7、 木立の広場 〜 小さな出会い 〜
朝の木漏れ日が、降り注ぎし清明の中、広場の片隅で、蠢く小さき影が二つ……
―――――――
カテーン隙間から柔らかな朝の日差しが、ベッドにこぼれ落ち、優しく照らす――
うーん、もう少しだけ……
微睡の中、微かに小鳥の囀りが聞こえてくる――
ッ!? えっ朝!! 急いで準備しないと――
慌ててベッドから、飛び降りて身支度を整える。他の孤児の子と一緒に、朝ご飯の準備し、院長さんやみんなと食事をする。 食べ終わったら、後片付けして、近くの林へ―― 今日は、院長さんの授業が無いから、お小遣い稼ぎの薬草採取をするぞー!
この世界には、地球と同じ見た目と名前の植物が、結構有る。 一般的な野菜やハーブ、お花に果物など…… まぁー、この世界特有の変わった植物も、沢山有る。薬草もその一つで、地球には無かったと思う―― わたしが、知らないだけなのかもしれないが……
話を戻すと、薬草は治癒草と言い“ ポーション“ の材料に使われている。この治癒草から、作られるポーションには、軽い体の怪我を治す効果が有る。
擦り傷や小さな切り傷、軽い打撲などに使えるから、子供やお年寄りも安いポーション一本ぐらいは、持ち歩く。その為、薬草の買取価格は、余り変動しないので、わたし達子供のいいお小遣い稼ぎになり、とても有り難い。
養護院の近くに、林が有りその林の中に在る “木立の広場“ と言う場所には、治癒草の群生地がある。その林に生息してるのは、小鳥や害のない小動物達で、魔物や危険な野生動物はいない為、わたしの様な子供でも、安全に採取が出来る。
出発する前に、採取に必要不可欠な道具の確認をする。大事な事だから必ず確認しないとね。
まず、両手を動かすのに邪魔にならない、背中に背負うタイプの植物性の編み籠、採取用の鋏に採取した薬草を束ねるのに使う麻紐、手が汚れるのと怪我防止用手袋、あと忘れてはならない“お昼ご飯“ 丸いパンに、チーズとベーコンを挟んだサンドウィッチとドライフルーツ少々――
地球の某有名ハンバーガーが、食べたいけど……無いから、仕方ない――いつか、自分で作れるように料理も頑張ろうかなぁ……
道具の確認も終わったから、薬草採取に出発〜
―――――――
林の入り口に到〜着。広場までは、少し歩くので周囲の確認と警戒をしながら進む。危険な動物や魔物は、居ないだろうけど念の為に、治癒草も道すがら時々生えてるから、採取しながら歩みを進める。
今日は、天気も良くて木々の間から、降り注ぐ木漏れ日がとても綺麗、時より吹くそよ風も心地よく気持ち良い〜 子供も大人も大好きなあの“不思議な森の精“の曲を思い出す―― お散歩や林、森の中を歩く時には、つい口ずさんじゃう〜
♪〜♪〜♪〜
お散歩気分で採取しながら、歩いていくと――
“木立の広場“ にたどり着いた。話に聞いていた通りに、“治癒草“の群生地が広がって、こんもりと茂っている。
こんなに生えてるなら、少し多く採取しても大丈夫だね。お昼ご飯を食べたら、早速治癒草の採取に取り掛かろう。
天気が良いお外で、食べるのはやっぱり美味しいね〜 ピクニック日和の天気で良かった〜
食後の後は、水分補給して一休み〜 飲み水は、生活魔法の“ヴァッサー“を、木製のコップに出して飲む。道中も魔法の練習がてらに、水を出して飲んでいた。飲み水に、困らないのはとても便利。
休憩もしたし、治癒草採取を始めるよ。葉を傷つけない様に、そっと手を添えて…… 根本から数センチ上の所から、鋏で切って採取していく。
一つの株から、取りすぎない様に採取して、次の株に取り掛かる。十本を麻紐で纏めて結び一束に、これの作業を繰り返して幾つか束を作る。
葉が無くなれば、又採取しての繰り返し、地道にこの作業を続ける。
治癒草一束で、50リラで買い取ってくれる。
リラは、この世界の貨幣単位。もう一つ上の単位は、リブラ。この世界のお金は、一番上から白金貨、白銀貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、青銅貨、鉄硬貨の十種類の硬貨で、
白金貨1枚 10億リブラ
白銀貨1枚 1億リブラ、10枚で白金貨1枚分
大金貨1枚 1,000万リブラ、10枚で白銀貨1枚分
金貨1枚 100万リブラ、10枚で大金貨1枚分
大銀貨1枚 10万リブラ、10枚で金貨1枚分
銀貨1枚 1万リラ、10枚で大銀貨1枚分
大銅貨1枚 1,000リラ、10枚で銀貨1枚分
銅貨1枚 100リラ、10枚で大銅貨1枚分
青銅貨1枚 10リラ、10枚で銅貨1枚分
鉄硬貨1枚 1リラ、10枚で青銅貨1枚分
になる。
50リラは、青銅貨5枚治癒草二束で、100リラ銅貨1枚 クロワッサンの様なパンが10個買える。お祭りも近いし、頑張って稼ぐぞ〜。
そうして、暫く黙々と採取をしていると目の端に、見慣れない植物を見つけた。治癒草の群生地である広場の端っこに、ふわふわとした毛に覆われた細長い葉が2枚、地面からぴょこんと生えている。その隣にやはり、ふわもことした毛に覆われたまるで、熊の前足の様な葉が2枚地面から生えている。
なんだろう? 見た目は、多肉植物の様に厚みのある葉っぱだけど、表面はとてもふわふわした毛に覆われてる―― あれ? よく見たらなんか少し、萎れてる? うーん―― 水を与えれば、元気になるかなぁ。
わたしは、その謎の植物二つに近づいて、生活魔法の“ヴァッサー“を如雨露で水を掛けるイメージをして、そっと掛けた。
水を与えられた二つの植物は、さっきまで萎れていた葉が生き生きとし、ひょこひょこ動き始めた。
…… ? うご、動きっ!!
「 えっ、まって! まって! 動く植物ってまさか! 食虫植物みたいなの? 異世界の食虫植物って人食べたりしないよね!? 」
そんな事言っている間に、二つの植物の動きが激しくなり、葉の根元の地面がひび割れ、ズボッと植物が引っこ抜け―― いや、地面から飛び出した!!
「 ヒッ!! 」
わたしは、咄嗟に後ろに飛び退いた。目の前に、飛び出た植物を見る。
一つ? 1匹? は、まるでウサギの様な頭に体は、ドレスの様にひらひらした葉が折り重なっている。小さな手? 前足?が、ちょこんと有り根っこなのか? 後ろ足の様なので、立っている。とてもふわふわしてそうな毛に覆われている。ドレスの様な葉の方は、艶々している。頭から上半身は、萌黄色下にゆくにつれて、段々と萌葱色へとグラデーションになっている。眼は、鮮やかな常磐色。
もう1匹は、見た目はもう完全に縫いぐるみの熊である。モコモコした、テディベアその物だ。色は、全身鮮やかな萌木色。眼は、綺麗な蒲公英色。
かわいい―― 見た目は、物凄く可愛い―― だがしかし、この植物達は魔物なのか? わたしには、判らない。治癒草は、かなり採取出来たし、逃げ帰る? 何かで気を引いて、その間にダッシュで帰れる! でも、何で気を引けば―― あっ! そうだ!本で読んだ水魔法に、確かシャボン玉を出すのが有った。一か八かその魔法を使おう。
「 ザイフェンブラーゼ 」
魔法を唱えると、目の前一帯に虹色に煌めくシャボン玉が、ふよふよと幾つも現れた。狙い通りに、植物達はシャボン玉に気を取られ始めた。わたしは、その隙を逃さずに、猛ダッシュで林を抜けて、養護院に逃げ帰った。
「 ハァー、ハァー、ここまで帰って来れば―― 」
「 あら、マリンどうしたの。そんなに息を切らして… 」
庭のお手入れをしていたのだろう? 院長さんが、声を掛けて来た。わたしは、息を整えてから林で、見た植物達の事を聞こうとしたが――
院長さんは、わたしの後ろを見て「 まぁまぁ 」と言い――
「 マリン、貴女良くあの子達と出逢いましたね。」
と、聞いて来た。わたしは、何の事か最初分からずに後ろを見た。少し離れた所にさっきの植物達が、ひょこひょこ歩いて来る。「 ひぇっ 」と、院長さんの後ろに隠れて、聞いた。
「 院長さんっ! アレは、何ですか!! 」
「 そんなに、怯えなくても大丈夫よ。あの子達は、魔物じゃなくて妖精だから害は無いわ。」
「 妖精? でも、妖精の中にも害が有るのも居ますよね?? 」
「 その様な妖精も居るわ。この子達は、人に余り害を与えないから、心配は無いのよ。妖精の中でも、人前に出て来ない珍しい子達なの。」
院長さんが、大丈夫と言うから恐る恐る院長さんの隣に出る。植物達は、ひょこひょことわたしの前に来て――
「 ピッピッピッ 」
「 クマ、クママ 」
と鳴きながら、わたしの周りをうろちょろしている。これは、どうゆう状態なのだろう? 助けを求める様に院長さんを見ると――
「 まぁ〜♪ こんなに、妖精に懐かれるなんてとても珍しい事よ。絆を結ぶ事も出来るじゃないかしら? 」
どうやら、水を与えたから、懐かれたらしい?絆を結ぶとは、なんだろう。
「 院長さん、絆を結ぶって何ですか? 」
「 絆を結ぶとは、一種の契約の事を言うの。妖精や精霊と契約すると、その契約妖精や精霊の力を借りる事が出来る様になるの。一分の魔物とも、絆を結ぶ事が出来るのよ。」
なるほど妖精―― 改めて見ると、2匹共とてもふわふわモコモコで、可愛い。よく出来た人形や縫いぐるみの様な見た目で、ファンシーだ。
「 絆を結ぶって、どうやればいいのですか? 」
「 難しい事は無いわ。魔力を少し与えて、自身の名を名乗り、名を与えてあげる。向こうが気に入れば、契約成立よ。」
「 魔力を与える? 」
「 掌に、魔力を集めそれを相手に、軽く注ぐ様に与えるの。」
「 わかりました。上手くいくか?分からないけど、やってみます。」
院長さんに、教えてもらった様に掌に魔力を集め、妖精達にそっと注ぐ様に――
「 わたしは、白波 海音 」
まずは、ウサギみたいな妖精に、
「 君は、“レフティア“ 」
そして、熊の縫いぐるみの様な妖精に、
「 君は、“ルフス“ 」
と、名付けた。2匹共嫌がる様子は無く、「 ピッピッピッ 」、「 クママ、クマ 」と何となく喜んでる様に見える? 成功したの?
「 2匹共名を気に入ったみたいね。嫌がる様子も無く、契約も成立してるわ。」
「 そうなんですか? 初めてだから良く分からないのですが…… 」
「 問題無いわ。成功よ。可愛い家族が、増えたわね。」
院長さんと、話している間に2匹はわたしの足に抱きついていた。とてもふわふわモコモコした毛が、気になり手で触ると、物凄く手触りがいい!!
癖になりそう〜。本当に、縫いぐるみの様な触り心地〜 抱っこしたら、気持ち良さそう。
「 その妖精は、ラビラウネとベアラウンと言う植物型妖精で、アルラウネとアルラウンの亜種になるわ。夜は、地面や植木鉢に埋まり寝るわ。ベアラウンには、植木鉢を見つけてあげた方がいいわね。元々、ベアラウンはお気に入りの鉢植えをいつも、持っているのよ。この子は、無くしたか、壊れたのか、判らないけれど植木鉢を持ってないわね。」
「 植木鉢…… 養護院に有る。使っていない植木鉢をどれか頂いてもいいですか? この子ルフスの気に入る物が、あればですけど…… 」
「 ふふふ、大丈夫よ。一つぐらい問題無いわ。早速この子が、気に入る植木鉢があるか? 見てみましょう。」
「 ありがとうございます。」
院長さんにお礼を言い、植木鉢や道具などが仕舞ってある物置きに、院長さんと一緒に行く。
物置きには、農作業用の道具などがたくさんある。その中で、今は使っていない植木鉢を幾つか探し出し、ルフスの前に並べる。
気に入る物が有ればいいけど……
ルフスは、並べられた植木鉢を匂いを嗅いだり、触ったりと一つずつ確かめているみたいだ。何個目かの時に、ルフスは「 クマ! 」と鳴くと一つの植木鉢を抱えて、戻って来た。その植木鉢は、全体が白く縁に青い小花が描かれた物。
「 それが、気に入ったの? 」
「 クママ〜♪ 」
とても嬉しそうに、植木鉢を持ってクルクルと回り始めた。かなりお気に召したらしい。
「 気に入る物があって、良かったね。」
「 後は、その植木鉢に土や肥料を、混ぜ入れてあげればいいわ。」
「 お花や野菜を育てるのと、大体一緒という事ですか? 」
「 そうね。植物型妖精は、お水を与える事と日光浴での光合成で、育つから余り餌代が掛からないのよ。」
殆ど植物と変わらない生態なんだね。お世話は、主に水あげる事と日当たりの良い場所に、出してあげる事になるね。
「 これから、よろしくね。」
「 ピッピッ 」
「 クママ 」
異世界に来て半年余り経つけど、可愛い友達兼家族が増えました。
その後は、植木鉢に土や肥料を混ぜた物を、入れてあげたら小躍りするぐらい喜んだ。因みに、レフティアにも植木鉢を用意してあげたら、こちらもとても嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回った。レフティアの植木鉢は、秘色色にライラックの花模様があしらわれた物。
この子達を一旦院長さんに預かってもらい。採取した治癒草を、買い取って貰いに近くの薬屋へ――
採取した治癒草は、全部で40束、買い取り合計金額が2,000リラ大銅貨2枚も稼げた。
お祭りの日には、屋台が結構出るらしく美味しい物があればいいなぁ〜。
今日は、治癒草を採取しに行っただけなのに、いろいろあったなぁ。レフティアとルフスは、最初魔物と思って全力で逃げ帰ったし、院長さんが妖精だと教えてくれて一安心。その後2匹と契約を結び友達に?なりと予想外な事でも、嬉しかったなぁ。
あの子達は、アルラウネとアルラウンの亜種って言ってたけど、アルラウネってファンタジーのゲームや漫画などに色々出て来るあの植物の事だよね?
ゲームだと女性型植物の魔物ってイメージだけど、レフティアとルフスみたいに縫いぐるみの様な可愛い子もいるんだね。この世界には―― 前に院長さんと一緒に行った図書館で読んだ本は、魔物図鑑だったけど妖精や精霊について、詳しく載ってる本もあるのかなぁ。また、今度行ってみよう。
ベッドに入る前に、窓のそばに置いた鉢植えを見る。鉢植えから、お耳や前足がピョコンと出ている。2匹共植木鉢が気に入り、グッスリと眠っている。わたしも、そろそろ寝よう〜。
「 おやすみなさい。 」
鉢植えの中の耳や前足が、少し揺れたおやすみの挨拶なのかなぁ。
わたしもベッドに入り眠りについた。
ラビラウネ:まるで、ウサギの姿をしたアルラウネ。
植物なのにとってもふわふわした毛皮を 纏っている 触り心地は抜群。
地上でも動き回るが、耳だけ出して地中 にいる事が多い。ちなみにメス。
ベアラウン:まるで、熊のぬいぐるみの様な姿をして いる。アルラウンの植物妖精。
何処で手に入れたのか、お気に入りの植 木鉢を持って、歩き回る。疲れた時や夜 寝る時には、植木鉢に入る。
ちなみにオス。
アルシュセレストの貨幣単位 硬貨種類
白金貨1枚 10億リブラで、100億円
白銀貨1枚 1億リブラで、10億円
大金貨1枚 1,000万リブラで、1億円
金貨1枚 100万リブラで、1,000万円
大銀貨1枚 10万リブラで、100万円
銀貨1枚 1万リラで、10万円
大銅貨1枚 1,000リラで、10,000円
銅貨1枚 100リラで、1,000円
青銅貨1枚 10リラで、100円
鉄硬貨1枚 1リラで、10円