中子
広い間が眼前に飛び込んできた
光の差す方へ進み始めて3分くらいだろうか
ちょうど学校の体育館程度の広さの薄暗い間だ
暗さの理由は色だろう
床全体が黒よりの灰色で周りの壁は黄土色の岩だ
床は大理石のように見えるが触ってみるとワックスがかかっているような感触だ
なるほど滑って転ぶことはなさそうだ
そしてそれ以上に気になるのが部屋の中央だ
高さ約6mくらいまで盛り上がっており、まるで祭壇のように佇まっている
そういえばどこから光がきているのかと思い上を見上げれば天井が真っ白に光っていた
あれが明かりをもたらしているのだと納得するが同時にあれは外の、太陽の光ではないと薄々感じた
太陽のような温かみは感じられなかった
ただ、ここは暑くもないが寒くもない、適温だ
不思議な場所だなぁ、と若干呑気に考えながら部屋内を練り歩いていると中央祭壇を登る階段を見つけた
少し躊躇ったが結局登った
情報が少なすぎる今、慎重すぎる行動は寧ろ危険と判断したのだ
段々天辺が見えてくるが上の光には全く届きそうにない
かなり高い位置にあるのだろう
ついに頂上にたどり着いた
足場は目測で大体横1m縦3mといったところか
端に何かが置いてある、いや祀られてると表記した方が良いか
それは上の光に当てられてなんだか神々しささえ感じられる
刀だ
日本刀が台座の上に祀られてる
この時点で一香の頭は混乱でパンク寸前に陥ったが、目の前の刀以外の情報処理を停止させるという画期的な解決策によって窮地を脱したのだった
刀か、そういえば少し離れていたな
一香の祖父は小さな剣術道場の師範であり彼女も幼少の頃から足繁く通っては稽古に励んでいた
高校に入ってからは回数も減ったがさて今はどうだ、腕は落ちていないだろうか
昔の記憶から戻ってきた時には既に彼女の手に刀が握られていた
ガチャン!
突如音が響いたと思ったらガラガラと壁が崩れるような音も聞こえてきた
悪いことをしてしまった後のように慌てて階段を降りて見てみれば壁に穴が開いていた
入ってきた穴とは真反対の方向だ
祭壇の階段を登るときには空いていなかったので間違いない
刀が起動装置だったのだろうが一香にはもう訳がわからなかった
どういう仕組みだとか、ここが何処なのか、そもそもどうしてここに居るのかとか
だが考えてもわからないことは処理速度の遅い彼女の頭でもすぐに理解できた
それ以上にこの穴を潜ってみたいという得体の知れない好奇心と形容すべきもわからない興奮が彼女を突き動かした
若干の笑みを浮かべた時には既に歩き出していた
歩きながら刀を腰のベルトに差した
差した後もポジションを調整したり抜き差しを確認した
いつ襲われても対処できる心構えこそが居合の真髄だ
祖父に習った剣の教えを心の中で反芻していた
刀の鞘は漆塗り、木を合わせて作られた普通の鞘
鯉口を切って刀を抜く
ぎらりと輝く刀身を眺めるがこちらも一見普通の刀だ
刀を見慣れている人間など現在は珍しいだろうが、一香はそのうちの一人だ
刃もしっかり付いている刀身は2尺6寸、刃紋は直刃のずっしりとした本物の日本刀
身長171cmの一香にはやや大きいか、しかし彼女には寧ろ扱いやすかった
もっと長い獲物でも良いくらいだったそうな
刀の調べが終わったところで穴も抜けたようだ。