黒霧
学校が終わればすぐに外へ飛び出す
今日はどこを行こうか
字面だけ見れば青春を謳歌してるようだがそうではない
むしろ一香はさっさと家に帰り布団の中でスマホ片手に怠惰を貪りたい
だが、そうも言ってられない事態がここ一週間彼女を突き動かしている
彼女の親友、内田舞がここ一週間行方不明なのだ
捜索願いは当然出ているが警察も手掛かり一つ見つけられない
痺れを切らした一香は自ら捜索に乗り出している
最初は誘拐だと思い見つけ出して犯人の顔をぶちのめしてやりたい気持ちで一杯だった
だが、それにしては手がかりがなさすぎる
ただのチンピラの仕業とも思えない
かと言って警察の巨大なネットワークの目を掻い潜る程の犯罪集団が一塊のjkにすぎない舞を狙うのだろうか
彼女は別に特別な生まれでもすこぶる秀でた能力があるわけでもない
身代金目的でないことはこの一週間の沈黙からして明確だろう
とはいえ一香にも当てがあるわけではない
それっぽいところを適当に散策しているだけだ
どこかで遭難しているのだろうか
しかしお世辞にも活気があるとも言えない微妙な田舎であるこの辺りにおいても、そんな遭難するような複雑な立地などない
強いて言えば道のはずれにある雑木林くらいだろうか
それにもう一週間だ
仮に遭難なら私の散策の果ては遺体回収になってしまうかもな
碌でもないことを考えながら閑散とした砂利道を歩く
歩きながら彼女、佐村一香は考える
そういえば舞と友達になったのはいつからだっけ
小学生の時同じ帰り道だったのがきっかけだったか
別にいじめられてたことはないが友達もいない私に唯一付き合ってくれていた
大親友だとは思っていなかったが今の自分の行動を鑑みれば私にとって大事な存在だったのだろう
失って初めて価値がわかるというがなんとも...
複雑な内心の一香とは裏腹に外の気温は穏やかだ
もう春だ、桜もそろそろ咲く頃だろう
気持ちのいい天気の中散歩するのは心地が良い
目的は穏やかではないが常に緊張感を保ち続けられる人間などいない
こんな天気の中何も持たず制服と身一つで歩いていれば鬱憤とした気も消えてしまう
時間が経ちすぎたのもあるだろう
なお、一香はヤンキーではないが学校での態度は極めて不真面目だ
カバン一つ持たずに学校にくる態度に真面目さを見出すにはは無理がある
無駄に身体能力は高く言葉数も少ない、そのくせ妙に堂々と
しているため不気味がられ、先生含め舞以外誰も彼女に近寄らない
だが一香にとってそんなことは今も昔もどうでもいい
特に今はそれどころではない
どれくらい歩いただろうか
あたりはすっかり暗くなって今日の行動の終わりを感じる
またダメか
半ば諦めがついていたが考えるより動いていないと落ち着かない性分のため仕方がない
今日も諦観と焦燥を背負いながら帰路へ着くのだった
いや、まて!
おかしいぞ
さっきまで真昼間だったじゃないか
幾ら冷静じゃなくともそこまで時間を見失うほど追い詰められてはいない
皆既日食じゃあるまいし
15時から僅か10分で日が落ちてたまるか!
ここは、どこだ!?
散策する場所はどこも一香が行ったことのある所ばかりだった
さっきだって田んぼ道を越えた先にある神社の境内を通り過ぎただけだ
昔よく舞と遊んだことのある神社
道に迷うような複雑な作りはしていない
ちょっと外れれば住宅街だ
だが、周りに人工物はない
しかし木々が多い茂ってるよいな感じでもない
暗くて周りが見えないが、目の前に一本の道が続いている
引き返そうにもどっちが引き返す方かわからない
道の向こうに光が見える
若干の畏れと強い好奇心が胸の内から湧き上がるような変な気分だ
ここから先は茨の道だろうな
何故かそんな気がしたがそれでも良いという気分も湧いてきた
自分でもよくわからない
それでも、一香の足は光の差す方へ歩を進めていた