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救われなかった世界のために  作者: 無徒 静
第一章
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プロローグ2 とある港町

 すでに日付も変わってしまった夜遅く。

 ようやく家の前までたどり着いた男はほっと息を吐いた。


 帰路の途中で余計なトラブルさえ巻き込まれていなければ、今頃はもうベッドの中にいたはずだ。まったくひどい目に遭ったものだと、男が溜息を吐きつつ頭と肩に被った雪を払い落としていると、家の中からバタバタと音が聞こえて来た。


「ステイン!?」勢いよく扉が開き、黒髪の女の子が顔を出す。「よかった。帰りが遅いから心配してたんだよ?」


「すまない。……それよりアイナ、一人の時は鍵を開けるなといつも言っていただろう?」


 いくら小さな町とはいえ、物騒であることに変わりはない。アイナには家の戸締りについて、いつも厳しく言ってあったのだが……、


「ごめんなさい。でも、大丈夫だよ」


「いや、大丈夫って。お前……」


 何を根拠に言っているのか。ステインと呼ばれた男が呆れ顔を浮かべていると、アイナが胸を張って答える。


「だって、足音で分かるもん。それより早く中に入って! 暖炉に火を付けてあるから」


「ああ」


 (うなが)されるまま家の中に入ったステインは、まっすぐに暖炉のある居間へと向かった。手に持っていた剣を壁に立て掛け、鎧を脱ぐ。それからしばらく暖炉の前で休んでいるとアイナが温かいスープを持ってやって来た。


 暖炉といい、スープといい、どうやらアイナは家主が戻って来るまで、律儀にずっと起きていたらしい。ステインが申し訳なく思っていると、「それで?」とアイナが口を開いた。


「大丈夫だった? 怪我とかは?」


「問題ない。アイナは心配のし過ぎだ」


「うん……。それは分かってるんだけど……」


 しょんぼりとするアイナの頭をステインがぽんと叩く。


「大丈夫だ。そう簡単に俺はやられん。それはお前が一番よく知っているはずだ」


「そうだよね」アイナはうんうんと頷くと、その視線を壁へと向ける。「ところでさ……。あれ、いい加減、別のに変えたら? 剣は仕方ないとしても、鎧の方はどうにかならない? あちこち傷だらけだし。まるで骨董品じゃない。あんまりみっともない恰好をしているとみんなに笑われるよ?」


「別に問題ない」


「問題あるよ。ステインってば、髪や髭だって伸ばしっぱなしじゃない」


「髭はたまに剃っているぞ?」


「本当にたまにでしょ?」アイナはそう言うと大きく溜息を吐く。「まったく、ステインがそんなんだから私まで苦労するのよ」


「お前が苦労? どうして?」


「どうしてって、それは……」


「それは?」


 ステインが繰り返すように尋ねると、途端にアイナの顔が赤くなる。


「べ、別に何でもない! 私、もう寝るから。ステインは食器片づけておいてね。それから上着もちゃんと干しておくこと」アイナは早口でそう捲し立てると慌ただしく居間から出て行った。


「……何なんだ、一体?」


 最近、アイナは時々訳のわからないことで怒ることがある。

 年頃の娘というのはこういうものなのだろうか?


 アイナと一緒に暮らすようになって、もう五年の月日が経つ。

 初めて会ったときは、ほんの小さな子供だったのに。


「あっという間だったな」


 温かいスープを口に運びながら、ステインは感慨深げ呟いた。

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