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第一話
うだるような暑さの中、僕は日本に降り立った。
八歳の夏に一度だけこの国を訪れたことがある。両親に連れられて、どこか山間の町で一ヶ月ほど過ごした。川遊びをし、釣った魚でBBQをし、お祭りにも行った覚えがある。それはそれは楽しい夏だった。
それにしても、今のこの暑さは一体なのだろう。蜃気楼でも見えてくるんじゃないかというほどの気温と、じりじりと気力を奪い取っていく信じられない湿度。まるで国全体がサウナの中にあるようだ。爽やかな故郷の夏とは比べ物にならない。
きっちりとスーツを着た人々が足早にどこかへ向かっていく様子を、僕は信じられない思いで眺めていた。
「どうして日本に行きたいの?」
スウェーデンで、もう何度同じ質問を受けただろうか。付き合って三ヶ月になるオーサ、オーサの従兄弟のビョーン、大学の友人たち、アルバイト先のカフェの同僚……。
その度に僕は、いつも同じ言葉を繰り返した。
「母を、探しに行くんだ。」