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3. スーパーリアルファンタジーケモミミ美少女受肉


 カッッッッッッッッッッ!!!(※開眼のオノマトペ)


「納期だぁああああああッッッッ!!!!!!」


 玉城はいつものように目覚めた。


 仰向けでしばらく固まって数秒。脳と身体の暖気運転を終えると、人肌で温められたおふとんの強力な魔力を断ち切るためにフンヌ!と気合を入れて起き上がる。まったく、お布団と月曜日は社会人の敵であることは分かっているのに、倒せないのがもどかしい限りだ。


「くぁ~、……はれ?ここは……どこですかぁ?」


 知らない天井だ、と呟こうとして、自分が見ていた天井はベッドに設えられた豪奢な天蓋であることに気が付いてさらに困惑を深くした。ふんだんに上質の布を拵えたお姫さまがお眠りになるようなふりふりひらひらなベッド。華美にならない程度に薔薇の細工の入った尖頭窓。ゴシック様式に違和感のない瀟洒な装飾の家具。窓からはゴシック建築の特徴と言える小尖塔やフライングバットレスが見える。


 玉城はいつの間にか自分が知らないところに寝かされていたことを認識した。


 尚、室内は無人ではなく、ベッドの前には1人のメイドがいて――


「……」


 シュバババン!

 ザッザ、バババッ!ぐぃーんぐるぐる、ぐぃーんぐるぐる、バッ!バッ!バッ!

 ザッザ、バババッ!ぐぃーんぐるぐる、ぐぃーんぐるぐる、バッ!バッ!ババンッ!


 踊っていた。


 ババンッ、くい!くい!くるくるぐるぐる、くい!くい!バッ!ババンッ!

 ババンッ、くい!くい!くるくるぐるぐる、くい!くい!バッ!バババッ!


 キレッキレである。


 ンババンバンバ!くいくい!ぐぃーん、ぐるぐるぐる、バッ!

 ンババンバンバ!くいくい!ぐぃーん、ぐるぐるぐる、ババンッ!


 ずっと目が合っている。


 ぐぃーん、くいくい!ぐぃーんくいくい!

 くるくるくるくる、シャッキーン!!!


「「…………」」


 どうやら終わったようだ。


 玉城は、彼女が八墓村よろしく頭に葉付きのニンジンを巻きつけ、両手にサイリウムのように長ネギを持ってキレッキレなヲタ芸を披露していたことや、どう見てもファンタジー定番のエルフとしか思えないほどの長い耳が見えていることや、エプロンドレスの上からでも分かる姿態が控えめに言ってダイナミックドスケベなことなどをまとめて明後日にぶん投げて、満面の笑みであいさつすることにした。


「おはようございます初めましてこんにちは!素敵なダンスですね!!」


 玉城がパチパチと拍手をして目を細めると、高身長白髪ミドルショートの巨乳エルフはスっと身体の前にネギを揃えて畏まった。


「おはようございます。大変お元気そうな目覚めの『カッッッッッッッッッッ!!!』で安心いたしました」

「それ聞こえちゃダメなやつですよ!!」


 無表情を保ったまま淡々とボケてくるとはやるな。玉城は口をにんまりさせた。

 すると部屋の隅の天井板がバコンと音を立てて開くと、そこから顔の下半分を覆う黒マスクをしたメイドの服の少女がぴょこんと逆さまに顔を出した。


「今しがた『カッッッッッッッッッッ!!!』という音が聞こえたのですが」

「ここのメイドさんはみんな能力者かナニかですか!?」

「あ、やはりお目覚めになられたのですね。旦那様に知らせてまいります。失礼」


 天井のメイドは至極まっとうなツッコミをする玉城を認めるとすぐに天井裏に引っ込んでいった。内装や様式はバリバリの西洋風なのに忍者屋敷に潜んでいそうな人である。


「あ、そういえばニンジンのおねーさん。さっきの踊りは何だったんですか?」

「ああ、それはあちらに」

「うにゅ?」


 八墓ニンジンメイドに示された先、ベッドの前には高さ40cmくらい幅120cmくらいの台があった。それには白い布が敷かれ木製の皿や高足食器が並べてあり、そこにタマネギやジャガイモ、長ネギ、数種類のカブ、ニンニク、ダイコンなどが立体に組まれて置かれていた。両サイドにはニンジンを刺した燭台が立てられている。そして真ん中には、造り物と思しき切断された腕が天に向かって生えていて、がっつりと大きなタマネギを握りしめていた。


「ということです」

「何がですか!?」


 全然分からない。

 その意を眉根に込めて訴えてやると、メイドは片眉をわずかに上げて、ほとんど無表情ながら、おや?という顔をした。


「なんと、大地の儀式をご存じでない?」

「うーん、ご存じでありませんですね。少なくともボクの生まれ育った地域にはそれに該当する儀式は存在していません、と思います。ボクが知らないだけかもしれませんが」

「なるほど。異国の地で様式が異なることはよくあることですし、奉納の宛先は人によって千差万別なるも世の理です。大地の儀式とは大地の精霊に祈りを捧げるエルフの秘儀でございます。今回は大地の力をその身に溜めた野菜を触媒にしたものをご用意しました。具体的な方法は、まずお尻に御神酒で清めたネギを3本ねじ込み――」

「いやいやいや!3本は無理ですよ!せめて1本でしょう!?」


 メイドは玉城の若干ずれている抗議を聞くと、両手ネギを台に置いて代わりに直径10cmはありそうな立派なダイコンを手に取った。


「1本の場合はこちらになりますが?」

「肛門の要求レベルが高い!!っていうかボクのお尻大丈夫ですか!?」


 玉城は思わず両手でお尻を守るように庇う。もしかしたら寝ている間に貫通式が敢行された可能性にぞわりと尻尾の毛を逆波立たせた。


「まあ、意外に入るものです。らめぇ!と鳴いてからが本番です」

「何の本番です!?」

「はいはい。そんなにかわいらしく喚かないでください。さぁ、こちらの太くて硬くて長い立派なモノをわたくしのケツに」

「ねーさんに挿れるんですかッ!?」


 どうやら玉城の尻は大丈夫だったようだ。


「よし。冗談はさておき」

「何がよしなんですか。目が本気でしたよ」

「御屋形様がいらっしゃる前に御髪を整えておきましょう。どうぞこちらへ」

「え、はーい。分かりまし……あの、なんでダイコン持ったままなんですか?この上なく身の危険を感じるんですけど?まずはダイコンを手放しましょう?そうしましょう?」

「いえいえ、くふふ、お気になさらずに」

「いやいやいや、ダイコン構えたまま目にもとまらぬ速さでボクの後ろに回り込まないでください!さっきの天井のメイドさんといい、忍者ですかあなたたちは!?」


 ベッドの周りでくるくると人外機動たちの背中を取らせない遊びがはじまったが、程なくしてエルフメイドがため息を吐いて諦めた。


「……仕方ありません」

「ふぅ、とりあえず安心」

「ネギにします」

「安心できない!?」


 メイドは一通り遊んで満足したのか、表情をほとんど動かさないながらビクビクそわそわする玉城に満足そうに頷き、ダイコンを置いて櫛を手に取った。玉城はまだ若干警戒していたが、大人しくポンポンと示された化粧台の椅子にぴょこんと飛び座る。そして正面に座った美少女を何気なく見やり、思わず声を上げた。


「わー、すごい。かわいい♪」

「え?……もしかしてナルシスト様でいらっしゃる?」

「へ?」


 玉城の目の前にあるのは鏡だった。


「え、これ、ボクですか!?!?!?」

「うわー、それ他の人の前でやらない方がいいですよ」

「あの、一応言っときますが、わざとやっているわけではなくてですね。ガチで自分の容姿がまったくの別人に変わっちゃっているんですよ。はー、こりゃたまげた……」


 鏡に映ったのは純粋黒髪日本人の冴えない成人男性おっさんからかけ離れた超絶美少女だった。


 年のころは10歳に届かない華奢で可憐な女の子。肌は雪のように白く首は折れてしまいそうなほどに細い。癖の強い豊かな黒髪は先端に行くほどに銀色に輝きを放ち、頭の上にはピンとそそり立つ黒銀のケモノ耳。可愛らしい顔の中でひと際目立つ大きな銀色の瞳は野生を宿して爛々と輝いていた。ミニスカートのように短い緋袴の後ろからは2本のドでかいモフモフ銀狐尻尾が生えている。ファンタジー世界に転生したイケ好かない主人公たちならば最初に奴隷として飼うことになりそうな獣人美少女だ。


 ちなみに、唐突に気になって股間のあたりをさわさわしてみると、玉城の玉はちゃんとついていた。見た目は女の子で中身は列記とした玉あり。つまり男の娘になってしまったらしい。


 もしかしてまた夢の中だろうか?


 玉城は思った。夢の中で自分の外見を客観的に見ることはかなり珍しいのだが、ここまで外見が異なるならば夢くらいでしか説明が付かない。そういえばさっきの夢でもケモ耳と尻尾が付いていたので、今宵の自分の頭の中ではこのスタイルの受肉が絶賛大流行中なのかもしれない。


 しかし、夢にしては身体の感覚はちゃんとある。

 意識もはっきりしていて思考はかなりクリアである。

 身体は軽いが、さっきの夢のような夢特有のふわふわした感覚もない。


 玉城が夢うつつの合間にうんうん唸っている間に、メイドは寝癖の付いた髪の毛を丁寧に梳かしてくれた。玉城は結論も出ないので、気持ちよくて目を細めていると、メイドは玉城の耳をみょんみょん伸ばして弄び始める。鏡の中の美女と美少女の戯れは素晴らしい絵面だったが、なにぶん敏感で今までついていなかったケモミミなので触られるとこそばゆいようなぞわぞわした不快感のようなものがこみ上げて来た。


 玉城がくすぐったいのでやめてほしいと抗議の意を示そうとすると、部屋の両開きのドアがバタンッと音を立てて開け放たれた。


 そこには両手を目いっぱい広げた幼女が颯爽と立っており――


「キツネしゃんッッッッッッ!!!」


 目標を補足した後はフルスロットル。

 幼女は感性と慣性に従って玉城に向かって数メートルを文字通り飛んできた。


「幼女ミサイル!?わわわッ!危ないですよ!!ふぎゃッフン!」


 玉城は突撃幼女の勢いを殺しきれず、幼女と一緒に床にごろんと転がって2のダメージを受けた。幼女はえへへぇ♪と破願して玉城の平べったい胸に頭をぐりぐり押し付ける。その哺乳動物の本能的な行動に、玉城も口元を緩めよしよしとぷにぷに幼女の頭を撫でるのだった。


 が、不意に幼女の見覚えのある銀髪4連ミニドリルにハッとする。


「あれっ!?さっきの夢の続きでいらっしゃる!!?」


 玉城が継続している現実に気が付くと、幼女の後に続いて2人の男が部屋に入って来た。



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