赤い紙と青い紙
古びた公園の公衆トイレ。
それは絶滅危惧種であろうぼっとんトイレだった。鼻をつんざくようなにおいを耐えながら用を足していると、隣からおどろおどろしい声が聞こえてきた。
「赤い紙・・・青い紙・・・。」
小学生の頃、うわさで聞いた学校の怪談。
赤い紙と答えたら体から血が噴き出し辺りが真っ赤に、青い紙と答えたら血が抜かれて顔が真っ青になってしまうという話。
つまり、どっちを答えても殺されてしまう。
まさかそんな怪談に、大人になった今になって遭遇するとは思ってもみなかった。
――対処法、対処法は何だっけか・・・?
回避する方法があったはず・・・だが。完全に忘れていた。
「おい、そこにいるのは分かっているんだ。赤い紙・・・青い紙・・・。」
――やばいやばいやばいやばい。
急いでドアを開けて逃げようとしたが・・・鍵が開かない。
隣から聞こえる声は、さらに殺気立ったものになった。
「赤い紙か・・・青い紙・・・どっちかをくれ・・・。」
――え!?どっちかを選べじゃなくて?
「緊急なんだ・・・赤い紙、青い紙・・・どっちでもいいから投げ入れてくれ・・・。」
とりあえず、目の前に積まれていたピンク色のトイレットペーパーを、言われたとおりに投げ入れた。
「はああああああああ。」
昇天するかのような、幸せなため息が聞こえてくるのと同時に、個室の床が真っ赤になった。
上からたくさんのバラの花びらが舞ってきたのだ。
そうしているうちに鍵も開くようになり、ようやく僕も個室から出られるようになった。
帰り際に、声が聞こえた隣の個室をおそるおそる見ると・・・ドアは開いており、誰も入ってはいなかった。
――まあ、よくわかんないけど、無事だったからいいか。
でも、ちょっと怖かったこともあって、それ以来、公園のトイレを使うことは、もう、なかった。
読んでいただき、ありがとうございました。