第三話
毎年バカンスの季節になると、僕と母は二人でささやかな遠出を楽しんだ。目的地は、森に囲まれた静かな湖。決して大きくはないけれど夏になると人で溢れるその場所では、各々が木陰で本を読んだり、カヌーに乗ったり、湖に飛び込んだり、自分たちに合った楽しみ方を見つけていた。
僕たちはただ、ひたすらにバシャバシャと泳ぎ、北欧の短い夏を精一杯満喫した。深緑の水面にキラキラと反射する太陽が眩しかった。
疲れ果てた身体を引きずりながら岸に上がると、湖畔のベンチに並んで座り、アイスクリームを食べた。移動販売のおじさんは日によって仕入れるアイスクリームが違うらしく、頻繁に新しい味が登場した。
僕はいわゆる新しいもの好きの子供で、まだ食べたことのない味を見つけると必ず挑戦していた。この味は好みじゃないかもしれない、そう思っても好奇心には抗えない。
一方で、母は決まっていつも同じチョコレート味のアイスクリームを選んでいた。
「どうしてママは他の味を試さないの?」
一度、母に尋ねてみたことがある。彼女はにっこり笑ってこう言った。
「人生はリスクを取らないことも大切なのよ。」
その言葉の意味は幼かった僕にはよく理解できなかったけれど、その時の母の笑顔と優しい口調は今でも鮮明に覚えている。
結局いつも僕は、何口か食べて味を確認するとすぐに自分のアイスクリームが嫌になってしまう。やっぱり何と言っても、定番のチョコレート味が一番美味しいのだ。
「これが最後だからね。自分の選択には責任を持ちなさい。」
アイスクリームの交換をお願いすると、決まって母はそう言った。
湿った土と木の匂いに囲まれ、水の中に入った後の特有のけだるさを感じながら、母と一緒に食べたあのアイスクリーム。
高校生の頃に一度だけ同じメーカーの同じチョコレートアイスを食べてみたけれど、記憶の中にある味はしなかった。その時僕は、あのアイスクリームはもう二度と食べられないのだと悟った。
スウェーデンの淡く儚い夏空の下。そう強くはない日差しでも、母の肌はすぐに綺麗に日焼けをした。一日中太陽の下で粘っても全身真っ赤になって終わるだけだった僕は、そんな母を密かに羨ましく思ったものだ。当時学校で大流行していた、アメリカの学園ドラマの主人公みたいだったから。母の小麦色の肌は、あの頃よく着ていたコバルトブルーのワンピースにとても似合っていた。
あの頃母はよく僕のことを、「小さな可愛い天使」と呼んでいた。