第二話 紹介状
旧城下町にあるという老人の工房へと向かう道すがら、サフィたちは互いに自己紹介をした。
老人の名前はシルバー・スミスといい、その名の示す通り彼の家は代々鍛冶師の家系だった。王国時代には正騎士の剣を鍛えたこともあるという。だからさぞかし職人的な空間が用意されているのであろうと想像をしていたのだが、シルバーの工房は意外なほど綺麗にされていた。
棚に飾られているのは剣よりも包丁やハサミなどの家庭用のものが多く見られ、言われなければここが武具を扱う店とは誰も思わないだろう。無骨な手に似合わず綺麗な字を書くシルバーに感心しながら、サフィは勧められた椅子に座った。
「こういう店は珍しいかね?」
「いえ、そういうわけでは。故郷の村にも鍛冶屋はありましたから。ただ、ちょっと想像していたのと違ったので。こういうと失礼ですけど、随分と綺麗にされているのですね?」
サフィの言葉にシルバーはおかしそうに肩を揺らした。
「これも時代の変化というやつさ。古臭い職人の工房だと誰も近寄ろうとはせんからな。ただでさえ戦が減り、武具の需要が減った今ではこうして一般人向けの商品も扱わんととても生活出来んのでね。そうするとどうしても見栄えというものは大切になる。もっともそんなことに気付いたのはつい最近のことだが」
「大変なんですね」その苦労は一割も理解出来そうにはなかったが、サフィは素直な感想を口にした。
それを聞いたシルバーは気を悪くする素振りも見せず、「仕方がないさ」と返事をした。
「良い時もあれば悪い時もある。儂だって昔は戦があればそのたびに稼がせてもらったんだから。ただ……」
「ただ?」
「そういう時代の流れに乗り遅れた者もいる。あんたに紹介するのもそういう手合いだが、腕だけは確かだ。その道の人間であれば誰でも名前を知っているほどにね」
「そんなにすごい方を紹介して下さるのですか?」
「おそらくそのくらいじゃないとそいつを修理することは出来んだろうしな」
「どういうことですか?」
「時計については儂も専門じゃないが、その装飾を見る限りそいつは相当の品のようだ。もしかしたらあんたの母親は王国時代の貴族様だったりするんじゃないのかい?」
「いえ。母は賢い人ではありましたが、普通の女性でしたから」
「そうか。まあ、いずれにしてもその時計はあまり人の目に晒さない方がいいだろう。悪人っていうのはどこにでもいるものだからな」
「そうですね。気を付けます」サフィはそう答えると笑顔を浮かべる。「でも、大丈夫ですよ。いざとなったら自分の身を守るくらいは出来ますから」
「ほう。大した自信だが、そう言うだけの根拠があるのかい?」
「実は私、魔法使いなんです」
「何、魔法使い? そりゃあ大したものだ」
「そうおっしゃるわりにあまり驚いているように見えませんけど?」
「いやいや十分驚いとるよ。ちなみにどんな魔法が使えるんだい?」
「そうですね。色々ありますけど……。あっ、そうだ。シルバーさん、この店に傷んだ剣や鎧はありますか?」
「ん? ああ、それならちょうどそこに……」シルバーはそう言うと、近くにあった棚の下から錆だらけの剣を取り出した。「これでいいのかい?」
「はい」
「こんなものをどうするんだ?」
サフィは怪訝そうにしているシルバーから剣を受け取ると、そこにふぅっと息を吹きかけた。すると見る見る錆が消えて行き、新品同様の輝きを取り戻した。
「お礼の代わりと言っては何ですけど錆を落としておきました」
「……こりゃあ、すごい」刃に映った自分の顔を見つめてシルバーが言う。「魔法っていうのは本当にすごいな。戦いの道具だとばかり思っていたが、こんな技術があれば鍛冶師の仕事も減るわけだ」
「あの、もしかして余計なお世話でしたか?」
「いいや、そんなことはない。助かったよ」それから数分後、シルバーが紹介状の入った封筒を差し出して来た。「さあ、出来たぞ。これを首都にいるプレデューソという男に渡すといい。儂の紹介といえば話を聞いてくれるはずだ」
「何から何までありがとうございます」封筒を大切に受け取ると、サフィは深々と頭を下げた。
「構わんさ。ただ、あんたを見ていると何故か力になってやりたいという気にさせられてね。もしかして、それも魔法の一種なのかい?」
「そんな魔法があったら私もびっくりですけどね」
冗談っぽく言ったシルバーに、サフィは誰もが見惚れるような笑顔で答えた。