況証拠としてはばっちりだな。


 聞きたいのは、彼女が彼を神殿騎士だと考えた根拠。

 もっと言うならば、アリシアを排除して喜ぶのは聖女と言った発言についてだ。


「俺から聞きたいのはあの時の言葉だ。どうしてエリーナがアリシアを排除したいと思っているんだ?」


「名前……。シドはエリーナさんと親しいのですか?」


「あ、ああ。幼馴染だ」


 そして元婚約者でもある。

 昨日婚約破棄された。


「そうですか。エリーナさんの幼馴染の貴方がこのようなことを聞くのはお辛いかもしれません」


 そしてアリシアは自分の事情を話してくれた。

 

 昔からたびたびエリーナがアリシアの婚約者であった王子に近づいていたこと。

 そして卒業式の今日、王子がアリシアを婚約破棄したこと。

 その後釜としてエリーナが王子と婚約したこと。

 婚約破棄の時に身に覚えのない冤罪をかけられたことまで語ってくれた。


 

 婚約破棄か。

 どこかで聞いたような話だな。

 どこかというか、俺のことだが。


「う~ん。他人には言うつもりなかったけど、さすがにもうそんな場合じゃないか」


「はい?」


 エリーナとの約束(あれ? 約束してはなかった?)を破ってしまう形にはなるが、俺は彼女との関係性をアリシアに語ることにした。



「すまない。さっきの幼馴染という言葉は嘘じゃないけど正確でもなかった。正確には元婚約者というのが正しい」



 エリーナが聖女になる前、幼馴染である俺と彼女は付き合っていた。

 聖女として選ばれる時に故郷の街を離れて王都に行くことになったが、その前に俺と婚約をした。


 三年経ってエリーナが学園を卒業する時になり王都に来たら彼女が王子と婚約をする話を知った。

 どういうことかと彼女の下へ行けば一方的に婚約破棄をされた。


 それらを話すと、アリシアは酷く驚いていた。



「S級冒険者のシドがエリーナさんと婚約をしていたなんて。初めて聞きました」


「S級冒険者になったのも最近だからな」


 注目され始めてからが短い。

 それまでもA級として活動していたことはあるが、A級とS級では注目度が段違いだ。


「それに誰にも女性関係についてきかれなかったし」


 隠していたわけじゃないんだよな。

 誰にも聞かれなかっただけで。


 パーティを組まずに一人で行動して結果を残す冒険者は稀にいる。

 そういう奴は得てして孤独好きな者が多い。


 友人も恋人も作らず、仲間も作らずにただ一人で黙々と魔物を狩るのだ。

 強い冒険者ってのはこだわりの強い変人が多いから、そういうのは偶にいるんだよ。


 俺もその類だと思われていたんだろうなあ。


 いや俺、冒険者の友達とか普通にいるし。

 たまに他のパーティーと一緒に行動してたぞ。


 基本はソロだったけどな。



「シドをフッてレジス殿下と婚約する。S級冒険者と王子を天秤にかけるなんて贅沢な女ですこと」


 アリシアが冷たい目をする。 


 端から見れば興味をそそられる愛憎劇だが、実際に王子に振られた当事者としては面白いものではないだろう。

 俺だって面白くない。



「そもそもあっちは俺がS級だって知らなかったようだけどね」


「社会情勢に疎かったんですのね。ときどきいるんです。学園にこもって外に目を向けない方が。学園の華やかさに目がくらんだか、学園内での権力闘争にばかりかまけていた愚か者ですけど」



 アリシアが毒舌だ……。

 エリーナについては思うところがあるんだろうな。



「それに、まさかシドまで婚約破棄をされていたなんて思いませんでした」



 俺とアリシアはどちらも同じ日に同じ二人に婚約破棄された者同士だ。


 こんな偶然あるのか?

 いや、同じ相手に婚約破棄されているのだから偶然というのでもないのか。

 仕組まれたものというか、必然というか。



「俺たちはお互いに婚約破棄の被害者ということか」



 物語の中ならばともかく、現実で婚約破棄なんてそうそうないぞ。


 それが同じ日に二人も出る。

 そしてその二人が出会うことなんてどれだけ珍しいことか。


 こんな偶然あるもんだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ