夏の地縛霊
16度目の夏が来た。昔はおばあちゃん家に行けるだとかお祭りだとかで胸が騒いだけれど、最近はそのときめきも薄れてしまったように感じる。少しばかり大人になってしまったのかもしれない。案外成長ってつまんないものなのかもしれないと思う。きらきらしててなんかわかんないけど凄く楽しかったあの頃の夏にいつまでも囚われてしまっている。幽霊みたいだ。あの頃に戻れたら。少し勇気を出していたら。もっと未来は変わっていてくれたのだろうか。ニートになってしまったので今はもうないけど、中学生の時にあった宿題を思い出す。ー将来の夢はなんですか?ー中学生の頃の宿題なのに。今になっても正解がわからずにいる。人の役に立ってある程度お金が稼げる仕事につきたかったけれど、過去のトラウマによって形成された今の自分には無理で道は塞がれた。あの頃の夢が僕を笑う。そう言えばあの楽しかった夏には君がいた。けれどもうそれは無くなってしまった。いい思い出は成仏するべきだ。墓に手を合わせてその思い出を弔う。 そうだ死んでしまったんだ全部。それらを殺したのは間違いなく僕だ。あの頃の僕も君も全部。ずっと君が他の誰かに笑いかけてたのが苦しかった。満たされない好きは呪いだった。だけどまた僕に笑いかけてくれるのを信じていたかったから。
気づかぬ間に周りはすごく変わってしまった。小さかった友達がもう中学生になっていた。下の兄弟は背を越されそうになった。幼馴染には彼女ができて、なにより1番変わってしまったのは僕自身だった。街の景色はこんなにも変わらないのに。大人になるためとついた嘘は僕を子供にさせた。
夏休みの地縛霊なんだ。ずっと離れられずに。僕はまだあの頃の夏を忘れられずにいる地縛霊だ。
夏になるため春が桜を枯らした。夏が終わったので秋が切なくなった。冬には虫が凍えた。
本当に僕は馬鹿みたいだ。勝手に変わって勝手に苦しんで。夏がどうしようもなく好きだった。いや大好きなんだ今も。呪いだとしても夏を愛してた。悪戯に笑う君が好きだった。
夏の地縛霊/儚世 の小説版です。曲も聴いていただくとありがたいです。