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【一般】現代恋愛短編集

せっかくの相合傘なのにゲリラ豪雨だなんて!

作者: マノイ

 前の席の大竹さんはガードが堅い。


 夏でもインナーを着てブラ透け対策しているし、髪も肩の高さギリギリまで伸ばしているからうなじが見えない。

 体育後の対策もばっちりで漂ってくるのは女の子の香りでは無くて制汗スプレーの香りだ。


 可愛い女の子の後ろの席でありながら、その恩恵を活かしきれていないのがとても虚しい。


 なんて言ったら間違いなく男子達に怒られるだろう。


「ねぇねぇ金子クン。ミニモン風土の記録更新されたの知ってる?」

「ええ! 本当に!? レギュは?」


 何故ならその大竹さんとそれなりに仲良くなっているからだ。




 もちろん今の席に決まった当初はそんなことは無かった。

 大人しい陰キャ寄りの僕は、陽キャの大竹さんから見たらカースト下位のゴミのような存在であり本来であれば関わることすらあり得ない。

 僕に出来るのは大竹さんの背中を見て色々と妄想に浸ることくらい。


 でもそんなやましい視線なんて女の子にはお見通しだったのだ。


『私の事見てたでしょ』


 その時から僕は大竹さんのオモチャとなり果てた。


『喉乾いた。金子クン買って来てよ』

『金子クンって普段何してるの。どうせ女の子が出てくるアニメばかり見てるんでしょ』

『気持ち悪いからこっち見ないでくれる?』


 オモチャと言ってもパシリや軽い罵倒程度なので人によってはむしろご褒美かも知れない。

 僕もまぁ、その、悪い気分ではなかった。

 だって僕に悪い事を言う大竹さんの顔は心底気持ち悪い物を見るような目つきではなく、口角を上げて揶揄からかっているようなとても可愛い表情だったから。


 はぁ、今日もまた大竹さんに弄って貰えた。

 そんな少し歪んだ幸せを享受する毎日が変化したのは、大竹さんの揶揄からかいが原因だった。


『何見てるの?』

『あ、ちょっと!』


 休み時間にスマホで動画を見ていたら、大竹さんがそれを奪い取ったんだ。


『どうせキモいサイトでも……え?』

『キモくないよ! ……多分』


 僕が見ていたのはエッチなサイトでも、可愛い女の子が出てくるアニメでも、Vtuber 的なものでもない。

 一見普通に見える・・・・・・・・ゲームのプレイ動画だ。


 だからきっと『なぁんだ、つまんない』なんて言って返してくれると思っていた。

 でも大竹さんは予想外の反応を示した。


『金子クンってこういう動画好きなの?』

『うん』


 好きどころではない。

 大好きだ。


『そうなんだ。そっか……』

『大竹さん?』


 その時の大竹さんは珍しく真面目な表情で僕のスマホを見て何かを悩んでいる様子だった。


『もしかしてこういうプレイ・・・・・・・を自分でもやってたりする?』


 他の人が聞いたら誤解されそうな表現だ。

 可愛い女の子が口にしたら男の子は勘違いしてドキドキしちゃうよ。


 尤も、その時の僕は驚きでそのことに気が付かなかったけれど。


『うん、やってるよ。もしかして大竹さん、その動画が何か分かるの?』

『金子クンもやってるの!?』

『え?』

『私もRTA好きなの!』


 RTA。

 リアルタイムアタックの略で、いかに素早くゲームの条件をクリアするかを競うジャンルのことだ。

 分かりやすいのは横スクロール型アクションで全部のステージをクリアするまでのスピードを競う、とかかな。

 僕はこのRTAが好きで自分でも挑戦して海外のサイトに記録を投稿してたりする。


 まだまだマイナーなジャンルなのでリアルでRTAを走っている人に会ったこと無かったけれど、まさか大竹さんもRTA走者の一人だったなんて。


 ひょんなことから僕らは共通の趣味があると分かり、一気に仲良くなったんだ。




「Any%。しかも新ルートだったんだよ!」

「うわ、マジか。早く見ないと」

「金子クンが見てないなんて珍しいね」

「昨日はドクソの新ルート開拓してたんだよ」

「どうだった?」


 大竹さんは興味がある話だと顔を僕の方に近づけることが多い。

 その度に僕はドキドキしっぱなしだ。


「ノ、ノーミスで0.5秒短縮かな。しかも難易度かなり上がる」

「うわ微妙」


 何を言っているのかきっと分からない人が多いだろう。

 重要なのは、対等な立場で自然に楽しくお話が出来ているという事だ。


 そして人間というのは欲が出るもの。

 距離が近づいたのなら、もっと近づきたくなるのは当然のことだと思う。


 大竹さんと付き合いたいなぁ……


 告白する勇気なんて無いけどね!


「あ、ヤバ。もうこんな時間」

「本当だ。そろそろ帰らないと」


 放課後にRTA談義をしていたらかなり遅い時間になっていたので慌てて帰り支度をする。

 そして昇降口から出ると小雨が降っていた。


「あれ、無い!」


 大竹さんは鞄の中を探して焦っている。

 どうやら折り畳み傘を持って来ていなかったようだ。


 これはもしかしてチャンスじゃないか?

 行け!勇気を出すんだ!男だろ!


「良かったらい、一緒に入ってく?」


 ぐわあああ、噛んだああああ!

 意識してるのモロバレじゃないか!


「う~んどうしよっかな~」


 ほらぁ、久しぶりに揶揄からかいモードになってるよ。


「ふふ、私と一緒に帰りたいの?」


 くっ……めっちゃニヤニヤしてる。

 でも、これってワンチャンあるってことだよね。


「う、うん」


 終わった。

 だからなんで僕はどもっちゃうんだよ。


 そこは爽やかに即答するところでしょ。


「あはは、いいよ。それじゃあ駅まで入れてって」


 なんだって!

 まさか相合傘してくれるなんて!


「ほらほら、早くいこ。暗くなっちゃうよ」

「う、うん」


 学校から駅までは歩いてニ十分くらいかかる。

 それまで大竹さんと二人っきり。


「それでさっきの話だけど」


 そうか、大竹さんはきっとまだまだRTAの話をし足りなかったからこうして一緒に帰ってくれてるんだ。


 でも僕は大竹さんと肩が触れ合っていてドキドキが止まらず話どころでは無かった。

 だってこれまで大竹さんは仲良くなっても鉄壁のガードで触れる事すら無かったんだもん。


 雨の中なので残念ながら近くても女の子の香りはしないし、肩以外は触れないような体勢になっているけれど、それだけでも女の子に縁のない僕にとっては絶頂気分だった。


「……クン。金子クン。ねぇ、聞いてるの?」

「え、あ、ごめん。なんだっけ」

「もう」


 子供っぽく頬を膨らませる大竹さん。

 そんな可愛らしいことをしたら逆効果だよ。


 僕がまともに返事をしてくれないからか、大竹さんは僕に話しかけるのを止めてしまった。

 しまった、せっかくもっと仲良くなるチャンスだったのに怒らせてしまうなんて。

 傘と鞄で両手が塞がっていなければ頭を抱えてしまっただろう。


 でも彼女は別に怒ってはいなかったようだ。

 ただ、これまで見た中で一番意地悪そうな笑顔を浮かべていた。


「金子クンって私のこと好きだよね」

「えっ!?」


 いきなり僕の気持ちに探りを入れられて動揺してしまった。

 図星だったとはいえ、こんな露骨な反応をしたらバレバレじゃないか。


 悪魔の笑みが更に深くなってる!


「ふふ、ほらほら吐いちゃいなさいよ」


 気持ちを見抜かれていたことに対する動揺と、至近距離の可愛い笑顔のダブルパンチで僕はノックアウト寸前だった。


「も、もしそうだったら付き合ってくれるの?」


 う~ん、これは酷い。

 なんて男らしくないんだ。


「はぁ……」


 ジト目で睨まれてしまった。

 これは間違いなく幻滅されてしまっただろう。


「どうしよっかなぁ。私、男らしい人の方が好きなんだよね~」


 ぐっ……これは確実に情けないところを責められている。


 でも待てよ。

 もしも僕が男らしく好きって答えていたら大竹さんはどう答えていたんだろう。


 絶対にダメだと思っていたけれど、こうやって聞いてくれるってことはワンチャンあり?

 いやいや、そんなことあるわけがないじゃないか。

 こんな男らしくない陰キャなんて恋愛対象として見れるはずがない。

 友達っぽく接してくれていることがすでに奇跡であって、彼女にとって僕は単なる共通の趣味がある揶揄からかいの対象でしかない。


 う~ん、こうやってウダウダ悩んでいるから男らしくないってことなんだよね。


 この先、これ以上の告白チャンスがあるとは思えない。

 だったらここで玉砕してやる!


「僕が大竹さんのことをどう思っているか教えてあげる」

「え?ふ~ん」


 僕の決意を彼女は察したみたいだけれど、揶揄からかううような表情は崩れない。

 これはダメだろうな。

 でももう退けないんだ。




「僕は大竹さんが好きです!」

 バリバリバリバリバリバリバリバリ!

「きゃあっ!」




 こんな漫画みたいなことある?

 告白するタイミングで雷が鳴るなんて。


「うわ、雨が!」


 しかもその雷を合図に雨が滝のような猛烈な勢いに変わった。


 ゲリラ豪雨だ!


「大竹さん大丈夫?」

「……」


 さっきの雷があまりにも凄い爆音だったからか、大竹さんは怯えているようだった。

 話しかけたけれど、豪雨と絶えず鳴り響く雷のせいで彼女の言葉が聞こえない。


 まずい、大竹さんも結構濡れちゃってる。


 小さな折り畳み傘だ。

 さっきまでは彼女の方に寄せていたから僕だけが濡れていたけれど、これだけ酷い雨だと普通に傘をさしていても濡れてしまうだろう。


 雨宿りしたいけれど、程よい建物が近くに無い。


「大竹さんごめん!」

「きゃっ」


 僕は大声で謝ってから大竹さんの体を強く自分の方に引き寄せた。

 右腕を後ろから腰のあたりに回して鞄で彼女の足元が濡れないようにガードする。

 左手に持つ傘を彼女の真上に位置するように移動させ、なるべく濡れないようにして歩き出す。


「……が!……ちゃう!」


 大竹さんが何かを言っているようだけれど、全く聞こえない。

 雨の勢いは傘を穿つのではと思える程で、片手で支えるのがあまりにも辛いが歯を食いしばって耐える。


 少し先にコンビニがある。

 あそこでまで行けば雨宿りが出来る。


 だがもう少しでコンビニの敷地に入れるといったあたりで、大きな問題が発生した。


 車道に深い水たまりが出来てる!


 車が通るたびに歩道に水が飛び跳ねている。

 車道側を歩いているのは僕だから大竹さんにはかからないとは思うけれど……


 しかし運が悪いことに、僕達がその近くを通過する時に大型トラックが勢いよくそこを走り抜けた。


「大竹さん!」

「!?」


 僕の頭まで到達する程の大きな水しぶき。

 体を彼女の方へと向けてそれからなんとか守ろうとする。


「ぐうっ!」


 波を浴びたかのような感触で体中がぐしょぐしょだ。

 でも体を張ったおかげでどうにか大竹さんへの被害は最小限で抑えられたようだ。


 再度被害を受けないうちに、僕らは急いでコンビニの軒下へと移動した。




「くはー酷い目に遭った」

「金子クン大丈夫!?」


 ようやく大竹さんの声が聞こえるようになった。


「あははは、全身ぐっしょりになっちゃった。でも大丈夫だよ」


 そう言いながら僕はずぶ濡れになった鞄を開け、ビニールに入れてあったタオルを取り出した。


「はい、これ使って」

「え?」


 最近は突然の雨が多いからタオルを持ち歩くことにしている。

 必死で守ったけれど、大竹さんも結構濡れてしまったのでこれで体を拭いてもらおう。


「でも……」


 あれ、なんで受け取ってくれないんだろう。

 もしかして僕が使ったやつだと思って躊躇してるのかな。


「安心して。これは洗い立てので使ってないやつだから」

「そうじゃない! 私より金子クンが拭かないと」


 なんと、僕なんかのことを心配してくれるんだ。

 すごい嬉しい。


「ここまで濡れちゃったら小さなタオル程度じゃ意味ないって。だから遠慮なく使ってよ。そのままだと風邪ひいちゃうからさ」


 そう言って僕は大竹さんにタオルを強引に押し付けた。


 ちなみに雨濡れ制服定番の透けブラはもちろん無い。

 ああ、とても残念だ。


「後ろ向いてるから終わったら教えてね」


 肌を晒しているわけではないけれど、体を拭いているところなど男には見られたくないだろう。


「金子クン、背中!」

「背中がどうしたの?」

「どうしたのって……」


 もしかしてかなり酷いことになってるのかな。

 トラック&水たまりだったから汚かったのかも。


 大竹さんはそれ以上は何も言わなかった。

 きっと今ごろ体を拭いているのだろう。


 しかしどうやって帰ろうか。

 こんなびしょぬれで電車に乗るのはNGだよね。


 なんて考えていたら頭に柔らかなものが触れた。


「大竹さん?」

「黙ってて」


 彼女は僕が渡したタオルで僕の頭を拭いてくれている。

 あれ、もしかしてこのタオルって大竹さんの体を拭いたやつじゃあ……

 そんな邪なことを考える間もなく、タオルは直ぐに水を吸ってぐしょぐしょになってしまった。


「だから意味ないんだって。でもありがとう」

「まだ終わってない。ほら、後ろ向いて」

「ええ?」


 タオルを回収しようかと思ったけれど、彼女は手を放してくれなかった。

 なんと彼女は何度もタオルを絞って僕の体を拭いてくれたのだ。


「もういいって」

「黙ってって言ってるでしょ」


 何度も絞ることで手が疲れてしまうだろうし、肌が痛んでしまうかもしれない。

 だから止めさせたかったのだけれど、彼女は決して止めようとしなかった。


 その甲斐あってか、水を吸って重かった制服が多少はマシになった気がする。


「大竹さんありがとう」

「お礼を言うのは私の方だよ。守ってくれてありがとう」


 ようやく一息ついて僕は大竹さんにお礼を言った。

 すると驚くことに彼女はこれまで見たことが無い程に柔らかな笑顔を浮かべていた。


 やめてくれ。

 そんな笑顔を見せられたらもっと惚れてしまうじゃないか。


 照れくさくて思わず視線を逸らそうとしてしまったが、その前に重大なことに気が付いた。

 なんと大竹さんの顔がほんのりと赤みをさしていたのだ。


「大竹さん大丈夫? 風邪ひいちゃった?」


 ああ、やっぱり濡れて体調を悪くしてしまったのかもしれない。

 どうしよう、これ以上悪化する前に早く家に送り届けないと


「ら、大丈夫!」

「ら?」

「気にしないの! 本当に大丈夫だから気にしないで。それより金子クンこそ風邪ひいちゃうよ」


 大竹さんが焦っている姿なんて初めて見たよ。


「僕は大丈夫だよ。風邪あまりひかないタイプだから」

「そう、強いんだね」


 体育以外の運動は特にしてないし、体が強いわけじゃ無いけれど風邪とは無縁の生活を続けていた。


「お、雨が止んで来たみたいだよ」


 念のためスマホで雨雲の情報を確認すると、もうじき完全に止むらしい。


「じゃあこれどうぞ」

「え?」


 僕は折り畳み傘を大竹さんに差し出した。


「雨が止むの待ってたら遅くなっちゃうからね」

「でもそれだと金子クンが」

「僕はこれじゃあ電車に乗れないから親に迎えに来てもらうよ」


 親は今日は帰るのが遅いからしばらく時間を潰さなきゃダメだけどね。


「…………それじゃあ私も迎えに来てもらおうかな」

「え?」

「一緒に待ってて良いよね」

「う、うん」


 拭いたとはいえ鞄とか酷く濡れているところがまだあるからそっちの方が良いのかな。


「…………」

「…………」


 僕達はコンビニの軒下で雨が弱くなるのを眺めながら迎えが来るのを待った。

 すでに辺りは暗くなっている。


 外は蒸し暑いから店の中で待っていた方が良いと思うんだけれど、もしかして僕に気を使ってくれているのかな。

 僕はまだぐしょぐしょで店内に入るのは憚られるから。


 とはいえ、なんで無言なんだろう。

 ゲリラ豪雨に会う前までは積極的に話しかけてくれたのに。


 正確には無言じゃないか。

 僕には聞こえない程の音量で何かを呟いてる。


「あんな……男らしい……」

「ドキドキが……止まら……」

「うわわ……どうし……本気に……」


 チラっと横目で見ると百面相になっていて可愛い。

 でも見続けるのは失礼かな。

 普段後ろ姿をガン見している僕が言うのも何だけれど。


 しかし大竹さんの迎え結構遅いな。

 彼女が帰ったら移動して何処かで時間潰そうかと思ってたんだけれど。


「大竹さん」

「ひゃい!?」


 まるで僕みたいなキョドり方をしている。

 変な大竹さん。


「迎え結構遅いね」

「う、うん、この時間だから渋滞してるんじゃないかなぁ、きっと、多分」


 何故そこで目線を逸らすんだろう。

 やっぱりいつもの僕みたいだ。


「ずっと立ってたら疲れちゃうでしょ。確かこの近くにカフェがあるからそこまで送るよ」

「え……大丈夫。全然疲れてないから、ほら、この通り」

「そんなキャラだっけ?」

「!?」


 突然屈伸を始めたから思わずツッコんじゃったよ。

 ここはスルーすべきだったか。

 羞恥で真っ赤にさせてしまった。


 でも何で我慢してるんだろう。

 カフェでお金を使うのが嫌なのかな。

 そのくらい奢るって言うのが男らしさなのかも。


 はぁ、ほんと僕ったらダメダメなんだから。


 などと小さな自己嫌悪で凹んでいたらようやく大竹さんの方から話しかけてくれた


「あ、あの……」

「なぁに?」


 言い辛い事なのだろうか。

 もじもじしている。

 その姿がたまらなく愛おしくて、ドキドキする。


 そういえば今も大竹さんと二人っきりじゃないか!

 ゲリラ豪雨のことで慌てて完全に忘れてた。


 一旦意識し出すと、体が濡れていることによる不快感が吹き飛び彼女の事しか考えられなくなる。


 しかも、だ。

 大竹さんはとんでもないことを言い放った。


「さっきの答え、言うね」

「さっきのって?」

「……雨が強くなる前に、金子クンが言ってくれたこと」


 雨が強くなる前の話。


 確かその時、僕は大竹さんに揶揄からかわれていて玉砕してやるって勇気を出して……


 え、あれ、まさか、そんな。


 あの時の話で『答え』が必要なことって言ったらアレしかないじゃないか。


「……もしかして、聞こえてたの?」


 彼女はこくりと小さく頷いた。


 なんだって!

 まさかあの鼓膜が破れるのではと思える程の爆音の中での告白が届いていたの!?


 うわああ。

 今更ながら恥ずかしくなってきた。


 でもそっか。

 だから大竹さんはずっと挙動不審だったんだ。


 僕の告白が中途半端に途切れてしまったから、どうやって断ろうか悩んでたんだよね。

 あの揶揄からかっている時なら気軽に断れる空気だったけれど、その雰囲気がリセットされちゃったから言いにくかったんだ。


「さっきの金子クン。とても格好良かったよ」

「え?」


 すでに答えは分かり切っているのだと思い込んでいた僕は、予想外の言葉に目を見開いた。


 僕が格好良かった?

 そんなシーン何処にも無かったと思うんだけれど。


 そう困惑する僕に、彼女は『答え』をくれた。



 

「私もあなたが好きです」




 また揶揄からかわれているのかもしれない。

 とは思わなかった。


 だって今の大竹さんの姿は誰がどう見ても恋する乙女だったのだから。


――――――――


 晴れて恋人同士になった僕と大竹さん。

 でも二人の関係は大して変わらなかった。


 RTAのことで盛り上がり、揶揄からかわれ、時々イチャイチャする。


 ああ、でも一つだけ大きな違いがあるかな。

 彼女は恋人に対してガードがとても緩くなるタイプだったのだ。


 今日も僕は授業中に彼女の背中を眺めている。

 そこにはこれまで見えなかった魅惑の紐が透けて見えていた。


 授業が終わると彼女は振り返りきっとこう言うだろう。


「えっち」


 そして僕はその照れと揶揄からかいが混ざり合った笑顔にときめいてしまうのである。

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