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序章 ある異世界の辺境より愛をこめて

異世界マッポーの世!

そこはオーク達の集落だった。

谷に流れる川のそばに、かつて偉大だったオークロードが築いた村があった。

川沿いに下った所にはとある大都市とその衛星都市を繋ぐ立派な街道があり、オークたちはそこでの治安維持...もとい、略奪行為で生計を立てていた。


その日もそのオークたちはオークの街道を勝手に通る悪い人間どもをぶん殴り、戦利品を得て晴天の下家路についていた。


「ソレデ、オレ、アノオトコブンナグル。ソノオトコツブレル」

「ギャハハ、マルデトマトジュース!」

「?トマトジュース、ナニ?」

「コレ、トマトジュース。」


そのオークが取り出したのはファンタジーな世界には似合わない、中国語でトマトと書かれた缶だった。

金髪の白人女性がトマトを持っているデザインのそれは恐らくはこの異世界からははるか遠い、どこかから運ばれてきたものに違いなかった。


「ナニコレ?トトノッタツラシテルナ。」

「コレ、ココヲブンナグル。スルトスッパイクイモノデテクル。」


そういってそのオークはかつての戦利品である古いナイフをその女性の顔面部分に刺した。

円筒状の缶を側面から分厚いナイフで突くものだから缶はひしゃげてトマトが地面に飛び散り、放射状に広がった。

そこまで高い品質ではなくても現代の技術を用いて作られた鉄を使った缶を突いたものだからそのオークのナイフは刃毀れしたが、どうやら彼はあまり気にしていないようだった。


「ナルホド、ソレデアノオトコツブレルノトオナジ。」

「ソウ、クッテミロ。」


勧められるがままに缶を持ち上げ断面から潰れたトマトをすすると、彼は顔を見開いた。


「ウマイ!アノオンナノナイゾウヨリウマイ!」

「ハハ、ダロ?」


彼らはそのトマトに関して雑談を続けていた。その様子が、ある冒険者達の某中国製クアッドコプターを改造して作った偵察ドローンに空高くから見られているとも知らずに。





その夜、彼らが寝静まったころ村の中心に爆音が響き渡った。

その時点で覚醒することなく永遠の眠りに就いたものもいくつかいたが、多くは何事かと飛び起きて各々の武器を持って村の中心に集まった。それが彼らの運命を左右した。


コロンと彼らの中心に何かが落ちてきた。


「?ナンダ?」


あるオークはそれを拾い上げた。

そこに描かれていた言葉は~彼自身は読めなかったが~ただ一つ、「地球より愛をこめて」

次の瞬間それは爆発し、彼は即死。周りにいたオークたちも重傷を負った。

「ギャアアアアアアアア!!!!」

「クソ!ナニゴトダ!コロセコロセ!!!」




「グラウンドリーパー1-1、試射命中、効力射を開始する。」

「ターミネーター1-1、了解。作戦通り前進する。」


所変わって集落から十キロ程度離れた所にその冒険者たちが、中国軍やロシア軍崩れ、そして西側諸国の退役軍人の中でもかなり粗暴なものから構成された無法者の彼らが、現代兵器に精通した彼らが展開していた。

ソ連時代の装備に中国製の民間用トランシーバーという、まるで十年前のウクライナ侵攻時のロシア軍のような装備の彼らだったが、それでもオークたち相手にはオーバーテクノロジーも良い所だった。


M60パットン戦車に付随するBMP-2歩兵戦闘車に分乗した彼らはすぐそこにいる目標との戦闘に備えて、またその後得るであろう戦利品に思いを馳せて中東のどこかで作られたであろうAKMに着剣しながら舌なめずりしていた。


「ターミネーター1-1、前進開始、前進、開始。」






「クソ!ドコカラキテヤガル!」

「コッチダ!森ノナカナラウタレナイ!」

「オォ!サスガトマトジュースヤロウ!」


昼間はトマト缶について話していた彼らは幸運にもまだ生きていたようだった。迫撃砲弾の破片が分厚い皮膚にいくつか刺さってはいたが、一応生きていた。


「コノナカニカクレテレンチュウヲマツゾ...」


彼らは聡明にも、そして愚かにも街道の方から敵が来ると予想して川沿いの獣道のそばに展開することを選んだようだった。


彼らは木の陰や茂みに身を隠した。そのまま隠れていればよかったものを、愚かにも響き始めたエンジン音を聞いて彼らのうちの一人は街道に飛び出した。


「グォァァアアアアアアアア!!!」


その若いオークロードは、次の集落の長になると噂されていた、妻が数人いるほど位の高いオークだった。

彼は勇ましく鬨の声を上げて敵を威嚇した。オークたちの名誉のために、一応このような敵に自らの位置を晒す行為はオークたちの間でも愚かな行為だと考えられていることを記しておく。

そのオークは、とにかくプライドが高かったのだ。

だが、位の高さも、勲章の数も、プライドの高さも通じないのがBMP-2に搭載されていた30mm機関砲の銃弾だった。


ドガガガガガガと、破裂音というには爆音に近い銃声を発して銃弾をばらまいたそのBMP-2はすべての銃弾を正確に命中させ、若いオークロードだったものを物言わぬミンチにした。

彼は悲鳴を上げる事さえできなかったし、痛みを感じることもなかった。30mmはそれほどまでに強力なのである。


だが、オークたちは状況を理解することができなかった。当然である。これは彼らが経験したこともない事態なのだから。


「...エ?」

「ワカガシラ?ナンデ?」

「...イミワカンネェ」


愚かにも彼らの中の数人は声を上げてしまった。それが彼らの運命を決定した。




車列の4両のBMP-2のすべてが砲塔を右側に向け、まだ見ぬオークを掃討するために撃ち始めた。


「ア...」

「エ?」

「ゴフッ?」


彼らは悲鳴を上げなかった。痛みも感じなかった。





集落はすでにほとんど荒廃していた。だが、倉庫と奴隷が詰め込まれた建物だけは破壊されていなかったのでオークたちはそこに集まっていた。

それを偵察ドローンからの情報で把握していたパットン戦車以下冒険者達はキャタピラでオークの死体を踏みつぶしながら集落の中心部で停車すると、BMP-2の後部から展開し始めた。

彼らは訓練された動きで展開し、各々の銃口を四方八方に向け警戒していた。


「...クリア、目標アルファの制圧に移行する。」


BMP-2を先頭にして2両と2両がそれぞれ倉庫と奴隷の建物ににじりより、その後ろに歩兵がくっついていた。その時だった。


「...イマダ!!」

「「「「「グラアアアアアアアアア!!!!!」」」」」

「「「「「グラアアアアアアアアア!!!!!」」」」」

「「「「「グラアアアアアアアアア!!!!!」」」」」

「「「「「グラアアアアアアアアア!!!!!」」」」」

「「「「「グラアアアアアアアアア!!!!!」」」」」


集落の周りの森から突然現れたオークたちは、ただ彼らの故郷を破壊した冒険者達を狙って突撃した。

生き残っていた20体程度をすべて動員したこの攻撃の成功を彼らは疑っていなかった。この方法でかつてオーガが攻めてきた時も撃退したのだ。失敗するわけがない。


だが、今度の侵略者は近代化されていた。


「来たぞ!全方位!エンゲージ!!!」


AKMやPKP、その他の各々の装備を一斉に撃ち始め、次々とオーク達を殺害していく冒険者達。その中にはその集落の族長も含まれていた。


「...クリア!」


硝煙と砂煙が晴れて死屍累々の様が冒険者達に見せつけられる。

だが彼らのうち誰もこの光景に罪悪感は感じなかった。荒くれ者たちの集まりなのだから、それはそうなる。


「コンコン、失礼しまーす。」


先頭の男は明らかにふざけていた。偵察ドローンの情報から想定された人数からも、脅威になりうるものは掃討されたと考えられた。だから周りの男たちも笑っていた。


「...ハイッテクルナ!ブチコロスゾ!」


帰ってきたのはかなり若いオークの高い声。男たちは笑った。


「ハハハ、そうかよ。なら死ね」


その言葉とともに扉が蹴破られ、後ろに控えていた冒険者によって扉の前で待ち構えていたオークの少年は射殺された。




「アルファ制圧!そっちはどうだ?」


「おぅ!ベータ制圧!目標はいるぞ!まだ生きてる!!」


この作戦の目標はベータ、もとい奴隷の建物に捕らわれた要人の救出だった。


「あ...あぁ..」


「あー、だめだなこりゃ。」


「くそ、報酬は減らないだろうが...」


兵士たちに連れられて救出された彼女の目は昏かった。

恐らく碌でもない目に遭ったのだろう。


「...助けて、なんでもするから...」


「...手を出したら多分支払われねぇよな?」


「あぁ。ばれたらそうなるだろうな。」


「そうかよ。中々整った顔してやがるがな。」


「ここの女は大体そうだろ。後で買えばいいじゃねえか。妙な気は起こすなよ。」


こうしてそのオークの集落は破壊された。このようなことはこの世界で何件も起きていた。






九年前に起きた異世界と地球の戦争で侵略者の異世界に対して地球側が勝利。国連管理下に置かれた異世界はどの国の主権も及ばない無法地帯と化し、異世界においては高度な魔法を用いる地域以外は文字通り文明が消滅しまだ秩序を保っている地域も豪族や地域の有力者、大魔術師などが権力を得ていた。


その一方で、地球では異世界の『魔法』と呼ばれる技術によってもたらされたさまざまなエネルギーや技術によって歴史上稀に見る大きな技術的飛躍を遂げ、上流階級の人々はいわゆるユートピアのような生活を送るようになっていた。


その一方で、地球生命にとっては有害な物質である魔素を用いる技術である魔法は下層の労働者階級に対して深刻な健康被害をもたらし労働運動が盛んになった。これによりアメリカとロシアが革命により共産化し、ロシアはソビエト連邦を復活させるための戦争を、アメリカは西海岸に拠点を置く連邦政府と共産主義のカウンシル政府、そして中西部のテキサスのような独立を宣言した州政府の三者による内戦を続けていた。


日本さえも世界の混沌から逃れることは出来ず、某自動車会社や某グループ会社、某広告代理店などの支援下の経団連が日本政府を超法規的手段により買収。企業第一の政策を強要するようになった。

これにより魔素汚染が深刻化し、多くの人々が健康被害に苦しみ日本の山河はひどく汚染された。




そんな中多くの地球の人々は魔法で出来た新たな世界に希望を抱いていた。

こんなクソみたいな世界から脱出できるかもしれない。そんな思いが多くの人々を異世界へと駆り立てた。


そして、ある一人の日本人の男が、後に歴史に名を残し賛否両論を引き起こす彼が異世界の地に足を踏み入れようとしていた。


彼の名はヤブサメ。これが本当の名かは分からない。とりあえず、彼の名はヤブサメである。

彼の目的はただ一つ。


「あぁ、銀髪ロング美少女と幸せな生活を送りてぇ。」


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